第161話 姉の代わりにVTuber 161
◇ ◇ ◇ ◇
「ど、どうしてこんな事に……」
劇の役割決めが始めり、ロミオとジュリエットに配役が決まると、春奈(はるな)は大きく落胆し、俯きながら呟いた。
「やったね! ハルッ!!
主役だよ!」
落ち込む春奈に対して、瑠衣(るい)は屈託のない笑顔を浮かべていた。
「嬉しくないよ……。
――俊也(しゅんや)が余計な事、言ったせいで……」
「アハハハ……、ま、まぁ、アイツもアイツで何か考えがあっての事だろうし……」
瑠衣は、今度は乾いた笑いを浮かべながら、黒板へと視線を移した。
黒板にはジュリエット役には、杉崎 春奈(すぎさき はるな)の名前があり、ロミオ役には、大貫 俊也(おおぬき しゅんや)の名前があった。
瑠衣は、大貫の春奈に対しての好意に気づいており、春奈がそれに気づいているかは、分からなかったが、春奈の様子から大貫に脈がありそうには思えなかった。
(今年卒業だし、いよいよ焦ってアピールするは分かるけど、春奈にその気が無いのがなぁ……。
――――それに、最近のハルは、どちらかといえば、違う人で頭がいっぱいな様子だし……)
瑠衣は親友の交友関係について思い耽りながら、今度は黒板から、教室内でクラスメイト達と談笑する、一人の男子生徒に視線を送った。
(こっちもこっちで脈があるのか無いのか……。
また、愛葉(あいば)ちゃん、あまがせっちに絡んでるし……、こんな状況でいいの? ハル……)
瑠衣が視線を送った先にいたのは、穂高だった。
瑠衣は言葉には出さなかったが、春奈の現状を心配し、ここ最近、特に夏休みを過ぎてからは、極端に穂高と春奈の交流が減ったと感じていた。
その一番の原因としては、春奈の『チューンコネクト』のオーディションが終わり、面接の練習などが必要なくなった事が原因だった。
まるっきり交流が無くなったわけではないが、今までの関係を鑑みれば、明らかに交流は少なくなった。
(いきなり仲良くなったと思えば、極端に絡みが減ってくなんて……。
前々から疑問だったけど、何の繋がりで急に仲良くなったんだろう)
瑠衣は、春奈を心配そうに見つめると、春奈も不意に、先ほど瑠衣が送っていた視線の先を見つめ、それに気づいたのか、明らかに表情が曇る。
春奈の表情を見て瑠衣はついに我慢できなくなり、春奈にその話題を切り出す。
「喧嘩でもした?」
瑠衣の問いかけに、春奈はまるでピンと来ていない様子で、不思議そうな表情を浮かべる。
「喧嘩? 何のこと?」
「あまがせっちとだよ。
最近、話せてないじゃん。
夏休み前は、たまに二人で下校なんかもしてたのに、新学期始まってからは一度も無いし」
瑠衣の問いかけに、春奈は「あぁ、その事か」と一言、呟いた後、瑠衣の疑問に答えた。
「別に喧嘩なんかしてないよ?
今まで通り、普通に……、友達……」
変な心配をしていると思った春奈は、これ以上余計な心配をかけないよう、明るい口調で答え始めたが、改めて穂高との関係を言葉にすると、何故か自信が持てず、声に自信がなくなっていった。
「ほら~~、やっぱりなんかあったんでしょ??
良い機会だし、この文化祭を機に、また交流を深めれば良いじゃん!」
「文化祭を機にって……、どうするの??
――それに、私はジュリエット役を断るつもりだし」
春奈はいまだに、劇の役に対して納得あ行っておらず、そもそも、ジュリエットに選ばれたのは、推薦によるものだった。
様々な名前が推薦や立候補で上がる中、当然のように瑠衣や春奈、菊池 理沙(きくち りさ)の名前が上がり、多数決を取る直前に、大貫が春奈に太鼓判を押すような発言をした事で、一気に春奈に表が集まっていた。
「同性から告白される事も多い私が、ジュリエット役やればギャップがどうこうのって……。
似合うわけないのに」
「良いじゃん~、似合うと思うよ?
俊也にしては良い判断だったね!
――とゆうか、そんな事よりも!! 文化祭を機に天ケ瀬(あまがせ)君の交流を深める事について、私、良いこと思いついちゃった!!」
春奈が選ばれる事になった話題よりも、春奈と穂高が中を深める事について話したかった瑠衣は、強引に話題を戻し、ある作戦を思いついていた。
「なんか……、嫌な予感しかしないんだけど」
「まぁまぁ。悪いようにはしないって!
一先ず、放課後! 今日、少し付き合ってね? ハル」
満面の笑みを浮かべる瑠衣に、春奈は悪い予感を感じつつ、そしてその後、文化祭実行委員に、ジュリエット役を辞退する旨を伝えるも、春奈の希望が受け入れられる事は無かった。
◇ ◇ ◇ ◇
桜木高校 放課後。
ホームルームが終わるや否や、穂高は、瑠衣に空き教室へ呼び出されていた。
「――という事で天ケ瀬君!
ジュリエット役に選ばれたハルの手伝いをしてくれないかなッ!?」
「ま、マジ?」
放課後呼び出された時点で、あまり良い予感がしなかった穂高であったが、予期せぬ瑠衣の言葉に驚き、思わず声を零した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます