第126話 姉の代わりにVTuber 126


 ◇ ◇ ◇ ◇


穂高(ほだか)達が、教室の隅で、いつものように昼食を取る中、そんな、穂高の集団を、少し離れた位置で伺う、杉崎 春奈(すぎさき はるな)の姿があった。


春奈も穂高達と同じように、いつもの中の良いメンバーで昼食を取っており、今、グループの中で会話の主導権を持っていたのは、菊池 梨沙(きくち りさ)と大貫(おおぬき)の二人だった。


大貫と菊池は、楽しそうに、夏休みの話題を上げており、大貫と菊池のテンションの高さに感化されるように、他のメンバーも楽し気に会話に参加していた。


春奈は所々で、話を振られれば答える程度で、大貫達とは違い、春奈の頭の中は、別の事で支配されていた。


(――――こないだのリムちゃんのコラボ配信……。

リムちゃんの弟として配信に出演してた人…………、天ケ瀬君だったよね……?

私に話してくれた話……、天ケ瀬君は、リムちゃんの以前の配信で、リムちゃん自身が話してたって言ってたけど……、配信のコメント欄を見る限りは、初めてのエピソードぽかったし……。

何より、動画の中での立ち振る舞い……? 身長とか、体格とか似通ってた。

今改めて見ても、似てるような……、そんな気がするし)


春奈は、直近のリムの配信にて、リムの弟が出演した際に、その弟の雰囲気が穂高にそっくりだと感じていた。


穂高の話した、美絆が胃薬をよく使用していた話も、コラボの中では初だしのエピソードの様に、扱われており、様々な要因から、穂高を疑う要素は多く見られた。


(気付けば、異様に『チューンコネクト』の事も詳しいし……、熱狂的なファンなのかとも思ったけど、私と同じような熱は、天ケ瀬君からあまり感じた事も無い…………)


考えれば考えほどに、穂高への疑いは深まり、春奈が難しい表情を浮かべていたその時だった。


「高校最後の夏って事だしさッ!? みんなで海に行かないか??」


ここまで、会話を聞き流していた春奈だったが、一際大きく放たれた大貫の言葉に、春奈の意識は大貫達の方へと戻され、思考も中断され、自然と視線は大貫の方へと向いた。


「いいねッ! 受験勉強の息抜きに、どこかのタイミングでッ!」


大貫の言葉に、菊池はすぐに反応し、概ね、大貫と菊池の意見に賛同する声が、多く上がった。


「――う~~ん、確かに、受験勉強の息抜きで、海に行くっていうのはいいけど、そんなにみんな予定合うの?

講習を受ける人だっているし、いつもの夏休みよりも、みんな忙しいでしょ??

予定合わせるのが難しいんじゃない?」


「そっ、それはさッ? あらかじめ、この日ッっていう日にちを決めておいて、予定をなるべく入れないようにすればいいんじゃない?

瑠衣(るい)も行こ~~よ、海~~~」


すぐに、実現の難しさを指摘した四条(しじょう) 瑠衣の意見に、菊池は弁明をし、最後はねだるように、瑠衣に頼み込んだ。


そんな菊池のお願い攻撃に、瑠衣は困った表情を浮かべながらも、菊池の願いを聞き入れる態度へ変わり、その風景を見て、春奈も夏休みの予定の洗い出しを、脳内で行い始める。


(――これは、完全にみんなで行く雰囲気だよなぁ~~~。

勿論、私もみんなで行きたくはあるけど……、今年の夏は、受験の為の夏季講習は勿論。

『チューンコネクト』の二次面接本番。

面接の練習ももうちょっとしておきたいし……、予定を空けれるとしても、そこまで多くの予定は空けれないかもなぁ~~)


春奈は、頭の中で簡単にカレンダーを思い浮かべながら、既に決まっている予定を確認し、予定が空いているとしても、夏休みの始まりの少しの期間か、面接、夏期講習も終わり、自己学習がメインになり始める、夏休みの終盤が、調整できそうな日にちだった。


そして、春奈がそんな事を考えていると、大貫は更なる提案をし始めた。


「ーーなぁなぁッ! どうせならさッ?

クラス全員とかで海に行くのも良いんじゃないかッ?」


テンションが高くなり過ぎたせいなのか、大貫はイベントの規模を大きくしたいと提案し始め、大規模なイベントになりつつある事に、その場にいた春奈達は、すぐに意見を上げる事は出来なかった。


少し間を空け、各々で考え込むと、一番初めに意見を出し始めたのは、大貫と近いテンションにあった菊池だった。


「いいねッ!! 高校最後だし! 私もいつものメンバーだけじゃなくて、みんなと行ってみたいッ!!」


菊池の言葉に裏表は無く、心の底から行きたがっている様子で、球技祭を経て、クラスの団結は高まりつつあり、良い雰囲気にあるクラスだからこそ、菊池も大貫の意見には賛同していた。


高校生最後の夏という状況も相まって、大貫の意見には勢いが増し、実現は難しいそうではあるが、クラス全員で海に行く事、その提案自体の意見を反対する者は出なかった。


(クラス全員で海…………。

確かに楽しそう!

――それに、全員となると当然、天ケ瀬君も…………)


クラス全員で海に行く事を、春奈は簡単に想像し、そして、その想像の中で、穂高と海に行ける事も簡単に思い浮かんだ。


春奈は想像の中で、穂高の水着姿が思い浮かんだが、すぐにそんな事を考えてしまった自分に、恥ずかしさを感じ、頭を軽く振り、妄想を振り払った。


「なぁ~にぃ~~? ハルちゃん~~。

もしかして、天ケ瀬君と海に行く事でも想像しちゃったのかにぁ~~??」


春奈の一連の動作を見ていた瑠衣は、妄想を振り払った春奈に、ニヤニヤと意味を浮かべながら、明らかにからかっている口調で、春奈に話しかけた。


「ちッ、違うからッ! 別にそんな事考えて無いからッ!!」


夏休みの話で盛り上がる大貫達には気づかれないように、春奈は声を抑えながらも、それでも語気は強く、からかってきた瑠衣に強く否定した。


「ホントかなぁ~~~??」


「考えて無いからッ!!」


鬼気迫る様な春奈の言葉と様子に、瑠衣は少しだけ慄(おのの)いたが、すぐにいつもの調子に戻り、話し始める。


「分かった分かった! そんな顔しないでよ~~。

でも、結果的には良かったね? 夏休み、上手くいけばだけど、天ケ瀬君とも海に行けるかも……」


「そ、それはぁ~、そうだけどぉ~~。

天ケ瀬君は海来てくれるのかな? イメージしずらいし……、それに、クラスの皆が、海に行く事を了承するかどうか……」


大貫達は、既に行くつもりで盛り上がってはいたが、このイベントに関しては、大貫達の意見だけでは実現できず、様々な理由で、クラスの中には断ってしまう生徒が出てくる可能性は大いにあった。


「クラス全員で行かないと意味がないって雰囲気になれば、この話は無かったことになるかもだし……。

そもそも、学校行事でも無いから、みんなの予定が合うのかどうかも分からないし…………」


春奈は勿論、みんなで行けるかもしれないという希望を、捨ててはいなかったが、変に大きな期待をしてしまい、結果として実現しなかった時のショックが大きいと思い、そこまでこのイベントに期待はしていなかった。


「――確かに実現は難しいかもしれないけど、高校生最後だからってお願いで、よっぽどな事が無い限りはみんな賛同しれくれると、私は思うよ??

クラスの雰囲気も、球技祭を終えてからは良いし。

今までそこまで話したことも無い子とも、私は気軽に話せるようになったし!」


ネガティブな春奈とは違い、瑠衣はこのイベント実現に、ある程度の手ごたえを感じている様子で、現実的な話だと考えていた。


「――そ、そうなのかなぁ……」


瑠衣の言葉を聞き、春奈も少しだけ前向きに考え始め、自然と視線は穂高の方へと向けられた。


春奈の視線に、瑠衣は気づいていたが、弄る様な事はせず、暖かく笑顔で、そんな春奈を見つめていた。

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