第131話 姉の代わりにVTuber 131


海の家、付近。


大貫(おおぬき)、菊池 梨沙(きくち りさ)の指示の元、水着に着替える為に、男女で別れ、着替えが速く終わる男性陣は、決めていた待ち合わせの場所へと集合し、女性陣の着替えを待っていた。


男性陣にとっては、本日のイベントのメインになりかねない出来事に、期待に胸を膨らませ、落ち着きのない生徒が多く見られた。


「な、なぁなぁ、誰が楽しみよ??」


「俺はやっぱ、四条(しじょう)さんかな~~? ナイスバディだし! あの美貌だろ??

期待せずにはいられん……」


「分かるッ!!

でも、俺は同じ四天王の菊池さんも気になるけどな~~?

きっと可愛い水着を着て来るんだぜ?? 想像しただけで…………、

はぁ~~~、来てよかった~~~~ッ!!」


黙って女性陣を待つ穂高(ほだか)の耳に、そんな下世話な話が聞こえ、穂高は自然とその話をしている男子生徒へと目をやる。


(期待するのは分からんでも無いけど、あんまし口に出すなよ……。

女性陣に聞かれたら、一発アウトだぞ……?)


そこまで仲良くも無い男子生徒であった為、穂高は、下世話な話をする彼らを、注意する事はしなかったが、たとえ自分がしていなかったとしても、女性陣には聞かれたくはない話だった為、そこだけは心配に感じていた。


(変に聞かれて、女性陣全員から総スカンされるとか、まだまだイベントの序盤だし、凄く避けたい……。

せっかく海にまで来てるのに、変な事が原因で雰囲気悪くされんのも、嫌だしな……)


穂高も男であるため、下世話な話をする男性陣の気持ちも、分からんでも無かったが、それでも、今はなるべく控えて欲しいと、心の底から思った。


「天ケ瀬(あまがせ)~~! ちょっといいか~~!?」


穂高が心配事を抱えていると、不意に瀬川(せがわ)から声を掛けられ、声の方を見ると、瀬川と彰(あきら)が何やら、しぼんだカラフルなビニールを持ち、穂高に手招きをしていた。


穂高は、そんな二人に疑問を感じたが、瀬川の呼びかけには素直に応じ、瀬川達の元へと駆け寄った。


「なんだ? そんな荷物持って……。

浮き輪か? それ……」


近くまで来ると、瀬川達が持っていた物が何なのか判明し、何やら面倒な事を頼まれそうだと、嫌な予感を感じながら、穂高は瀬川に尋ねた。


「そう。

みんな色々持ってきてて……。

女性陣まだ着替え終わってないだろ?? その間の時間に、ある程度膨らましちゃおうって楠木が……」


「こんなに使うか疑問だけどね??

穂高も暇だろ? 手伝ってくれよ」


少し面倒そうな表情を浮かべる瀬川に対し、彰は笑顔で受け答え、すぐに穂高に本題を投げかけた。


「――――まぁ、今はやる事無いしいいけど……。

これ、こんなにあって、女子の着替え終わる前に、全部膨らませ終えれるか??」


穂高は悪態を付きつつも、瀬川からしぼんだ浮き輪を数個受け取り、浮き輪を膨らませられる場所へと、瀬川達と向かっていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


穂高達が立ち去ってから数十分後。


ようやく着替えを終えた女性陣がちらほらと、集合場所へと集まり、普段は見せる事の無い恰好という事もあって、女子生徒の殆どが、恥ずかしがりながら、その場へと集まっていた。


男性陣も、先程、下世話な話をしていたのにも関わらず、いざ、クラスメートの水着姿を目の前にすると、変に緊張で舞い上がり、チラチラと様子を伺う様にして、女性陣の水着姿を見ていた。


そして、そんな慣れない場に、多くの生徒達が委縮している中、海に来る事に慣れ切った大貫が、いつもの調子で、女性陣に声を掛ける。


「こんな事言うのも変だけどさ? みんな可愛いねッ! 水着!!」


大貫の大胆な発言に、委縮していた男子生徒はギョッとした表情を浮かべ、女子生徒達は、一瞬驚きながらも、大貫が恥ずかし気も無く、そういう言葉を言える人物だという事を知っていた為、普段通りの大貫の反応に少しだけ緊張が緩んだ。


大貫の言葉で、女性陣は少しずつ会話を始め、最初は大貫や若月(わかつき)などといったコミュニケーション能力の高い、陽キャラの男性陣が女子生徒へと話し始め、そこから段々と、他の委縮していた男児生徒が加わり、海に来た当初のような、変な緊張の無い雰囲気に戻りつつあった。


「――ちょ、ちょっと大貫ッ!

ほ、穂高君はッ!?」


談笑をしていく中で、大貫は不意に腕を愛葉(あいば)に捕まれ、愛葉はキョロキョロと辺りを見渡した後、ムッとした表情で、大貫にその場にいない穂高の事を尋ねた。


「え? 穂高??

あ、あぁ、天ケ瀬の事か!

――天ケ瀬なら、さっき彰達とどっかに行ったけど~~…………」


「ど、どっかって、どこよッ!?」


穂高の居場所を知らない大貫に、愛葉は詰め寄り、追求をする事を止めず、大貫に迫るように続けて尋ねた。


「わ、わっかんないよ~~。

お~~い、若月~~。

天ケ瀬どこ行ったか知らない~~??」


詰められる事に参った大貫は、親友である若月に助けを求めた。


「天ケ瀬?

天ケ瀬なら、さっき彰達とどこかに行ったけど??」


「だから、どこかってどこよッ!!」


同じ答えが返った来た事に、愛葉は更に不満が溜まり、語彙も自然と強くなった。


「そんな事俺に聞かれても……。

あッ! でも、彰と瀬川が浮き輪持ってたし、膨らませに行ったんじゃないか??」


「浮き輪…………。

そ、分かった」


若月から穂高の居場所のヒントを貰った愛葉は、それ以上、若月達に追及することは無く、お礼も言う事は無く、冷たく一言呟き、その場から立ち去った。


そして、そんな出来事の一部始終を、少し離れたところで春奈(はるな)と瑠衣(るい)が、偶々目撃する。


大貫や若月が目立つ存在という事もあり、堂々と話し掛けに行った愛葉は充分、目立っていた。


「やっぱり、見当たらないと思ったら、違うところに居たんだ。

天ケ瀬君…………」


この集合場所に来るまでに、春奈は、とてつもない程の緊張を抱えていたが、いざ、集合場所に顔を出すと穂高の姿は見えず、愛葉と同じように、春奈もずっと穂高の姿を探していた。


愛葉の一件を見て、春奈は少し残念そうに呟き、今は穂高が別の場所に居る事を、初めて知れていた。


「あっ君も瀬川君も見当たらなかったし、何かあるのかとは思ったけど……。

残念だったねぇ~~、ハル~~? せっかく、気合入れてm、意を決する思いで来たのに……。

緊張し損だったね~」


「い、いやッ! まだ、始まったばかりだからッ!!

まだまだ、天ケ瀬君と話せる機会はあるだろうし……。

み、水着だって……、見せる機会は……」


「大胆だねぇ? ハル。

お色気作戦ってところ??」


ポロリと本音が漏れる春奈に、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべ、瑠衣はからかう様に春奈に尋ねた。


「ち、ちがッ! 変な意味じゃッ!!

ふ、普通に、見て貰おうと…………」


「ハイハイ、分かった分かった。

――――それじゃあ、手伝いも兼ねて、天ケ瀬君達のとこ行こっか?」


「わ、分かってないでしょ!? その反応ッ!!」


戸惑う春奈に、慣れた様子で、軽く流しながら瑠衣は、春奈に穂高達の元へ向かう事を提案し、その場から離れるように歩き始めた。


まだからかう様子の残る瑠衣に、春奈は不満を感じながらも、穂高の元へ向かう事には、素直に従い、瑠衣に続くよう歩き出したその時だった。


「春奈、瑠衣?

どこ行くんだ?」


穂高の事を探そうとした春奈と瑠衣に、声が掛かり、声の方へと振り返ると、そこには、仲良くしている男子生徒、大貫の姿がそこにあった。


「もう、みんな早く海に行きたがってるし、俺らも行こうぜッ!?」


春奈と瑠衣が大貫を見ると、大貫は屈託のない笑顔で、海に出る事を誘った。


「――これは……、仕方ないね…………。

一先ず向かおっか?」


大貫の言葉を聞き、春奈と瑠衣は顔を見合わせると、瑠衣は少しだけバツが悪そうに呟き、穂高と会う事は一旦後回しに、集団行動で動いている部分もあった為、春奈に断念するように伝えた。


「う、うん……、そうだね……」


瑠衣の言葉に、春奈も残念そうに呟くと、一先ずは集団から離れないよう、大貫の提案に乗ることにした。

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