第135話 姉の代わりにVTuber 135


 ◇ ◇ ◇ ◇


「――それで?

わざわざ、みんながいる所から離れて、何を話すんだ??」


昼食を終え、しばしの休憩タイムに入った、3-B組のクラスメート達は、海の家の中で談笑をしていた。


そんな環境の中、穂高(ほだか)は、彰(あきら)に呼び出され、集団から外れ、海の家の外、周りに知り合いが見当たらないような場所で、少し離れて話していた。


「まぁ、ちょっと穂高に協力……、手伝ってほしい事があってな?

――もうそろそろ当人が来るから、ちょっと待って」


当たりを伺いながら話す彰に、穂高は面倒くさそうに、ため息を吐いた。


海に来て、妙な頼み事を押し付けられそうになっている状況にあったが、友人の頼みでもある為、穂高は内容を聞かずに断ることは無く、大人しく、彰の言う通りに、当事者を待った。


数分すると、少し申し訳なさそうな表情を浮かべる大貫(おおぬき)と、穂高の顔を見て、一瞬顔をしかめる若月(わかつき)が、彰と穂高の前に現れた。


「悪いな~、天ケ瀬(あまがせ)~~~。

お前にも協力して貰っちゃって……」


「ん? まだ、何も聞いてないぞ??」


球技祭を経て、穂高と大貫の間に遠慮は無くなり、大貫の言葉に、何もピンと来ていない穂高は、きっぱりと頼み事を受けていない旨を伝えた。


「えぇ~~ッ? 協力して貰えるからここに来たんじゃないのか??」


「要件すらまだ聞かされてない。

それに、彰に呼ばれたから、話を聞くだけだぞ??

頼みごとが面倒なら、手伝う事もしない」


「マジかよッ!?」


冷たい穂高の対応に、大貫は嘆くように声を上げ、そんな二人のやり取りを見ていた彰は、苦笑いを浮かべ、若月は不満がある様な表情を浮かべていた。


「――ま、まぁまぁ穂高? とりあえず、要件を話すからぁ……。

球技祭で戦った仲間だろ? そんな冷たくするなって」


打ち解けてからの、穂高の容赦の無い態度に、彰はヒヤヒヤを感じる部分も有り、喧嘩の仲裁では無いが、穂高を宥めるように声を掛けた。


そして、彰は自分の言葉の通り、穂高に本題を切り出し始めた。


「穂高に今回お願いしたい用事って言うのは、大貫関連なんだ……。

――まぁ、端的に言うと、大貫の……、恋の手助けをして欲しい」


当事者もいる為、シビアな話題でもあり、彰は途中、口籠る部分も有りつつ、穂高に要件を伝え、まだまだ全容が見えない穂高は、思っても見ない相談に、少し困惑しながら、彰に聞き返す。


「――――は……? 大貫の?? 

恋の手助けって、俺は何をすれば…………。

――っと言うか、相手は誰なんだ??」


彰の言葉から、当然穂高には沢山の疑問が浮かび上がり、困惑している様子で、尋ねるが、穂高の最後の言葉に引っ掛かったのか、この場で初めて、若月が口を開いた。


「おい、天ケ瀬。

具体的な内容については知らないにしても、コイツの好きな人は前にも話したろ??」


若月の言葉に、穂高は記憶を遡り、答えが出るのにそう時間は掛からなかった。


「杉崎(すぎさき)……か?」


穂高の問いかけに、若月は反応を示さなかったが、隣に立つ大貫が、恥ずかしそうに首を縦に振り、穂高は自分の出した答えが、合っている事を認識した。


(最近、色々な事が起こり過ぎてすっかり忘れてたな……。

そういえば、大貫は杉崎が好きなんだった。

――――大貫の反応からして、この海のイベントで、何か杉崎に、アプローチを掛けるつもりなんだろうな……。

それの手伝いか……、面倒だな)


具体的に何を手伝わされるのか、穂高はそこまでは分からなかったが、自分に求められる事は何なのか、それだけは理解できた。


「何をさせられるんだ? 俺は……。

正直、恋愛経験は俺に無いし、戦力にはなれないぞ?」


「別に、お前に恋の相談をしようなんて考えてない。

ただ、春奈と俊也(しゅんや)の二人きりになれる、そんな状況を作る協力をして欲しいんだ」


冗談気味に話した穂高の言葉は、若月に冷たく返され、若月はそのままの、淡々とした口調で、穂高に協力して欲しい内容を話した。


「二人きりになれるねぇ~~……。

――――とゆうか、二人きりにしたい状況を作りたいのに、なんでクラス全員での海を提案したんだ?

少数で海に来た方が、シチュエーションは作りやすいだろ??」


「それは……、コイツが馬鹿なだけだ。

元々、海で春奈とより親密になろうと考えてはいたんだろうけど、具体的には何も考えて無かったんだろう……。

結果、天ケ瀬にも泣きつく始末だしな」


穂高の疑問は、大貫が馬鹿だったという事で、簡単に結論付けられ、大貫は若月の言葉に、納得のいっていない様子ではあったが、協力して貰う立場であるため、何も言い返せず、悔しそうな表情を浮かべるだけだった。


そして、そんな大貫を尻目に、若月は更なる具体的な内容で、穂高に協力を仰ぐ。


「――天ケ瀬、ビーチバレーに出るんだよな??

それも、春奈と」


冷やかな視線と、感情の感じられない声で、若月は穂高に尋ね、若月の雰囲気と態度で、穂高は自分に何を望んでいるのか、簡単に察しが付いた。


「ペアの交代か??

――まぁ、大貫の頼みを実行するうえでは、理には適ってるけど…………」


穂高は一瞬、春奈とのペアを譲ろうかと考えはするものの、ビーチバレーを誘い、それを承諾された時の、嬉しそうな春奈の表情が脳内に過った。


春奈の笑顔が過った事で、穂高は返事を渋り、若月はそんな穂高に対し、顔を歪め、訝しむように穂高を見つめる。


「――天ケ瀬……、お前…………」


穂高は春奈に対して好意が無いと、穂高の言葉で聞いていた若月は、その言葉を疑い始め、敵意を含んだ声色で、小さく呟いたが、穂高はそんな若月に臆することは無く、自分の考えを話し始める。


「悪いけど、ビーチバレーの件は俺じゃ無く、杉崎に聞いてくれ……。

杉崎から誘ってきた部分もあるし、杉崎の意向も聞かないで、俺から一方的に大貫と組ませるのを勧めるのも変だろ??」


「うッ、うぅぅ……、確かに…………」


穂高の言葉を聞き、大貫は参ったと言わんばかりに、うめき声を上げ、いつも快活な大貫だったが、事、春奈の事になると、どこか弱気な部分が垣間見えた。


穂高の言い分に、彰は苦笑いを浮かべ、若月も難しい表情を浮かべていたが、他に気になる事があり、すぐに穂高へ視線を戻す。


「お前はどうなんだ? 天ケ瀬……」


「――――どうって??」


若月の聞きたい事など、分かり切っていた穂高であったが、若月のその質問には、簡単に答えるわけにはいかず、白を切ることでギリギリまで回答を粘った。


「春奈と参加する事に対してだッ

どう思ってるんだ??」


「勿論、友達として参加するのも良いと思ってる。

面白そうだしな?」


若月の質問に、穂高はのらりくらりといった様子で答え、若月の本当に聞きたかった事に対しては、100%に答えられていない、そんな回答をした。


(ここで、変に俺が乗り気じゃない空気を見せれば、彰が俺と組むことを提案してくるだろうしな……。

協力するのは別にやぶさかじゃないけど、杉崎に誘われたものを、こっちの都合で一方的に断るのも、気分悪いし……)


穂高は方針を決めると、続けて隙の無いように、春奈と組むための理由付けをする。


「お前達、クラスの人気者に誘われるパンピーの気持ち……、立場も察してくれ。

四天王とか呼ばれてる杉崎の誘いを、俺なんかが断ったら、周りになんて思われるか…………。

他のところで協力してやるから、そこは勘弁してくれ」


半分本心、半分建前といったニュアンスで、穂高は付け加える様に、ビーチバレーの件は協力出来ない事を伝え、他のところで協力することを伝えた。


穂高の答えに、若月だけは納得いっていない様子だったが、付け入る隙を見つける事は出来ず、渋々、穂高の要件を呑んだ。

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