第121話 姉の代わりにVTuber 121


 ◇ ◇ ◇ ◇


「――随分と、好き勝手に言ってくれたわね~~? 穂高(ほだか)……」


リムとチヨのコラボ配信も無事に終わり、概ね好評だった事に、一安心していた穂高だったが、姉の美絆(みき)は大変不満そうに、配信が終わるなり、穂高に文句を言いに訪れていた。


「リスナーも喜んでてくれたし、変にコケずに終えれたんだから良いだろ??

――大体、あんな尖った企画、失敗して当然なんだからな!?」


穂高と宗助(そうすけ)の次々と話す暴露話に、文句がある様子の美絆だったが、穂高も、無理やり企画に参加させられた立場であった為、謝罪はおろか、美絆に対立するように答えた。


「次の配信から、絶対に弄られるようになるじゃない!!

――それに、あのエピソードトークもいらないでしょ!! 他にもっと……、何か色々あったでしょッ!?」


「あのエピソードトークってなんだよ……。

色々話し過ぎて、どれの事だか…………」


「お、弟をッ! み、見え張るために彼氏役にして、ネズミのテーマパークに行ってた話ッ!!」


「あ、あぁ~~……、あれね…………」


美絆に指摘され、穂高は話した内容をすべて思い出し、目の前で思い出してはまた、顔を赤くしている美絆を見て、少しだけ申し訳なくも感じた。


「あ、あれはしょうがないでしょ?

チヨのお兄さんが、あまりに強いエピソードトークを持ち込んでくるもんだから……、こっちもそれなりに身を切らないと…………」


「身を切ってるのはアタシッ!!!」


いたたまれなさから視線を外す穂高に対して、未だ納得いっていない様子で、美絆は穂高を強く批判した。


「――Vtuberは、リスナー含め弄られてなんぼ……。

これから先も恥部を晒す事になるんだから…………。

いつまでもオールマイティで、カッコいい所を見せつつげるわけにはいかないと、俺は思うけど??」


「くッ……! ここぞとばかりにそれっぽい事を…………」


穂高の言葉に美絆は、上手く反論する事が出来ず、悔しそうに、吐き捨てるように呟いた。


穂高の指摘は間違って無く、美絆のリム、それを元にした穂高のリムは、どこか万能感溢れるようなところがあり、配信はいつも完璧で、ミスやトラブルが少なく、多彩な美絆だからこそ、そのようなイメージが付いていた。


「別に姉貴の作ってきたリムのイメージを、悪く言うつもりは無いし、結果もついてきてる事だから、正しいとも思う。

だけど、ちょっと変わったところを見せていくのも、リムの新しい引き出しになりそうな気がするけど……?」


「――いっ、言う様になったわね……、穂高…………」


「伊達に数か月も、姉貴の代わりを務めてないからな」


リムの今後の可能性について、隙無く言い包められた美絆は、悔しそうにしながらも、どこか楽し気に声を発し、穂高も得意げに返事を返した。


「はいは~~いッ!! お母さんも穂高の意見には賛成で~~すッ!!」


穂高と美絆が直近の配信について意見を交わしていると、夕食の準備をしていたはずの静香(しずか)が、穂高達の会話に入ってきた。


「お母さん……。

急に話題に入ってこないでよぉ……、それに、お母さんの意見は聞いてないから。

専門外でしょ??」


「ひっど~~いッ!! お母さんを蔑ろにするなんてッ!!

――お母さんだってちゃんとした考えがあって、一視聴者として話してるのにぃ~~~!」


少し興奮気味に、笑顔で会話に交じった静香だったが、美絆に冷たくあしらわれ、そんな二人を尻目に、穂高はつい先程まで、静香のいた台所へと視線を向けた。


「夕飯の支度をさっきまでしてたけど、それはもういいの??」


「あったり前よ~~ッ!!

それで? 穂高はどう? お母さんの意見、参考になる??」


「参考になるわけないでしょッ!

――ねぇ? 穂高?」


「おねぇちゃんには聞いてません!」


再び言い争う二人に、穂高はため息交じりに答え始める。


「はぁ~~……、まぁ、姉貴には悪いけど、参考にはなるわな……。

一視聴者なのは勿論、何より母さんの意見だし…………」


今まで茶化すような、そんな雰囲気が穂高達の中に流れていたが、穂高は真剣に静香の意見が聞きたく、空気を締めるような真面目な雰囲気できっぱりと答えた。


穂高の中で、きちんと聞きたいほどに静香の意見は重要であり、その事については、同じ家族でもある美絆にも充分理解はできていたが、納得がいっていない様子が、美絆の表情に現れていた。


「そ、やっぱり気になっちゃうわよね??」


穂高の返事を聞き、静香はニヤニヤとした笑みを浮かべ、静香の態度が気に入らなかったのか、美絆は更に怪訝そうな表情を浮かべた。


「勿体ぶるなら聞かないぞ?」


「やんッ! 穂高のせっかち~~!!」


未だにふざけた様子の静香に穂高はムッとしたが、それも一瞬の出来事であり、静香はそれ以上に茶化すような態度は見せず、続けて話し始めた。


「――成功と言っても良いんじゃない?

よくこんなでたらめな企画を実行したと思うわ。

純粋にエンタメとして楽しめたと思う」


「そっか……」


穂高は静香からの好意的な意見を聞け、少しだけホッとし、無でを撫でおろした。


しかし、そんな穂高に静香は続けて言葉を発する。


「そこで素直にホッとしてしまう穂高は、まだまだ青くて可愛いわねッ!」


静香の言葉にハッとさせられた穂高は、再び静香に視線を向け、静香は笑みを浮かべてはいたが、心の底から笑っている様には見えず、表情も相まって皮肉の様に見えた。


「ど、どうゆう意味……?」


穂高の声は少しだけ震え、緊張感が高まり、そんな穂高に静香は、容赦なく自分の意見を伝える。


「――――今日の配信……、少し前の全盛期のリムの配信に似ていなかった?

勢い、配信の内容の濃さ……、そして、配信の純粋な面白さ」


静香の言葉に穂高は、思わず息を飲み、体中から嫌な汗がほんのりのにじみ出るような、そんな感覚を覚えた。


「まぁ、少なくとも直近のリムの配信の比べて見ても、凄い勢いがあって面白かったと私は思うわ。

まるで数か月前デビューした、当初のリムの配信を見ているかのような……」


「い、勢いがあったのはコラボ配信だったからでしょッ!?

――それによく事前にネタが練られた企画だったし! 大掛かりな企画だったら、穂高でだって盛り上がるし、勢いも……」


静香の意見を黙って聞く穂高に対して、静香の意見にはあくまで反発するように美絆は声を上げた。


「確かに企画物で穂高が配信したとしても、数字は取れるでしょうね。

でも、コラボ配信で穂高が多くの動画再生数、同時接続数を誇っていたのは、リムの絵を担当していた方との配信だけ……、相性が良いのかしら??

――だけれど、その配信でも今日の美絆の配信の同時接続数と同等の視聴数…………。

更に言えば、デビュー直後のリムの同時接続数には及ばない」


「デビュー直後は、とりあえず見てみようって視聴者もいるし、一概には言えないでしょ?

その意見はまったくもって参考にならない!」


「う~~~ん、まぁ、確かにそうかもしれないわね…………」


「――もう……、テキトーな事言わないでよ…………」


美絆に突っ込まれ、静香は美絆の反論に上手く答える事が出来ず、困ったように唸り声をあげ、そんな静香を見て、美絆は呆れた様に呟いた。


美絆の言葉に、返事を返せなかった事で、この会話は終わりを告げたが、静香の言葉は、穂高にわだかまりを残していた。

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