第162話 姉の代わりにVTuber 162
「えぇ~~っと、話が見えないんだけど?
なんで、俺に頼むんだ? 頼むとしたら相手役でもある、大貫(おおぬき)に頼むのが良いと思うけど?」
穂高)ほだか)は、瑠衣(るい)の提案から至極当然な意見を口にした。
「そりぁ、俊也(しゅんや)と練習する方が良いけど……。
ほら! 毎回、毎回お互いに予定が合うわけじゃないじゃん?
となると、相手役を探さないといけないわけで……。
ねぇ? ハル??」
瑠衣の意見は少し強引に聞こえる部分もあったが、納得できる部分もあり、穂高は違和感を感じながら、張本人である春奈(はるな)に視線を向けた。
「そ、そうだねッ!
あ、天ケ瀬(あまがせ)君が手伝ってくれたら助かるなぁ~~。
他の男子には頼みずらいし……」
春奈は少し恥じらいながらも、自分の本心を告げ、春奈の振舞からして、瑠衣に言わされているようには、穂高には見えなかった。
「――でもなぁ……、俺、演劇とかやった事ないし……。
小さい頃やってたとしても、脇役とかで、主役級の役貰えるような奴じゃないしなぁ~~」
春奈からの頼みを受け慣れている穂高は、例にもれず、今回も力になれるものならば、協力したいと思っていたが、今回ばかりは自分は力になれないとそう判断していた。
そして、自信なさげにそう告げる穂高だったが、そんな穂高の言葉に食い掛るように、春奈が声を上げた。
「そんな事ないッ!!
あ、天ケ瀬君なら上手く出来ると思うし、何なら練習相手じゃなくて、本番ででも……」
「いや、それは無いだろ……。
今日の役決めで、俺、一票も推薦入ってないし」
穂高の自信の評価に、春奈は熱くそれを否定し、春奈の熱量に驚きつつも、春奈の最後の言葉は大げさだと、穂高は思った。
そして、穂高は一番気が掛かりであった事について言及する。
「第一、俺よりも先に頼る奴いるだろ?」
「第一に頼る人って……??」
穂高の言葉にピンと来ていない瑠衣に、穂高ははその人物の名を口にする。
「彰(あきら)だよ。
仲良くて、気心も知れて……、何より、このクラスで一番、ロミオに向いてる奴だろ?
大貫にも票は集まってたけど、票差で言ったら彰の方が上だったし、他薦だったから決まらなかったわけで……」
穂高は当時の事を思い返しつつ、彰の方が適任であると春奈たちに告げた。
穂高の言う通り、彰は他薦であり、自主的に立候補した大貫に役が決まり、票だけで見れば、彰の方が票を集めていた。
穂高に言われ、瑠衣は今思い出したかのように、あッとした表情を浮かべ、春奈も穂高の言葉に押され、口ごもる。
「お前ら……、今、気づいたのか……?」
瑠衣と春奈の様子を見て、穂高は半分呆れた様な口調で呟いた。
「い、いやいやッ! 気付いてたよ!? ねぇ? ハル??」
「――うッ、うん!
彰は……そのぉ~~……、忙しそうだったから……。
偏差値高い大学狙ってるのもあって、勉強大変そうだし」
「俺も受験あるんだけど……」
動揺が隠せていない瑠衣と春奈の発言に、穂高は違和感を感じ、彰が受験勉強で許され、同じ立場である自分は許されなかった事を、少しだけ不満に感じた。
穂高の返答に、いよいよ春奈と瑠衣は、何も言い返す事が出来ず、頼み込む相手に、失礼にも取れる発言をしてしまった事で、春奈は俯いてしまう。
途端に静かになってしまった教室で、穂高は溜息を一つ付くと、再び口を開いた。
「まぁ、俺は彰ほどレベルの高い大学目指してるわけじゃないし、勉強にも余裕があるから別にいいよ?」
「ほ、ホントにッ!?」
渋々といった穂高の答えに、頼む為の協力に来た瑠衣が真っ先に、喜びの混じった声を上げ、今まで俯いていた春奈は、勢いよく顔を上げ、驚いた表情を浮かべる。
「手頃な練習相手を考えて俺だったんだろ?
一番、引き受けてくれそうな奴に頼んで、断られるのも、キツいだろうし」
「ご、ごめんね? 天ケ瀬君……」
片手で頭を掻き答える穂高に、春奈は申し訳なさそうに、謝罪した。
「別にいいって……。
頼み事されるのは初めてじゃないしな?」
申し訳なさそうに告げる春奈に、そこまで気を使わせないよう、穂高は答えた。
穂高のそんな答えに、今まで、自分の事のように、嬉しそうにしていた瑠衣の表情が変わる。
「ん? 初めてじゃない??
――なんか、前にも頼み事したの? ハル」
春奈と穂高は、さまざまな出来事を経て、距離感が縮まり、春奈との会話も慣れてきていた為に、年の警戒心もなく、穂高はいつものように会話してしまった。
そして、そんな柔らかい口調で放った穂高の言葉が、瑠衣には引っ掛かり、瑠衣に指摘されたことで、春奈と穂高は、お互いにしまったと言わんばかりの表情を浮かべる。
「え? 何して二人で……。
――――とゆうか、前々から気になってたんだよねぇ~~、二人の関係には……。
なんか、最近やけに仲が良いとゆうか……、二人にそんな接点なかったよね??」
「な、なに言ってんのさ瑠衣~~。
天ケ瀬君とは一緒に遊んだ仲じゃない?
ほら、カラオケとかボーリングとかさ!?」
「いや、遊んでたけど……。
でも、私が知る限り、それだけじゃない??
一時期、二人で下校してた時期もあったし、海に行った時だって…………」
瑠衣はわざとなのか、段々とニヤついた表情へと変わり、穂高の前で、質問、疑問の嵐を投げかけられる春奈は、どんどんと焦っている様子に変わる。
そして、さまざまな疑問を元に、瑠衣は確信めいた発言を二人に投げかける。
「ねぇ……、もしかして、二人って付き合ってたり??」
「んなッ!? る、瑠衣ッ!!」
瑠衣の発言に、春奈は顔が真っ赤になり、春奈の反応は見ずとも分かっているのか、春奈の反応でなく、瑠衣は穂高に視線を向けていた。
しかし、瑠衣の期待に沿う反応を穂高は見せる事無く、飄々とした様子で、答え始める。
「杉崎が可哀想だろ? 俺に頼むのだって気を使ってるのに、そんなにからかうなよ……。
俺なんかが杉崎となんて、あり得ないだろ」
顔を赤くしていた春奈は、穂高の言葉を聞き、少しだけ寂しそうにしながら、『そうだ』と相槌を打ち、瑠衣の期待外れな穂高の反応に、瑠衣は少し残念そうな表情を浮かべた。
そして、瑠衣は小さく「なるほどねぇ~~」と呟いた後、続けて話した。
「天ケ瀬君、過小評価しすぎなんじゃない? 自分をさ。
私は、なんかが……、なんて思わないけど??」
「なんかだろ……。
天下の四天王を、万が一にも付き合ってみろ? 俺は次の日、男共に殺されるな。
文句が言われないのは、大貫とか彰とかだろ」
「そんな事ないと思うけどねぇ~~。
天ケ瀬君モテるじゃん!?」
「モテないよ。
彼女出来た事ないしな」
食い下がる瑠衣だったが、穂高は瑠衣の言葉を頑なに否定し、頑固なところを見せた。
そして、それ以上の追及を瑠衣が諦めた所で、今度は春奈が口を開く。
「あ、天ケ瀬君はモテるよッ!!」
「根拠ないだろ? それ」
頑なに認めない穂高に対し、同じくらい頑固な部分を見せる春奈に、穂高は思わず笑みを零した。
穂高と春奈のそんなやり取りを見て、瑠衣はそんな穂高の仕草が驚く程に自然に見えた。
(――やっぱ、お似合いじゃん二人……)
穂高の出会った頃と比べて、今の穂高の心の開き様に、瑠衣は純粋に二人を見て、そう思った。
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