第134話 姉の代わりにVTuber 134
◇ ◇ ◇ ◇
浜でも準備が一通り終わり、クラスメートの殆どが海へと入る中、穂高(ほだか)も例にもれず、海水浴を楽しんだ。
そして、時間は12時を周り、穂高達は昼食を取るため、一度、海の家へと戻っていた。
「去年も海には来てるとはいえ、海に入って泳いだのは、久しぶりじゃないか??」
座敷に上がり、昼食のメニューを考えていた穂高に、ここへ戻るまで、そして、海水浴中も一緒に遊んでいた彰(あきら)が、いつもよりテンション高めで、穂高に話しかけてきた。
「確かに去年は、釣りをやり出した頃だったしな……。
泳ぎに行くというより、堤防で釣り糸を垂らしてた夏だったな」
「穂高は、ほぼ坊主だったけどな!」
「うるせッ」
嫌な記憶も思い出さされた穂高は、不満そうに呟き、そんな穂高を見て、彰は楽しそうに笑い声をあげる。
彰の親父が大の釣り好きという事もあり、去年の夏は彰に誘われ、彰の父親と三人で、船で沖釣りなどを経験させて貰っていた。
穂高はそこで釣りを覚えた事もあり、今度は瀬川(せがわ)や武志(たけし)などといった友人も誘い、経験者ぶる素振りで、堤防などで釣りをしたりしていた。
「才能無さそうな武志までも、簡単に釣れ始めたのに、まさか、経験者の穂高が一番苦戦するとはな~~。
どんどんと肩身が狭くなっていく穂高を見るのは、面白かったよ!」
「はいはい。 もうその話はいいから……。
昼飯ッ! どうすんだよ、お前」
過去の思い出話が尾を引く彰に対し、呆れた様子で、穂高は話題を逸らした。
「逸らすなよ~~、話題を~~。
この話面白いのにぃ~」
「面白くねぇ!
早く決めろ」
彰と穂高がそんな会話をしていると、そんな二人に割って入るように、別の方向から声が掛かる。
「なんの話~~ッ?
なんか、面白そうな話してるじゃんッ!!」
不意にかかる声に、彰と穂高は同じ方向へと顔を向け、顔を向けた方向には、興味ありげに声を掛けてきた瑠衣(るい)と、その後ろに控えるように、武志と春奈(はるな)の姿がそこにあった。
瑠衣達の登場に、穂高はタイミングと彰との会話の流れから、嫌な予感をビンビンに感じていたが、その予感はすぐに当たる事になる。
「おお瑠衣ッ! いい所にッ!
今ね? 穂高の恥ずかしい過去話を話してた所なんだ」
「天ケ瀬君の恥ずかしい?」
楽し気に話す彰に、瑠衣よりも先に春奈が、少し興味ありげに反応し、春奈のそんな反応を見て、瑠衣は彰の言葉に返事を返す。
「ふぅ~~ん、あまがせっちの恥ずかしい話ねぇ~~?
いつもクールな感じだし~、興味あるかもッ」
(最悪だ…………)
興味津々な瑠衣と春奈、話したくてたまらない彰を、穂高は止める事が、出来るはずも無く、武志も交え、去年の夏の話題に、春奈達は花を咲かせた。
彰が話す中で、武志も当事者だった為、穂高の恥ずかしい話は、様々な話題に飛び火し、穂高は所々否定しつつも、結局は彰達に様々な事を暴露されていた。
「クールな天ケ瀬君にそんな一面がねぇ~~……。
まさか、釣れない事にむきになって、帰りを渋るとは…………」
「彰だけならまだしも、武志にまで馬鹿にされたのが、気に食わなかったんだ。
癪だろ? 武志に負けるとか……」
去年の話では合ったが、穂高はまだ納得がいっていない様子で、不満げに瑠衣に言葉に答えた。
「――なんだか、想像したら……、ちょっと可愛いねッ! 天ケ瀬君」
穂高の昔話から、それを想像し、春奈は自然と本音を零した。
「かッ、かわッ!? 可愛くはないだろ?」
「えッ!? あッ…………、そ、そうだねッ、そうかもね!」
春奈の可愛い発言に、穂高は動揺し、穂高の動揺ぶりから、春奈は自分が口にしてしまった発言を、急いで否定した。
(杉崎(すぎさき)の中で、俺は一体、どうゆうイメージになってるんだ??)
ひとしきり、穂高達の過去の話題を話した後、話題は変わり、今度は春奈から、穂高に話題を振り出す。
「天ケ瀬君。
そういえば、さっきパートナーとしてお願いした件だけどさ?
お昼終わった後に、参加者を集計するみたいだから、私からエントリーを申し込んでも良いよね??」
少し具体性の無い話だったが、直前に春奈と話していた話題であった為、エントリーがビーチバレーの事だと、穂高はすぐに察しが付いた。
「そうだな。
エントリーには、俺も一緒に行った方がいいか?」
「えッ!? あ、あぁ、と、とりあえずは、一人でも大丈夫だと思う……。
俊也(しゅうや)に参加する事と、パートナーを伝えるだけだから」
「分かった。
悪いな……、任せて」
「私から頼んだんだしッ、そんな事、気にしないで?」
春奈と穂高の間で交わされた、簡単なやり取りを彰は見ており、訝(いぶか)しむ様な表情で、穂高達に質問する。
「今、春奈が話してたのって、ビーチバレーの事?
穂高と春奈で出場するの??」
「あ、うん……、ビーチバレーの話……。
天ケ瀬君と私で出場する予定」
彰は淡々とした口ぶりで、春奈達に尋ね、真剣みのある彰に、春奈は少しだけ、不思議そうな表情を浮かべながら、彰の質問に答えた。
「穂高……、春奈と出るの? 俺とじゃ無く……??」
「はぁ?」
彰の言葉に、穂高は思わず困惑した様子で、声を上げる。
「彰と出るって約束してたか?
出場を迫られはしたけど……」
「出場を迫るって事は、組んで一緒に出ようって事だろ~~~??
なんで、春奈と組んでるんだよ……」
お互いの勘違いに、穂高は困惑した様子であったが、そんな二人のやり取りを見ていた瑠衣が、話に割って入った。
「はいはい、たとえ彰が誘ってたにせよ、なんにせよ、今回は諦めてねぇ~~?
彰とあまがせっちは、よく一緒に海に来るんでしょ?? ビーチバレーなら来年でも出来るじゃん!
今回は、ハルに譲って貰うよッ」
彰の思わぬ立候補に、春奈は動揺している様子だったが、代わりに瑠衣が進言することで、半ば強引に、彰が穂高とペアを組むことを諦めさせようとした。
「えぇ~~、じゃあ、俺は誰と組めばいいんだ?」
「瀬川がいるだろ??
ペアを組む事は、お願いされなかったから、てっきりお前と瀬川が組むんだと、俺は思ってたぞ?」
意気消沈気味の彰に、穂高はそう伝えると、更に困った様子で唸っていた。
瑠衣が進言した事もあり、この場ですぐにコンビ解消という事にもならず、一先ず安心した春奈は、ホッと息を付き、困っている彰に対して、瑠衣は違う提案を彰にし始める。
「彰は、松本(まつもと)君と組めばいいじゃん!
松本君も、ビーチバレーやった事あるんでしょ??」
瑠衣に話を振られ、武志はすぐに調子づき、自慢げに、ビーチバレーが得意かのように、瑠衣の質問に答え始める。
瑠衣が会話の中心になり、彰のビーチバレーの代役のペアの話になる中、盛り上がり始めた会話の途中で、穂高は彰に、腕を軽く突かれた。
「――穂高ッ。
後でちょっと……、話いいか?」
穂高にだけ伝わる様な方法で、最小限に抑えた声で、彰は穂高にそう伝え、彰のそんな行動に、穂高は違和感を感じつつも、首を縦に振り、彰の招集に応じた。
違和感に関しても、特にそれ以上、考える事はなかった。
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