第128話 姉の代わりにVTuber 128


「――で? 説明してもらおうか??」


教室を出るなり、武志(たけし)は早速、穂高(ほだか)に、つい先ほど起こった出来事について言及した。


「まだ校内だぞ??

せめて学校出てからにしないか? その話……」


「教室出るまで気を使って聞かなかったんだから、もういいだろ?」


「教室出るまでって……、そんなん数秒の出来事じゃねぇか…………」


武志は武志なりに、クラスメートが周りに居る状況では、穂高にこの話題について、尋ねたりはしていなかった。


しかし、穂高が愛葉 聖奈(あいば せな)と話している間も、我慢していた武志は、これ以上の我慢をすることは出来ず、穂高もそんな武志の態度に心が折れ、軽く周囲を確認し、周りにクラスメートがいない事が分かると、武志の尋ねてきたことに対して、話し始めた。


「――別に、特段説明するって事は無いんだけどな…………。

まぁ、どうせお前の事だから、いつからそんな関係になったんだ? とか聞きたいんだろ??」


「そうだな……、他にも山ほど聞きたい事があるけど、まずはそれからだな!」


武志の言葉を聞くと、穂高は面倒そうにしながらも、ため息を一つ吐くと、話し始めた。


「愛葉が話しかけてくるようになったのは、球技祭が終わった次の日ぐらいからだな……」


「バスケ効果かッ!?!?

ずりーぞ! 穂高ばっかりッ!!」


「何がズルいんだよ……。

お前だってバスケ選んどけば良かっただろ?」


球技祭の競技決めの際に、武志はバスケに立候補しておらず、穂高自身も渋々、バスケの競技に参加していた身だった。


「バスケよりもサッカーの方が目立つって思ってたんだよッ!!」


「じゃあ、お前の自業自得だな」


「ちッ! 見込み違いだったか……」


話題が逸れ、武志が違う事を考え始めたところで、穂高は内心「ラッキーと」感じながら、そのままフェードアウトしようと考える。


「――とうゆうか! そんな事はどうでもいいんだよ!!

穂高! なんで、愛葉さんに下の名前で呼ばれてんだよ!!」


このまま、愛葉の話題を終わらせようと考えていた穂高だったが、流石の武志もそこまでアホでは無く、少しだけ逸れた話題を、本題へとすぐに戻した。


「その事か……。

別に、何か特別な事があったってわけじゃ無いよ。

――あっちが勝手に呼び始めただけで……」


「か、かかッ、勝手にッ!?!?

なんでッ!? どうして!?」


「俺に聞かれても分かるかよ……」


穂高自身、なぜ愛葉がここまで自分に接触し始めたのか、見当が付いておらず、いくつか思い浮かぶ推測もあったが、どれも確証は持てずにいた。


「おかしい……。

穂高だけ、急にモテ始めるなんて…………。

理解できない」


一連の話を聞き、悔しそうに呟く武志に、穂高は「失礼な奴だな」と思いながらも、それを口に出す事は無く、それとは別に、穂高の考えを話し始める。


「別に俺がモテてるわけじゃないと思うぞ??

愛葉と一緒にいた女子も言ってたけど、多分、大貫(おおぬき)や若月(わかつき)、彰(あきら)と交流があるから、上手い事、仲を取り持って欲しいんだろ?

大貫達は今回が初めてだけど、彰とは付き合いが長いからな……。

昔からよくある話だ」


穂高がモテ始めていると考える武志に対して、穂高はそこまでポジティブに現状を捉えておらず、昔からの経験で、愛葉が自分に好意を持って、接しに来ているとは考えられなかった。


「確かにッ!! それだわッ!

それしかないッ!!」


「どんだけ失礼なんだよ、お前は……」


穂高の考えに、同意を見せる武志に、穂高は遂に、常々感じていた事を口に出した。


「――彰はともかく、別に、大貫や若月達とそこまで親密ってわけでも無いんだけどなぁ~~。

球技祭で一緒に戦ったってだけで、その後も別に一緒に遊ぶわけでも、何かプライベートでするわけでも無いし……」


穂高は、愛葉と一緒にその場に居た女子生徒の言葉を思い出し、その口調がまるで、大貫や若月が穂高の親友だと、言わんばかりのものだったという事を思い出し、悲観的な気持ちになった。


(いざ、仲を取り持って欲しいとか、大貫達と遊ぶ場をセッティングして欲しいとかに話が向いたら、最悪だよな……。

俺がその場を作れる程、大貫達と仲が良いわけじゃ無いし。

だからと言って、俺から愛葉達にそれを事前に伝えるのも変だしな?

愛葉達からお願いされて、断るならまだしも、前もって言えば、愛葉達に対しての失礼になりかねない。

――――今まで通り、無難に波風立てないように、愛葉達とは交流していくしかないな……。

本音を言えば、大貫達とのコネクションが無い事に気付いて、あっちから離れていく事が望ましいけど)


穂高は愛葉達との間にある、変な誤解が解消される事だけを祈りながら、今後の身の振りようを考えた。


そうして、穂高と武志は会話をしながら歩き、校舎を出て、校門を目指して歩いていた。


早くに帰りのHR(ホームルーム)を終えた生徒が、ちらほらと部活動を始め、校舎の外も活気づき始めている中、穂高はまだ遠く離れた校門で、こちらに手を振る一人の女性が目に入った。


(なんだ……あれ……?)


自然と目に付いたその女性が穂高は気になり、穂高と同じように下校している生徒の中にも、その校門の前にいる女性に、気付いている生徒が数人いた。


まだ女性との距離がある事で、校門の前で手を振る女性が穂高からは視認できず、自分に関係がある人とも思っていなかった為、気になってはいたが、そこまで大きな関心を寄せる事無かった。


そして、どんどんと女性との距離が詰まっていく中で、穂高の耳に、遠くから大声で発せられる女性の声が届いた。


「ぉ~~ッ!! ぉ~~~いッ!!

気付け~~ッ! ほだか~~!!」


段々と声が鮮明になっていき、発せられる声が、自分を呼ぶものだと、穂高は道の途中で気づいた。


(は? 俺??

いや、聞き間違いか??)


校門で女性に大声で呼ばれる要因が無い穂高は、聞き取った自分の耳を疑い、今度は改めて、目を凝らし、校門の前にいる女性を見つめた。


(あの髪は…………。

まさかッ!? ハチかッ!?!?)


穂高はここでようやく、校門に立つ女性が、浜崎 唯(はまさき ゆい)だという事に気が付き、これ以上大声で名前を呼ばれるのも恥ずかしい為、すぐに彼女の元へと駆け出した。


急に走り出した穂高に、武志は驚き、戸惑うように穂高の名前を呼んでいたが、穂高はそれに構う事は無く、少し距離があったが、走る事ですぐに唯の前へと到着した。


「――――お、お前ッ! な、なんでここに??」


校門前で唯は、何故か高校生の制服姿でおり、聞きたい事は山ほどあったが、穂高はまず、ここに居る事について尋ねた。


「んん~~? 穂高と一緒に帰ろうと思って」


「意味が分からないんだが?

とゆうか、その恰好は?? ハチは大学生だろ!?」


「えぇ~~? 良いじゃん、大学生だって制服着ても~~。

とゆうか、高校に私服で来る方が野暮なんじゃない??」


理解不能な事が起こり過ぎて、テンパる穂高に対して、唯は楽し気に笑みを浮かべながら、穂高の問いかけに答えた。


そして、唯が桜木高校の制服では無い事、校則では必ず罰せられるであろう、紫の髪をしていた事から、下校途中の生徒からかなり注目を集めた。


「――ここじゃ目立つな……。

と、とにかく、場所を変えて話そう」


「もう、学校から離れるの?? せっかく雰囲気出てるのに……」


「いいから!」


球技祭の事もあって、穂高はこれ以上、変に注目を集めたくはなく、突然目の前に現れた唯に、この場から離れる事を伝え、唯の手を取り、少し強引に、その場から離れるよう歩き始めた。

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