第133話 姉の代わりにVTuber 133


穂高(ほだか)達は、浮き輪を持ち、愛葉 聖奈(あいば せな)等に案内されるがままに、浜へと到着すると、そこには大貫(おおぬき)達の姿がそこにあった。


大貫達は、ここで持ち寄ったビニールシートを広げ、簡単な場所を確保し、パラソルやアウトドアチェア、テント等を持ってきている生徒は、それらも設置し、快適にビーチを楽しもうとしていた。


「おぉッ! やっと帰ってきた!」


作業の途中で、戻ってきた穂高達に、大貫は気づき声を上げると、彰(せきら)と瀬川(せがわ)の周りには、途端に人だかりができた。


(いや、イケメンで人気者の二人に群がるのは分かるけど、俺の荷物も持ってくれよ……)


彰と瀬川には、主に女子生徒が群がり、労をねぎらうかのように、荷物を受け取ったり、飲み物を渡されたりと、手厚い歓迎を受けていた。


瀬川と彰を尻目に、穂高は心の中で悪態を付きつつも、最後まで持った、自分の役割分の浮き輪を、拠点に置き、一息付くように、その場に座り込んだ。


「ほ、穂高君? 大丈夫? 疲れた??

飲み物持ってくる?」


暑さに少しやられ、余計に疲労感を感じている穂高に、ここまで一緒に浮き輪を運んだ、聖奈(せな)が心配そうに声を掛けてきた。


「あ~~、いや、大丈夫!

浮き輪運んだだけだしな?

聖奈もちょっと、休んで来れば?」


「え? あ、うん……。

そうだね! そうする」


穂高の言葉に、一瞬何かを考えるような、そんな表情を浮かべた聖奈だったが、考えが纏まると、明るい笑みを零し、穂高の隣へと腰を降ろした。


「――い、いや……、なんで隣……?」


「むッ……、い、嫌なのぉ~~?」


「いや、別に嫌じゃ無いけど……」


穂高は続けて「暑い」と言いかけたが、それを言えば、聖奈が不機嫌になると思い、続けてその言葉を発することは無かった。


そして、そんな状況の中、何も話さないのは、逆に気まずい為、穂高も話題を振りつつ、準備を行う大貫達を尻目に、聖奈と談笑をしていると、不意に穂高達に声が掛かる。


「聖奈~~~ッ!! ちょっとこっちきて~~ッ!!」


掛けられた声は、聖奈を呼ぶものであり、名前を呼ばれた聖奈は、不服そうな表情を浮かべつつ、行かないという選択肢は無く、その場から立ち上がった。


「ごめんッ! ちょっと行ってくる!!

動かないでよッ!?」


「なんでだよ…………。

まぁ、暑くて動く気ないから安心しろ」


穂高の言葉を聞き、聖奈は笑顔を浮かべると、その場から立ち去り、穂高は一人になった。


(夏の海……。

クラスで来てるとはいえ、今年の夏は色々忙しいし、満喫したいよなぁ~~。

改めて……、なにしよ……)


海に来るまで、穂高のテンションは、そこまで高いものでは無かったが、いざ海を目の前にすれと、穂高も自然とテンションが上がり、これからの予定を想像しては、 期待に胸をふくらませた。


「ほ~~だか!

どうだ~? 調子は~~」


穂高が海を見ていると、今度は穂高に声が掛かり、聞き覚えのある声に、穂高は話しかけてきた人物に、視線を向けた。


「武志(たけし)……っと……、ん??

これは、珍しい組み合わせで……」


穂高が目線を向けた先には、武志の姿と、何故か春奈(はるな)と瑠衣(るい)の姿もそこにあった。


「大変だったね~~、天ケ瀬(あまがせ)君~~~。

彰に浮き輪運び手伝わされたんだって??」


「これッ! スポーツドリンク!

水分補給はこまめにねッ」


ニヤニヤと笑みを浮かべて話しかける瑠衣に対して、春奈は穂高の心配をする様子で、瑠衣に続きて穂高に話しかけながら、手に持った未開封のドリンクを穂高に手渡してきた。


穂高は一先ず、春奈からのドリンクを受け取ると、今度は瑠衣の言葉に、返事を返す。


「悪い、杉崎(すぎさき)……。

――――お前らの友達の彰、人使い荒すぎ……。

ちゃんと、注意しとけよ?」


「注意しとけって……、あまがせっちの友達でもあるじゃん!」


瑠衣の穂高の呼び方は気分で代わり、穂高の言葉に不満なのか、すぐさま穂高の言葉に反論した。


そうして、交流することも多くなった春奈達と、自然に会話は進み、軽い談笑をしていると、穂高の中で一つの疑問が、浮かび上がる。


(そういや、ここに来る前……。

武志が妙な事言ってたよな?

確か……、自分に脈がある子がいるとかどうとか…………。

――――聞き忘れてたけど、なんで杉崎と四条(しじょう)が武志といるんだ??)


武志達の組み合わせを見て、第一印象で感じた疑問を、穂高は思い出し、改めてその事に尋ねようとするが、声を上げようとしたところで、瑠衣に会話の主導権は取られる。


「あッ! そういえばさ?

天ケ瀬君は、海で何したい~とか、誰かと何する~~~とかもう決めてる??

クラスで来てはいるけど、全部が全部団体行動ってわけじゃ無いじゃん?

途中、仲良いグループと自由時間過ごせるわけだし……。

もし、よければさッ!? 松本(まつもと)君も来るし、一緒にバナナやらないッ!?」


「え……? あぁ~~、まぁ、タイミング合えばだけど、行けたら行く」


瑠衣は、いつもよりテンションが高い為か、いつも以上に饒舌であり、楽し気に、穂高を自分達の今後の予定に誘った。


しかし、穂高の返事は芳しくなく、聞きようによっては、やんわりと、誘いを断られているようにも聞こえる返事で、穂高は答えた。


そして、そんな穂高の返事に反応したのは、春奈であり、少し食い気味に穂高に理由を尋ねる。


「えッ!? な、なんか予定あるの?」


「んん~~。 実は、さっき浮き輪を膨らましてる時に、瀬川と彰にビーチバレー誘われたんだよね……。

クラス内で、何ペアか作れるだけ作って、簡易トーナメントするらしい」


「そ、そっかぁ」


穂高の答えた予定に心当たりがあるのか、春奈は残念そうに呟き、瑠衣もそんな春奈を見て、一瞬暗い表情を浮かべるが、すぐに何か思い当たったかのように、ひらめき顔で穂高に質問する。


「で、でも! ビーチバレーっていっても、セット数多くしないみたいだし?

決勝進出みたいな事になったとしても、そんなに時間取らないでしょ??

ビーチバレーの後でも良いから、一緒にやろうよ!」


瑠衣の提案に、春奈は再び俯いた顔を上げるも、穂高の表情は依然として芳しくなく、困った表情のまま話し始める。


「実は……、これまたさっきの話だけど、聖奈……、愛葉に、バナナボートに誘われて…………」


穂高は、つい先ほどまで愛葉の事を名前呼びしていた為、つい癖で名前で呼んでしまうも、すぐに訂正し、特に取繕った様子も無く、ただただ申しわけ無さそうに答えた。


「せ、聖奈…………?」


「ま、またも、先を越され…………」


春奈は驚愕した表情を浮かべ、誰にも聞こえない程、小さな声で呟き、対して瑠衣は、何やら悔しそうな表情を浮かべ、呟いていた。


事情を知らぬ穂高は、そんな二人を呆けた様子で見ており、穂高の返答を聞いた瑠衣は、意を決した様子で、穂高に話しかける。


「あ、天ケ瀬君? ちょっと、待ってねぇ~~??

ハル! ちょい来てッ

作戦会議!」


意気消沈している春奈に、瑠衣は強く呼びかけ、春奈も呆然としながらも、素直に瑠衣のいう事を聞き、穂高達から見える位置で、少しだけ距離を取り、二人だけで何やら、会話を始めた。


瑠衣の言葉に、穂高はますます違和感を感じるが、自分の持ちうる情報では、答えが出るわけも無く、不思議そうにしながら、二人だけで話す、春奈と瑠衣の事を見つめていた。


そうして、数分の会話の後、春奈と瑠衣は、穂高と武志の元へと帰ってきた。


穂高の元へと帰ってくると、何やら、春奈は少し、気まずそうにしており、顔も少しだけ赤く染まり、何か言いたげな表情で、穂高の様子をチラチラと伺っていた。


「――ど、どうかしたのか??」


二人で距離を取った事と、春奈の様子に、しびれを切らした穂高は、自分から春奈に用件を尋ね、春奈は、穂高の声に一瞬、ピクリと体を跳ねらせながらも、意を決して、穂高に話し始める。


「――あ、天ケ瀬君ッ! ば、バレーのペアは決まってる!?」


「い、いや……? 一緒に出ようってだけで、まだペアとか、具体的な事は決めて無いけど……」


「じゃっ、じゃあさ? 私と出ない?」


「――え…………?」


春奈の思っても見ない提案に、穂高は呆然とし、声を零した。

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