第十一章 祭りの支度
第158話 姉の代わりにVTuber 158
◇ ◇ ◇ ◇
「えぇ~~、それではウチのクラス……、3-B組の出し物を決めたいと思いま~す」
やる気のない女子生徒の声を皮切りに、穂高(ほだか)の教室は、生徒達の話声を湧き上がる。
クラス全員での海、春奈(はるな)の『チューンコネクト』のオーディション等、穂高の夏休みは、それなりにイベントが有りはしたが、三年の夏休みという事もあり、期間中は勉学がメインだった。
そして、受験に備えた勉強と、美絆(みき)のリハビリ期間のリムの配信を両立させ、美絆の体調が回復し、体を崩す前と遜色なく活動できると、『チューンコネクトプロダクション』からも許可をもらえ、穂高のリムとしての活動は、残すところ一か月という状況になっていた。
「夏休みが終わり、学校が始まったと思ったら、もう文化祭かぁ~~。
二学期が始まるのが憂鬱で仕方なかったけど、いざ始まってみれば、イベントずくしで良いよなぁ~~」
クラス内で話し合えとの事で、穂高の席の近くには友人である、松本 武志(まつもと たけし)と瀬川 勇気(せがわ ゆうき)がおり、武志は文化祭が楽しみなのか、そんな声を上げた。
「文化祭……、クラスが一丸となって出し物を催すそのイベントは、学校行事の中で、一番カップルを生み出すと言われ……、実際、過去にも多くのカップルが誕生してる……。
――――今年こそは……、今年こそはッ! 彼女を作って見せるぞッ!!」
文化祭というよりは、彼女を作ることに情熱を燃やす武志に、瀬川は苦笑いを浮かべており、いつもの事である為、穂高は特に気にする素振りも見せず、聞き流すようにしていた。
「彼女、彼女って、武志はほんと、そればっかだよなぁ~~。
別に作る事を否定はしないけど、なんか作戦とかあんのか??」
穂高はぼんやりと黒板を見つめ、気の抜けた声で武志にそう尋ねる。
「い、いや……、特にこれと言ってプランとかはねぇよ?
でもさぁ、色々実例があるわけじゃん!? 期待せずにはいられないでしょ!
それに、プランとかそうゆうんじゃないんだって、文化祭は!」
「ん? そうゆうんしゃないってなんだよ……」
真剣に武志の話を聞いていたわけじゃないが、聞き流し程度に聞いていた武志の話は、穂高にまるで理解できず、思わず武志の言葉の意味を聞き返した。
穂高の質問に、武志は大きくため息をついた後、何故か得意げに、穂高に答え始める。
「いいか? 文化祭でのカップルの生まれ方ってのはな? ほとんど偶発的なわけだよ。
クラス一丸となって、出し物を企画、運営する、その協力の中で、自然とできた男子と女子のグループで仲が良くなり、自然と恋人関係になるんだよ!
つまりだ、この文化祭に対して、どれだけ真摯に、献身的に挑めるかで、彼女のできるできないが決まるってわけだ!」
「凄い理論だなぁ~~」
穂高は、聞いた自分が馬鹿だったと後悔しながら、まるで抑揚のない声で、武志の言葉に返事を返した。
「なるほど、松本は、文化祭に真剣に取り組めば取り組むほど、彼女が出来ることに繋がるって考えてるんだな」
「そうゆうことだ、瀬川! 俺はこの答えにたどり着くまで、随分と遠回りしちまったみたいだ……」
武志の謎理論に瀬川は笑みを浮かべ、何故か悦に浸る武志に、穂高は冷たいまなざしを向けた。
「――彼女、彼女とは言いつつ、誰でも言い訳じゃないんだろ?
仮にお前の信じる方法で、彼女が出来たとしても、自分の好きな相手と結ばれるとは思えないぞ??
それとも、ほんとに彼女が出来れば誰でもいいのか?」
特に文化祭でやりたいことの無い穂高は、クラスの動向を伺いながら、暇つぶし感覚で、武志の話に真面目に答えた。
「誰でもなわけないだろッ!? そ、そりゃ可愛い子……、欲を言えば、四天王の誰かと付き合ってみたいけど……」
「――特定の相手いないんだな……。
特定の相手もいなくて、彼女欲しい、彼女欲しいって言ってたのか?
誰かと付き合えたとしも失礼じゃないか? そんな心意気で臨んてて、結果、付き合えました~~なんて……」
穂高は本音を隠さず、武志の考え方について問いかけた。
そこまでこの話題に足して、思慮深く考えてはいなかった為、ほとんど脊髄反射のような返答だったが、穂高の言葉は、武志に効いたのか、難しい表情を浮かべる。
「た、確かに今の俺は、可愛ければ誰でもいいみたいな風に見えるかもしれない。
だ、だが、あくまでそれは現状の話だ! 彼女が欲しいと奔走し、文化祭の中で特定の相手との愛を育む。
し、失礼なんかじゃ決してないと俺は思う!!」
「ふ~~ん。まぁ、頑張れよ」
真剣に答える武志に対して、暇つぶしにしては面倒になったのか、穂高はそれ以上、武志の話題を深堀しようとはせず、まるで気持ちのこもってないエールを武志に送った。
そして、会話が一区切りしたそんな時だった、穂高は武志や瀬川以外から声を掛けられる。
「――――ほ~だ~かぁくんッ!」
穂高は甘えるような声が聞こえた次の瞬間、後ろから腕を回され、その声の主に抱き着かれた。
「うおッ!」
穂高は急な出来事に声を上げ、抱き着かれた事に驚いたが、抱き着いた相手が誰か、声からすぐに判断できた。
「あ、愛葉(あいば)!?」
穂高に抱き着いたのは、愛葉 聖奈(あいば せな)であり、聖奈は二学期が始まって以降、何かと穂高に絡む事が多く、スキンシップも段々と取り始め、ついに穂高に抱き着いた。
「もうッ! また苗字呼びに戻ってる!!
聖奈って呼ぶって約束したのに!」
聖奈は不満を零すが、穂高はそれどころではなく、思考がパンクしかけていた。
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