第122話 姉の代わりにVTuber 122


 ◇ ◇ ◇ ◇


天ケ瀬家。


チヨとリムのコラボを終え、穂高(ほだか)達は夕食を終え、各々がプライベートな時間を過ごしていた。


「―――――あら? 部屋に居たんじゃないの??」


夕食を終え、一度自室に戻った穂高だったが、静香(しずか)の居るリビングへと穂高は訪れ、リビングに帰っていた穂高を見て、意外そうに静香は声を上げた。


「最近はずっと忙しかったから……。

急に手持ちぶさたになって、暇で……」


「あらら、それはそれは……」


穂高はリビングに訪れた他の理由もあったが、穂高の言葉を聞くと、静香はニヤニヤと意味深な笑みを浮かべた。


静香はリビングにてのんびりと、テレビを見ており、穂高も静香と同じ様に、椅子に腰を掛け、呆然とテレビを見つめた。


「――最近のテレビはどれも面白くないわねぇ~~?

若者が次々とZoutubeに夢中になるのも、何となく分かるわ」


「母さんは別に昔から、真剣にテレビ見てたわけじゃ無いだろ?

番組に興味も持ってないでしょ??

――何か作業する中で、環境音としてテレビを付けてただけで……」


穂高は静香が、昔からテレビを食い入るように見ていた光景が思う浮かばず、いま目の前に映る静香は、明らかに興味を失っている表情であり、穂高が昔から何度も見た事がある表情だった。


(あの冷たい目線……、向けられた方は溜まったもんじゃ無いんだよな……。

実力主義、才能至上主義な部分もあるし、自分の眼鏡に掛からない物には、とことん興味が無いんだろう)


穂高は自分の母親ながら、こう言った部分は恐ろしく感じ、静香事態、どのジャンルであれ、才能を見抜く力、才能を磨くセンスがある為、そんな静香にその評価をされる事自体が、死刑宣告に近い物があった。


「ねぇねぇ穂高!?

――今のテレビ業界なら、私でもやってけそうな気がしないッ!?!?」


今までつまらなそうにテレビを見ていた静香だったが、何かを思いついたように途端に笑顔になり、目を輝かせ、楽しそうに穂高に尋ねた。


(こっっっっわッ……!!)


静香の急な提案に、穂高は内心ドン引きをし、無理だと思いつつも、静香が失敗をする想像は、まるで付かなかった。


「母さんはテレビ業界の事詳しいのか?」


「な~~んも?

――でも、今私が仕事でいる業界もまるで詳しくは無かったし、お父さんの仕事の幅を広げる為にも、異業種にも手を出してるし~~??

出来そうじゃない?」


「規格外過ぎて、俺は何とも言えないよ」


話せば話す程に目を輝かせる静香に、穂高は呆れたように呟き、それ以上静香の言葉には、付き合わないといった様子で答えた。


「何よ~~、つまんなそうにあしらってぇ~~。

――――それに、規格外って言うのは私じゃなくて、お父さんや美絆みたいな人を言うのよ~~??」


目を細め、怪訝そうに言う静香から、穂高は視線を外し、呆然とテレビを見つめ始め、穂高が相手にしなくとも、静香の独り言は少しの間続き、穂高が聞こえるように呟いていた。


「――う~~~ん、でもやっぱりテレビ業界は、コネないし無理かな~~。

テレビマン静香……、可能性ありそうだと思ったんだけど……」


短い間の自問自答で、結論が出たのか、静香は少しだけ悲しそうに呟き、静香の呟きを聞き流し程度に聞いていた。


そして、しばらくの間、二人は黙って、興味も無いテレビを呆然と見続けていたが、穂高はその間で、ここに来たもう一つの目的を果たす為、口を開いた。


「――――母さん……、さっきの話だけど……、母さんの目から見て、そこまで一目瞭然に違うか?」


「違うわね」


穂高は抽象的に質問を投げたが、静香は瞬時に穂高が機関としている事を察し、何気ない様子で、冷たく言い放つように、間髪入れずに答えた。


「――即答かよ…………」


少しは議論の余地もあるかと穂高は考えていたが、静香の中ではすでに答えは固まっており、ため息交じりに穂高は呟いた。


「悩むまでも無いでしょ……。

最近のリムの配信……、穂高の配信には勢いがない。

――他の配信者とやってる事は似通ってるし、配信スタイルも美絆のベースがあるから、大きく奇を衒(てら)った事も出来ない……。

ただでさえ、美絆程の才能がないのに、やることも縛られてて面白いわけ無いでしょ?」


(そ、そこまで…………)


美絆を交えて話していた時よりもきっぱりと、ズバズバと穂高の質問に答えた。


「――でも、まだリムの正体はバレてない……。

視聴数、再生回数に落ち目はあるけど、危険視する程じゃ……」


「そうね。

利口に立ち回ってると思うわ。

――事情を知れば、醜く見えるけど……」


溜まらずテレビから視線を逸らし、話す穂高に対して、静香は依然として穂高には一瞥もくれず、テレビを見たまま、口調は冷たいまま話していた。


そんな静香に、穂高は悔しがるように歯を食いしばった後、それでも問題に向き合う為に、静香に再度、尋ね始める。


「――――どうすればいい……?」


穂高のそんな絞り出した言葉に、静香はようやくテレビから視線を外し、穂高を見つめる。


「それは、どういった意味で聞いてるの?

リムをこのままバレずに、美絆に返す、当初の目的を果たす為……?

それとも……、活動していくうちに、また憧れ始めてしまった美絆に、一度でも数字で勝るため??」


静香の言葉に穂高はすぐに返事を返す事が出来ず、穂高は言葉を呑んだ。


そして、そんな穂高に構う事無く、静香は続けて穂高に話し続ける。


「――別に、私にアドバイスを乞わなく共、前者の目的を果たすだけならば、可能じゃない?

今後の配信で、少し数字を落とす、あるいは引き継いだ時と同等の数字、現状維持の状態で、美絆に引き渡せると思うわよ?

美絆ももうじき退院できるみたいだし……。

多少のトラブルが起きたとしても、穂高だったら何ら問題は無いでしょ……。

今の穂高で、視聴者に成代わりがバレてしまうとは、到底思わないわ。

――――ただ、後者を望んでいるのであればッ…………」


「それはいいッ!!」


静香は淡々とした様子で話し続けたが、最後の言葉は穂高の言葉によって遮られた。


「言われなくとも最初から分かってるし、望んだ事も無い」


「――そう…………」


穂高は断言するように静香に伝え、静香はそれ以上余計な言葉を言わず、穂高の言葉をそのまま鵜呑みにするように、静かに返事を返し黙り込んだ。


話は途切れ、聞きたい事も聞けた穂高は、席を立ちあがり、リビングから出て行こうとした。


「――少し、散歩してくる」


「分かったわ……、あまり遅くならないようにね??」


一言だけ告げると、穂高はリビングから出て行き、静香は社交的に返事を返し、リビングを出て行く穂高を見送った。


「――はぁ~~~~、だから酷な世界に、穂高を巻き込んでるって言うのよ……。

美絆やお父さんのような存在は、素敵な夢も残酷な現実も見せつける。

関わり方を間違えれば、滅ぼすのは我が身…………」


静香は穂高の心配をしながらも、再びまるで頭に、内容が入ってこないテレビを見つめた。

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