第127話 姉の代わりにVTuber 127


 ◇ ◇ ◇ ◇


武志(たけし)が穂高(ほだか)達に、夏休みのイベントについて話したその日、全ての授業を終え、HR(ホームルーム)も終わった放課後、ガヤガヤといつも通り、忙しなくなるその前に、大貫(おおぬき)からクラス全体に向け思わぬ提案が上がった。


そして、大貫から一通り話が終わると、クラスはいつもの放課後のような、賑やかさを折り戻し、穂高も直近で起こった大貫の提案について考えながらも、帰り支度を始めていた。


「なぁなぁッ! 穂高!!

さっきの大貫の話、どうするよッ!? 勿論行くよなッ!?!?」


穂高が考え事をしながら支度を済ませていると、丁度、穂高が考えていたタイムリーな話題を、武志は意気揚々とした様子で穂高に投げかけた。


「クラスみんなで海に行きたいってやつか?

う~~ん、まだ悩み中……」


「はぁ~~~ッ!? なんでだよッ!!

せっかく大貫が提案してくれたのに~~! 中々無い機会なんだぞッ!」


武志にとっては嬉しい提案なのか、穂高に話しかけて来てからも、ずっとテンションが高かったが、それに対して穂高は、難しい表情を浮かべながら、簡単には大貫の提案には乗らなかった。


「昼休みの時も言ったけど、夏期講習やら何やらで、今年は忙しいだろ?

それにまだ行く事が決定したわけでも、イベント決行が濃厚なわけでも無いだろ~~??

――――今んとこは、クラスの様子見…………」


穂高は武志に受け答えしながらクラスを見渡し、大貫からの提案があった後のクラスの状況を確認した。


(俺自身、特別行きたい、参加したいってイベントでも無いんだよなぁ……。

今年の夏は忙しいし、余計な予定は増やしたくないし。

――――ただ、球技祭以降、クラスの団結力みたいなのも高まって、

クラス全体で、また何かをしたいみたいな雰囲気も漂ってるんだよなぁ~~~。

そんな中、ただ行きたくないってだけで、参加しないのは、今後の学校生活にも変な影響が出そうだし、

何より輪を乱したり、悪目立ちはしたくないからなぁ~~)


穂高はクラスの状況を見て、大貫の提案したイベントに好意的な反応を見せる生徒を多く見付け、今後の自分の立ち振る舞いについて考えていた。


難しそうな表情を浮かべる穂高に、武志は納得いかない様子で、続けて穂高に問いかける。


「――――その周りに合わせるみたいな適当な言い方…………。

穂高は行きたくないんだな?

せっかく大貫が提案してくれて、しかも楽しそうなイベントなのに……」


穂高の考えは、付き合いの長い武志には簡単にバレ、ため息交じりに呆れた様子で呟いた。


「別に行きたくないってわけじゃ…………。

――――いや、行きたくないな、とゆうか、この忙しい夏に余計な予定を増やしたくない」


武志の言葉に、最初は否定しようと思った穂高だったが、穂高の中で行きたい理由を見つけることが出来なかった。


そして、思考する中で、考えるのが面倒になり、相手が気心知れている武志という事もあって、取繕う事はやめ、素直に本音をぶちまけた。


「どんだけスケジュール過密なんだよ……」


穂高の本音を聞き、武志は更に呆れた口調と、呆れた表情を浮かべ、目を細めながら穂高にそう呟くように答えた。


そして、そんな武志の呟きを最後に、一瞬だけ会話が途切れたその時だった。


穂高が帰りの支度を済まし、カバンを担ぎ上げたところで、不意に一人の女子生徒から穂高達に声が掛かる。


「えぇ~~ッ!? 穂高君は行かないのッ??」


学校では呼ばれ慣れない下の名前を、女性の声で聴き、穂高はその事を疑問に思いつつも、声の聞こえた方へと視線を向けた。


穂高が視線を向けたその先には、三人の女子生徒が立っており、同じクラスメートという事もあって、名前だけは知ってはいたが、穂高はほとんど話もした事の無い女子生徒だった。


「――――え、えっとぉ~~、愛葉(あいば)さん??

何か……、行けないとマズかったかな?」


突然の訪問者に、穂高は困惑しながらも、話を掛けてきた愛葉 聖奈(せな)に応じた。


「クラスの殆どが行く雰囲気だったし……。

穂高君もてっきり行くものだと思ってた。

――――穂高君行かないならウチ、どうしよ…………」


穂高が海に行く事に乗り気では無いと知ると、愛華は困ったように悩みだし、そんな愛華の言葉を聞き、愛華と共に、その場に居合わせた二人の女子生徒が声を上げる。


「えぇ~~~ッ!? せっかくの機会だし行こうよ! 聖奈。

――――天ケ瀬君もッ! 予定が空いてるならさッ……ね??」


「仲の良い大貫君達も来るんだし! 楽しいよ!? きっと……。

それに、男子は女子が来れば、男子的に嬉しい出来事も起こるんじゃない??

――きっと、みんな水着は気合入れて来ると思うよ~~??」


乗り気でない穂高に、どうにか興味を引かせようと、愛葉を挟んで立っていた女子生徒が、穂高にそう呼びかけ、元々行かないという事で、悪目立ちをしたくなかった穂高は、すぐに観念したように声を上げる。


「そうだね……、大貫達がせっかく提案してくれてるんだし……、ちゃんと空いてる予定を確認して、参加できるようにはするよ……」


「ホントッ!? じゃ、じゃあッ……ウチもやっぱり参加しようかな……」


観念した穂高の言葉を聞き、今まで少し表情が曇り気味だった愛葉は、一気に表情を明るくさせ、嬉しそうに声を上げた。


愛葉の反応を見て、穂高に興味を引かせるように、声を上げていた二人の女子生徒は、ホッと胸を降ろし、再び穂高に声を掛ける。


「やっぱり、穂高君も水着が気になる感じ~~??」


「男の子だもんねぇ~~、仕方ないさぁ……。

私も楠木(くすのき)君の水着姿とか、見てみたいし~~」


「ほ、穂高君はそんなんじゃないでしょッ!?

た、単純にクラスの皆と思い出を作りたい……とか、そんな感じでしょ? きっと……。

ね? 穂高君ッ!?」


目的を果たせたことで、二人の女子生徒は砕けた様に話し始め、彼女達が話す、穂高が海に行く理由が気に入らなかったのか、愛葉はすぐに二人の意見を否定した。


「ま、まぁ……、愛葉の話した理由が主かな……?

大貫達も来るみたいだから、単純に楽しそうだなって気持ちもあるよ」


穂高は愛葉達に気を使った口調で話し、愛葉達とそのまま、数分間、海に行く事について、軽く会話を交わした。


時折笑みを零しながら、楽し気に会話をした後、話の途中で、愛葉が穂高が帰り支度を終えている事に気づき、愛葉の方からすぐさま会話を切り上げ、最後は笑顔で穂高に軽く別れを告げ、愛葉達とのお話はお開きとなった。


愛葉達から解放されると、穂高はふぅっと息を吐き、胸をなでおろした。


「おい……、穂高。

今のどうゆう事だよ……?」


一段落付いた穂高に、今の今まで、目の前の出来事を静観していた武志が、ようやく口を開き、穂高に声を掛けた。


「あぁ~~~、まぁ、お前は説明しろとか言ってくるよな?」


「当たり前だッ!!」


穂高はまだまだ心休まることが無いと気付くと、憂鬱になり、自然とため息も零れた。


「話してやるよ。

その代わり、帰りながらな?」


穂高の言葉を聞くと武志は力強く頷き、すぐさま自分の帰り支度を始め、穂高はそんな武志から視線を切り、ふと何気なく教室を見渡した。


穂高がぐるりとクラスを見渡していると、不意に杉崎 春奈(すぎさき はるな)と視線がぶつかった。


春奈も穂高を丁度見ていたようで、お互い目が合った事を認識すると、春奈はすぐに穂高から目を逸らした。


穂高は、そんな春奈に少しだけ違和感を感じたが、気にする程度でもなく、春奈に声を掛けたりするような事も無く、武志の支度が整うと、すぐさま教室を後にした。

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