第九章 夏休み
第130話 姉の代わりにVTuber 130
◇ ◇ ◇ ◇
「あ、暑い…………」
夏の浜辺。
ギラギラと取り付ける太陽の元。
立っているだけで、自然と汗が噴き出て来るような暑さの中、穂高(ほだか)は、辛そうに呟いた。
夏休み真っ只中の海という事もあって、浜辺には沢山の遊泳客で溢れかえっており、凄く賑わった海岸になっていた。
(流石夏休み……。
人だかりが凄いなぁ~~)
暑さで頭がぼぉっとしてきた穂高は、ぼんやりと賑わう浜辺を見ながら、当たり前の事を思った。
そして、これから自分もその人だかりの中に、加わっていく事になる未来を想像し、気分もどんよりと、憂鬱になった。
「ひやぁ~~~ッ!
まだ、昼前の10時だって言うのに、この人だかり!
テンションあがるぅ~~~ッ!!」
憂鬱な穂高に対して、近くで楽しそうに盛り上がる集団の声が、不意に穂高の耳に届いた。
反射的に穂高は、その声の方へと視線を向けると、そこには大貫(おおぬき)の姿があり、周りには、一緒に海に来たクラスメート達が、多く群がっていた。
「楽しみだね~~!!」
「浮き輪持ってきたか!?」
「亀のデケーやつ持って来たぜッ!!
お前乗せて沈めてやる!」
大貫の声に反応した穂高だったが、大貫の周りのクラスメートも、楽し気に会話をしており、大貫に群がるようにしてある集団だが、その中身は、いくつも小さなグループに別れており、いくつもの小さなグループを総括するような形で、大貫が先陣を切っていた。
そして、その大貫の一番近くには、若月(わかつき)等といった特に仲の良い、交流のある生徒達がおり、春奈(はるな)や瑠衣(るい)も、大貫達の近くで、楽し気に会話をしていた。
(なんだかんだ結局、全員参加になったな……。
予定の調整とかで、手こずるかと思いきや、意外にすんなんとみんなの予定もあったし)
今日訪れたクラスメート達を見渡し、全員参加できた事を、穂高は改めて認識し、素直にこのイベントを実行できた事に感心した。
「なぁなぁ! 遂に来たぜ!! 海ッ!!
楽しみだな!!」
クラスメートを見渡していた穂高に、当然参加をしてきた武志(たけし)が、楽し気に声を掛けてきた。
「楽しみ……。
まぁ、つまらなくは無いだろうけど、人がな…………」
穂高は、今日のイベント自体は、そこまで悲観的に考えておらず、むしろ楽しみに思える部分の方が、割合的には多かったが、人ごみを苦手とする事が要因となり、浜辺を見るだけで、自然とテンションが下がってしまっていた。
「まぁ~~、確かにな? 人は多いけど……。
でも仕方ないだろ? 夏休み真っ只中なんだし。
みんなで一緒に来れてるわけだし、これ以上わがまま言うなって!
楽しもうぜッ!? なぁ、瀬川(せがわ)?」
「――俺はあんまり海、得意じゃ無いから…………。
そもそも、海にあまり行きたくは無い」
いまいちテンションの上がらない穂高に、盛り上がらせるよう、瀬川に武志は話を振るも、穂高以上に、最初から乗り気では無い瀬川は、暗い表情のまま呟いた。
「なんでだよッ!! 楽しいだろ海!!
たとえ泳げなくとも、水着の女の子を見てるだけで、既に海の醍醐味は味わえる!」
「後半の武志の意見はどうかと思うけど、確かに泳げなくても、海を眺めるだけでも、結構気持ちが穏やかになるし、楽しいもんだぞ??
偶に船とか見えるし、鳥も飛んでるしな~~。
釣りが出来れば、なお最高だなッ!!
まぁ、人が大勢いると、全部人の声で、雰囲気とか台無しだけど…………」
武志の意見に、珍しく穂高も賛同し、目的は違ったが、穂高も本質的には海が好きだった。
後半、ネガティブな意見も交じりながらも、穂高も瀬川に対して、海の良さを伝え、二人の意見を聞き、瀬川は難しい表情を浮かべ、唸りながら考え込んだ。
まだまだ前向きに、海の良さを感じられない様子の瀬川だったが、認識を改める為に、再検討するぐらいまでは、海の評価を改めた。
今後の方針を含め、考え込んだ瀬川に、穂高は武志の言葉が引っ掛かり、今度は武志へと話を振る。
「――お前は相変わらず、今日のイベントは水着目的か?
見れない事は無いだろうけど、お前が期待しているような展開には、成りえないぞ??」
穂高は以前、武志が海で彼女を作るなどと言っていた事を思い出し、武志が妙な行動を起こし、心に傷を負う前に、釘をさす様な意味合いで、その話題を出した。
すぐに自分の言葉に突っかかってくると、身構えていた穂高だったが、今日の武志は、いつもと少しだけ雰囲気が違い、穂高の言葉に、反射的に突っかかってくるという事は無かった。
「ちっちっち~~! 甘いな? 穂高……。
勝算無しで、今日のイベントを、俺がただ迎えると思っていたら大間違いだぜ??
俺は今年の夏……、男になる…………」
(な、なんだこいつ……。
いつもより余裕がある…………、っていうか、いつもより受け答えがうぜぇ……)
武志の受け答えに、穂高はすぐにその違和感に気付き、ドヤ顔で答える武志に、苛立ちを感じながらも、武志の勝算には興味があった為、続けて武志に質問をした。
「な、なんだよ……、勝算って…………」
「えぇ~~? 知りたい??
――それはな~~? 最近、ちょっと俺に脈があるんじゃないかと、思える子がいるんだよ」
「お前みたいな変わり者を?? とんだ変人だな」
「うるせぇよ!」
揶揄う意図なく、自然とこぼれた穂高の本音に、武志はすぐさま反応した。
そして、いつもならここら辺で、興味を無くす穂高だったが、とても興味のある話題だった為、意を決して、更に具体的に尋ねた。
「――だ、だだれだよ……」
不本意にも穂高は、武志に切り出す事に対して、緊張しており、少し噛みながらも、武志にそれを質問した。
「それはお前……、内緒だよ、そんなの……。
まだ上手くいってないしな? 勿論、上手くいったら、お前には報告するぜ!!」
一番聞きたいところをはぐらかされた事で、穂高は更にイラつきを感じたが、武志に対して、それ以上追求することは無かった。
(武志の癖にムカつく……。
まぁ、でもコイツの勘違いって事もあるしな?
俺が必死になって、こいつの勘違いに振り回されるのも、仮に本当だとして、武志の色恋沙汰に、俺が必死になるのも癪だからな…………)
穂高は自分の中で、簡単にこの問題に対してケリをつけ、再び海の方へと視線を向けた。
自然と会話が途切れ、大きなグループになっている大貫達に続いて行こうと歩き出すと、今度は武志とは違う、女性の声が穂高を呼び止めた。
「――――穂高くん!
さ、さっきぶりだねッ! 海、楽しみだね!!」
穂高を呼び止めたのは、愛葉 聖奈(あいば せな)であり、まだ穂高との距離感が上手く掴めないのか、少しだけぎこちなく、穂高に声を掛けていた。
「愛葉さん……。
――うん、楽しみだね。 人多いけど……」
慣れない愛葉に対して、ここ最近話しかけられる事が増えた穂高は、愛葉との接し方に慣れができ、自然で当たり障りない、冷たくない返答を愛葉にした。
そして、愛葉に話しかけられた事で、気を利かせ、自然と今まで一緒に居た瀬川や武志達と、少しずつ離れていき、大貫達についていきながらも、愛葉に歩幅を揃えた。
「――くッ!! 穂高の奴めぇ~~ッ!!
いやッ! でも、今年の夏は俺も一味違うッ!!
見てろよ? 穂高!!」
愛葉と二人きり、談笑しながら大貫達に付いていく穂高に、恨めし気に武志は声を上げながらも、すぐさま調子を取り戻し、今後のイベントに思いを馳せた。
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