第159話 姉の代わりにVTuber 159


「穂高(ほだか)君はどうする~~?

文化祭の出し物、結構迷ってるみたいだけど」


愛葉 聖奈(あいば せな)は、穂高に抱き着いたまま、楽し気に文化祭の話題を振る。


「ッ!? ちょ、ちょっと! あ、愛葉……、聖奈(せな)! 離れて!」


級に抱き着かれた穂高は、聖奈の質問に答えることはなく、一先ず自分から離れる様に促し、自分の体にまとわりつく、彼女の腕を解いた。


少し強引に法要を解かれた事で、聖奈は不満げな声を上げたが、すぐに調子を取り戻し、再び穂高に問いかける。


「ねぇねぇ! 穂高君は何したい~? 高校生活最後の文化祭だし、派手なことしたいよね~~」


「――別に派手な事とか、やりたい事は無いよ。

なるべく負担が無い出し物にして欲しいな」


穂高は以前聖奈に言われたように、他人行儀な口調でなく、なるべく砕けた話し方で答え、質問に答えながらも、元々話していた相手である、武志(たけし)や瀬川(せがわ)の様子を横目で伺った。


武志は聖奈の登場と、普通の高校生男女ではありえない程の距離感で会話する、穂高と聖奈に茫然としており、瀬川も穂高と聖奈の関係に驚いていた。


そしてそんな瀬川には、次の瞬間、聖奈と一緒に穂高達と訪れたのか、聖奈が普段仲良くしている女子生徒数名が一気に話しかけ、結果として武志だけが茫然と、一人ポツンとその場に取り残された。


「えぇ~~、穂高君あんまり文化祭興味ない感じなの?

――それとも、何かをやるより、回りたい感じ??」


「まぁ、どっちかって言えば回りたいな」


一応、本来ならば授業を受けているはずの時間ではあったが、文化祭の出し物決め中な事もあり、教室内は賑わっていた為、穂高は周りの目を気にする事無く、そのまま聖奈と会話を続けた。


「へぇ~~、そうなんだ~~。

じゃ、じゃあさ! 一緒に回ろうよ!! みんなで一緒にさ?」


聖奈は少しだけ顔を赤らめながら穂高にそう提案し、穂高は聖奈の言うみんなが、この場にいるメンバーだと察すると、少しだけ考えた。


(――別に当日どうするのか決めてなかったし別にいいか……。

女子が一緒っていうのが少し気を遣うかもだけど、瀬川は一緒だろうし、おそらく武志も一緒だろ……)


穂高は瀬川に再び視線を向けると、聖奈の友人である女子数名は、明らかに瀬川の事を狙っている雰囲気で話しかけており、瀬川には悪いと思ったが、聖奈と二人きりで回るという事にはならなそうな為、断る理由が見当たらなかった。


「いいよ? 当日特に予定も決めてないし……。

瀬川達が一緒なら」


「ホントにッ!? やった!

じゃあ、決まりね? 楽しみだなぁ~~……」


聖奈のここ最近の態度に、穂高は疑念を感じていたが、瀬川と一緒であれば、万が一でも大事にはならないだろうと考え、クラスどころか学園で人気の聖奈が、この文化祭を一緒に回ることで、自分に対して興味を薄れるだろうと考えた。


(まぁ、モテない男の思い過ごしだろうけど……、万が一、思い過ごしじゃなかったとしても、俺と一緒に回ったところで、つまらない男だって興味もなくなるだろう。

俺は大貫(おおぬき)達みたいな人気者じゃないしな。

つまらない男って結論に落ち着くはず……)


そして、聖奈と穂高のやり取りを聞いていたのか、瀬川に話しかけていたはずの女子生徒が、穂高と聖奈に話題を振り出した。


「それじゃあ、皆で回る為にも、当日割と自由が利く出し物にした方がいいよね?

誰か一人が当日、当番で回れない~~とか、可哀そうだし。

私なら萎えるし~」


聖奈と穂高に問いかけたその女子生徒の話題を皮切りに、瀬川達も含めた話し合いへと変わっていく。


「えぇ~~、ウチはライバル減るから、むしろありがたいけどなぁ~~。

当日瀬川君を独り占め!

――なんて事もあるかもしれないし。

瀬川君もその方がいいよね~~?」


「あ、いや……。俺は……、で、できればみんな一緒に……。

特に天ケ瀬(あまがせ)がいればありがたいけど……」


「ちょ、ちょっとアンタね? 瀬川君を困らせないでよ!

アンタと二人っきりで、瀬川君と間が持つわけないでしょ!!

せっかくの文化祭を、台無しにする気??」


穂高と聖奈が話している間、こんなやり取りが瀬川の周りで起きていたのかと、穂高はそこで分かり、瀬川の女性苦手がまた加速してしまうなと、他人事のように考えた。


そして、瀬川を取り合うような女性陣に、聖奈は嫌気が差したのか、彼女たちの会話に割って入る。


「いい加減にしなよアンタ達、みっともない……。

――当日は穂高君と瀬川が望むようみんなで回るの! いい?」


聖奈の権力が上なのか、聖奈が言い放つと彼女達は途端に素直になり、それ以上揉める事無く、文化祭の出し物について話し出した。


「――――じゃあさ? みんなで回るのであれば、屋台系はアウトじゃない??

お化け屋敷も当日出番があるし、店番とかも忙しそう」


「う~~ん、逆に当日暇になりやすい出し物ってなに??

三年だからしょぼい出し物するのも嫌だし、それなりの催しをするなら、やっぱり当日は忙しくなるんじゃないの??」


聖奈に一括された、聖奈の女友達達は、真剣に出し物に関して考え始め、聖奈も頭を悩ませた。


「穂高君……、なんか良い案ない??」


考えた聖奈はギブアップするように、穂高に問いかけた。


「そんな……、急に言われてな…………。

当日サボれる出し物…………。

意外と劇なんてアリなんじゃないか??

大がかりな劇だったら、小道具とか大道具の製作で、当日は演者以外、自由に時間取れたり?とか……」


「劇! いいかもッ!!

流石、穂高君!」


穂高の案は聖奈の希望に叶ったのか、明るい声で穂高の意見に賛同し、瀬川や聖奈の友人たちも異論がないのか、この場のグループでは組織表として、激に表を入れることにすんなりと決まった。


「劇かぁ……、当日回る為に、大道具係になるつもりではいるけど……、劇の題材によっては穂高君と演者をするのも良いかも……」


劇に表を入れることで、文化祭の想像が膨らんだのか、元も子もない考えが、聖奈の口から発せられたが、穂高はそれには突っ込まないようにし、出し物が何になるのか、3-Bの動向を伺った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る