第160話 姉の代わりにVTuber 160


 ◇ ◇ ◇ ◇


「それではウチのクラスは、文化祭に劇を行う事に決定します」


文化祭実行委委員に任命された生徒がそう宣言すると、教室内はざわつき、多数決で劇に決まった事で、期待に胸膨らませる生徒が多数いた。


もちろん、不満を零す生徒も見受けられたが。ほとんどの生徒が楽し気に話している状況で、時間が経つにつれ、どんどんとその声は小さくなり、周りに感化されるようにして、前向きに劇について話し始めた。


「劇かぁ~~、去年もやったんだけどなぁ~~

――ハル……、今回はどの係に回る~?」


劇に決まったことで、去年と同じ出し物になってしまった四条 瑠衣(しじょう るい)は、退屈そうに呟き、春奈(はるな)に問いかけた。


「ん~~、私はあんまり演技とか出来ないだろうし、普通に裏方に回るかな……。

去年と同じく、小道具とか作ったり……」


瑠衣と去年同じクラスであった春奈は、劇を行う際の流れを何となく分かった為、文化祭の自分の身の振りようを、そんな風に考えていた。


そんな会話をしながら、春奈は黒板の前に立つ実行委委員に目を向けると、彼も劇を行ったことがあるのか、今後決めなければならない事に関して書き始めた。


「それじゃあ、まずは題目からですかね。

何の劇をやりたいですか??」


多数決で決まったという事もあり、実行委員は簡単にクラスに投げかけた。


「やっぱ劇って言えば、ロミオとジュリエットじゃないか?

パッと思い浮かぶ題材じゃん?」


「ロミジュリ~~?? なんか定番だし、正直詳しい話まではよくわかない。

敵国同士の姫と王子とかの話だっけ? 

――恋愛物でプリンセスの話なら、ディ〇ニーの方が良くない??」


「確かに! 美女と〇獣とかね!?」


中々お題目がピンとこない男子生徒に対し、女子生徒は次々と意見が出てきた。


そして、名前が上がるものが次々と黒板に出され、20いくかいかないくらいの候補が出た所で、実行委員がストップをかけた。


「ちょ、ちょっと待てお前ら。

もう、これ以上候補出しても、候補出す時間でこの時間が終わっちゃうから、もうこの中から選ぼうッ!!

今から2分間考える時間を設けるから、友達と相談しながら、2分後に多数決を取ります!」


実行委員の決断には、不満の声も少し上がったが、声が上がるだけで、実行委員の考えに、3-Bの生徒達は納得し、ざわざわと話し声が上がってきた。


「どうする? ハル??

私的には、美女と〇獣とか面白そうかなって思うけど」


相談し合う時間を設けられた瑠衣は、春奈に声をかけ、春奈の考えを尋ねた。


「ん? う~~ん、ロミジュリかな。

定番だけど、お話は面白いし、わからない物やるよりはいいと思う」


「ロミジュリかぁ~~。

それもいいけどぁ……、でも、やっぱり私は美女〇獣で、ベルの役をハルにやって貰いたいね」


「ぜっったい無理!

姫ってキャラじゃないし、私……。

姫か王子かって言ったら、どちらかといえば王子役に起用されると思う……。

自分で言うのもなんだけどさ……」


二やニアやと話す瑠衣に、春奈は不満そうに伝えた後、王子に抜擢されるであろう話を、自分で言っていてむなしく感じた。


「王子~~?? じゃあ、美女〇獣なら、野獣役に選ばれちゃうじゃん?」


「そ、そういう事じゃッ……!

――――いや、呪いが解けた時の王子役として、似合うからって理由だけで、選ばれる可能性があるのが怖い…………」


春奈に悪寒が走り、会話をする中で青ざめていく春奈を見て、瑠衣は声を出して笑う。


「アハハハッ! た、確かにあり得る!!

――でも、いいじゃん! 野獣……。

私のお母さんとかは、野獣の頃の方がカッコよかったのに……とか、映画見たとき言ってたよ?

確かに、愛らしく見える部分も多いし、野獣の頃の姿が好きって人、少なくないと思うけど??」


「見た目の話じゃないよッ!?

女子が美女〇獣の野獣役をやるっていう事が恐ろしいの!!

百歩譲って、ここが女子高ならまだしも、共学で男子生徒も沢山いるんだよ?

その中で選ばれるのは、ショックが大きいって」


的外れな事を言い、むしろ野獣役を進めているようにも見える瑠衣に、春奈は勢い良く反論し、野獣役を引き受ける事について全力で否定した。


「だ、駄目だ……、美女と〇獣だけは、選ばれないよう投票しないでおこう」


「えぇ~~~ッ!? やろうよ~~、美女〇獣。

私がベルやってあげるからぁ~~」


春奈にとって恐ろしい事を言い始めた瑠衣を無視し、春奈は黒板へと視線を戻すと、ちょうど時間になったのか、実行委員が口を開く。


「それでは、多数決を取りたいと思います!」


 ◇ ◇ ◇ ◇


「多数決の結果、3-Bに劇は、ロミオとジュリエットに決定しました」


実行委員がそう宣言すると、教室内からは、気の抜けた拍手と、少数不満げな声があがった。


「えぇ~~~、二票差で負けちゃった~~。

美女〇獣やりたかったなぁ~~」


多数決の結果、自分の希望が選ばれなかった瑠衣は、不満を零し、ギリギリの所で難を逃れた春奈は、冷や汗をぬぐった。


「――ロミジュリかぁ~~……。

配役どうするんだろ」


「ロミオはともかく、ジュリエットは候補いるじゃん。

瑠衣か梨沙(りさ)が選ばれんじゃない? 立候補しなくても他薦で、選ばれちゃうと思うけど……」


「はぁ~~……、あんまり気乗りしないなぁ」


四天王と異名が付くほど、異性から人気のある瑠衣は、過去にも似た経験があるのか、重い溜息を付きながら、俯いた。


そして、劇の進行に慣れた実行委員は、劇に必要な役割決めに入った。

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