第129話 姉の代わりにVTuber 129


 ◇ ◇ ◇ ◇


穂高(ほだか)と唯(ゆい)が校門で出会う数分前。


帰りの支度を各々始める教室の中で、春奈(はるな)は教室で話す、一つの団体が気になっていた。


(また、天ケ瀬(あまがせ)君と愛葉(あいば)さん話してる……)


球技祭を機に、交流が増え始めた穂高と愛葉に、春奈も気が付いており、何度か二人が話している場面を春奈は目撃していた。


愛葉 聖奈(せな)。


穂高や春奈と同じクラスに所属し、校則ギリギリなファッションで、少し派手でオシャレなイメージが彼女に付いていた。

容姿も良く、ミディアムヘアーで、毛先の方に少しパーマが当ててあり、目筋が少し鋭く、髪型の効果もあって、ゆるふわの雰囲気も持ち合わせてはいたが、どちらかと言えば、可愛いというよりは綺麗といった顔立ちだった。

男子生徒から告白されることも度々あり、その話は春奈も何度か、噂として聞いたことがあった。

明るい性格でもあり、同性の友達も多く有していた。


「愛葉さん…………。

話した事はあるけど、特別仲が良いってわけでも無いし、愛葉さんの事をよくは知らないんだよなぁ……」


「――そうなの? 私は結構話したことあるけど??」


一人、考え事をする中で、ポツリと出た春奈の独り言に、返事が返ってきた。


「――――え……?」


突然の出来事に、春奈は驚きつつ、声の方へと視線を向けると、そこには四条 瑠衣(しじょう るい)の姿がそこにあった。


「る、瑠衣ッ!? い、いつのまにッ……」


「今ちょうど来たとこだよ!

ハル、呼びかけても反応無しだったし……、またまた熱烈な視線を、天ケ瀬君に向けてたから、全然気づく気配無かったけど……」


「なッ!? む、向けてない! 向けてないッ!!」


瑠衣の言葉に強く反対する春奈だったが、そんな春奈の反応にも瑠衣はすっかり慣れ、軽くあしらう様に生返事を返しながら、春奈が見ていた穂高の方へと視線を向けた。


「愛葉 聖奈さんかぁ……、思わぬ強敵だねぇ~~~」


顔真っ赤にする春奈を尻目に、瑠衣は少し口角を上げ、ニヤリと笑みを浮かべながら春奈に向け、呟いた。


「きょ、強敵って…………、そんな風に見てたわけじゃ無いよ。

た、単純に、最近仲いいな~~って思ってただけで……」


春奈は既に瑠衣には、自分の気持ちを告白していた為、以前よりも過剰に取り繕ったり、誤魔化したりはしなかったが、それでも素直にはまだなり切れず、困った様子で呟くように答えた。


「確かに最近仲良さげ…………、良さげ……??

――愛葉さんから天ケ瀬君に絡みに行く事は多くなってるかもねぇ~~。

もしかして……、愛葉さんも天ケ瀬君の事……好きだったりして?」


春奈へのからかい半分、自分の推測半分の意見を、興味本位のまま瑠衣は呟き、春奈の反応を確かめる為に、春奈の表情を伺った。


瑠衣が春奈の表情を伺うと、春奈の顔は青ざめており、表情が固まり、その春奈の様子からは、彼女が絶望しているような雰囲気も見て取れた。


「わ、わわッ! じょ、冗談ッ!! 冗談だってぇ~~~~!!」


春奈の反応を見るのが楽しみだった瑠衣は、即座にやり過ぎたと反省し、誤魔化す様に、笑い飛ばすような雰囲気で、誤魔化す様に春奈に言い放った。


「――じょ、冗談…………?

ほ、ほんとにそうかな…………??」


「無い無いッ! だって、愛華さんだよ??

美人でモテるし、オシャレだし……、きっと彼氏だっているよ!」


四天王などと呼ばれていても、瑠衣や春奈に恋愛経験など、まるでなく、むしろ遊び慣れている雰囲気を感じる愛葉の方が、傍から見ても彼氏がいるようには見えていた。


実際、愛葉には、一年生の頃や二年生の頃に、付き合っているなどという話が出ていた事もあり、気休め程度に思える瑠衣の言葉も、真実味はある物だった。


「その彼氏……、天ケ瀬君…………だったり……?」


「そ、そんなわけないでしょッ!?

愛葉さんと天ケ瀬君が交流を持ち始めたのって、球技祭終わったあたりくらいだし……。

い、いくらなんでも、そ、そそ、そんなに早くに…………」


ネガティブ気味になっている春奈の言葉に、瑠衣はすぐさま反論するが、恋愛経験の無さが仇となり、自分の考えにも、説得性が無い事に気付くと、どんどんと言葉尻は弱々しくなった。


(い、いや……、無いよね? 無い無いッ! あるわけ無いよそんな可能性……。

いくら何でも早すぎるっていうか…………。

でも、相手はあの愛葉さんだし?? もしかしたら既に……って事も…………)


ショックから、絶望の表情を浮かべる春奈に対して、瑠衣も確証が持てない為に、落ち着かない様子であり、ぐるぐると頭の中で考えるも、答えが出てくることは無かった。


「――――か、確認……してみる??」


考え込んだ結果、瑠衣は一番確実性があるであろう行動を、春奈に提案した。


「か、確認って言ったって、どっちに……?」


「愛葉さん……は、ちょっと聞きにくいし、天ケ瀬君に??」


提案した瑠衣も、何が正解なのか分かっていない様子であったが、一先ず確認を取る相手は、穂高の方に絞るよう考えていた。


しかし、自信の無さがそのまま口調にも出ており、確認するようにしか春奈に、返事を返す事しか出来なかった。


こうして、二人とも疑心暗鬼のまま、会話を続け、結局、今日の放課後、穂高に尋ねるチャンスがあれば、尋ねる事に決めた。


そして、数分後。


春奈と瑠衣は、愛葉と穂高が別れた後も、中々尋ねるタイミングが訪れず、結局、穂高達が下校している中で、周りに人が居なくなってから声を掛けようとし、穂高と武志(たけし)の後を付ける様にして、下校していた。


声を掛けるタイミングだけを見張り、穂高達に続くように、校舎を出たところで、春奈と瑠衣は驚く光景を目にした。


校門の前で手を振り、何かを叫ぶ女性、そんな女性の存在に、穂高が気づくと、途端に走り出していた。


もちろん、穂高達の動向を追っていた春奈達はそれに気付かないわけがなく、驚いた表情のままその光景を見つめていた。


そして、校門の前で、慌てた様子を見せる穂高と、穂高と会話する一人の女性を見ていた春奈は、ポツリと何か思い浮かんだ様子で呟く。


「――え…………? あれって……」


春奈は校門前で穂高と話す女性に見覚えがあり、その女性は特徴的な見た目をしていた事から、思い出すのにそこまで時間はかからなかった。


「天ケ瀬君に親しげに声掛けてた子だよね?

休日にあった時!」


春奈の呟きに応えるように、瑠衣も穂高と話す唯(ゆい)の存在を思い出して、声を上げた。


しかし、唯の存在を思い出しても、愛葉以上に二人に面識はなく、ただ茫然とその光景を見る事しか二人は出来なかった。


そして、瞬く間に穂高は唯を連れ、どこかへ歩き出し、春奈はしばらく呆然としたまま立ち尽くし、すぐに我に返ったのは瑠衣の方だった。


「お、追いかける……、のは無理か…………。

すぐに見失いそう……。

――あッ! 松本(まつもと)君ッ!!」


尾行にバレないよう距離を取っていた事から、足早に、唯と共に姿を消した穂高を、追いかける事は出来ず、瑠衣は冷静にそれに気付くと、すぐに別の方法を探し、春奈と同じように、呆然と立ち尽くす武志の姿が目に入った。


穂高と仲の良い武志に、唯の事を尋ねようと瑠衣は考え、すぐに行動に移した。


「は、ハルッ! 松本君に聞いてみよう! さっきの女の子について!!

――ほらッ! 早くッ! いつまでも呆けてないで!」


再びショックを受け、固まっている春奈の両肩を揺さぶり、春奈の意識を取り戻させると、春奈と瑠衣は武志の元へと向かった。

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