第120話 姉の代わりにVTuber 120


◇ ◇ ◇ ◇


チヨとリムのコラボ配信。


企画の為に用意された、穂高(ほだか)と宗助(そうすけ)の動画を再生するなり、チヨは大声を上げ、驚いた。


「――な、ななッ、なんでお兄ちゃん顔出してるのッ!? ねぇッ!?!?」


チヨは思わず素の部分が見え隠れし、そんなチヨの反応を見て、リムは喜ぶように、笑い声をあげていた。


「お、おかしいよね? これ……。

とゆうか、なんでリムちゃんの弟君は、きちんとモザイク処理なの??」


「それは、まぁ、ウチは身バレ怖いからさ……?」


「わ、私だって怖いよッ!?」


笑いを堪えながら話すリムに対し、不満が止まらないチヨは、早口で捲し立てるように話していた。


配信が始まる前、始まった直後も、久しぶりの配信という事もあり、少し固まった印象を持っていたチヨだったが、宗助の顔出しにより、一気に緊張どころじゃ無くなっていた。


「――まぁまぁチヨ……、まだ、始まったばかりだからさ?

とりあえず見てみよ?」


「いやいや……、これ以上は見れないよ…………」


宗助の顔出しが分かるなり、動画を一時停止していたリムだったが、嫌がるチヨに従う事無く、再び動画を再生し始める。


「う、うぅぅ~~……、や、やめてよお兄ちゃん~~……」


宗助が話すたびに、呻くような、可愛らしい声を、チヨはしばらく上げていた。


チヨのお兄さん顔出しって凄いな……

兄貴イケメンじゃない?? チヨの家系は美形揃いなのでは…………?

チヨのこないだの配信に、割り込んだ男の声と一緒だな……、やっぱり、お兄さんだったんやッ!

――さて、クレイジーな姉、リムを持つ弟は如何に…………


宗助の顔出しに、コメント欄は当然賑わい、宗助だけでなく、リムの弟である穂高にも、もちろん注目は集まった。


宗助と穂高の簡単な自己紹介を終え、動画はどんどんと進行していく。


「――初配信……、デビュー前の様子……、ですか…………」


編集が凝ってあり、テロップによる質問が動画内に映し出され、その質問に沿うような形で、穂高と宗助は答えていく流れになっていた。


早速、一つ目の質問が投げかけられ、穂高は考え込むように呟いた。


「お、弟君から話します??」


「え、え? あ、じゃあ……」


宗助に話を振られ、穂高が返事を返したところで、思わずリムが声を上げた。


「――ぎ、ぎこちない…………。

ぎこちなさ過ぎるよ! 二人とも!!」


「お、お兄ちゃん、こうゆうの慣れてないから……」


思わず身内の行動に、恥ずかしがるように声を上げたリムに、チヨも終始恥ずかしがるように声を上げ、画面に映る身内に、激しい羞恥心を感じた。


配信ド素人の宗助は勿論、配信慣れしているであろう穂高ですら、ハチャメチャな企画で、どう振舞っていいか、未だに掴めていない様子で、リアルなぎこちない空気を動画から感じる事が出来た。


「――デビュー前……、デビュー前で言うと、姉貴は結構緊張しいなんで、よくビクついてましたね……」


「なッ!? おいッ! その話はやめろ!!」


穂高が話し始めた事で、リムは声を若干荒げるようにして、声を上げた。


「ちょ、ちょっとリムちゃん! 動画止めないでよ~~。

リムちゃんだけ恥ずかしいからって、操作するのはズルいでしょ??」


リムは穂高の言葉で、すぐさま動画を止めており、チヨは同じ動画を見ていた事もあり、不満そうにリムを指摘した。


「チヨ……、この話題は止めよう? 

幸いな事に、動画をこっちで操作できるから、ここは飛ばして次のところ行こう??」


「駄目ッ!! ちゃんと聞きたいし、ここで途切れたら気になるでしょ??

リスナーの皆だってほら…………、見たいって声多いじゃん!」


生配信という事もあり、誤魔化しをすることは出来ず、同じ境遇であるチヨにも、了承が取れなかったリムは、渋々といった様子で、動画を再生した。


そして、動画内の穂高は、デビュー前のリム、美絆(みき)が緊張のあまり、トイレから中々出てこなかった話や、初期の頃は胃薬が手放せなかった事など、全てを赤裸々に語った。


「プッ……、ふふふッ……、ま、まさかリムちゃんが、そんな状況にあったとは……」


チヨは先程のお返しとばかりに、笑いを堪えながらリムをおちょくる様に話し、リムはここまで必死に、隠し通していた事だった為、全てがリスナーとチヨにバレ、悶絶するようなうめき声を上げていた。


あんなに意気揚々と、大先輩に次々に絡みに行ってたのにな?

各先輩方に絡む前に、緊張で胃薬飲んだり、トイレに籠ったりしてる所を想像すると、笑けてくるなッ!!

リム…………、俺達を傀儡(かいらい)と呼ぼうと決めた初期配信でも、そうだったのか??


穂高の暴露により、コメント欄はリムをおちょくる声や、憐れむようなコメントで溢れかえり、こうなる事を恐れていたリムは、そんなコメントを目にし、更に悶絶した。


「――リムちゃん? 辛い?

胃薬飲む??」


「うるさい! 最近は飲んでないもん!」


「ホントかなぁ~~??」


コメントの盛り上がりと、いつもは頼れる存在である、リムの様子に、チヨのテンションも少しずつ上がっていき、活動休止前の感覚が戻りつつあった。


そして、穂高のそんな暴露話を皮切りに、宗助もぶっちゃけるようにチヨの裏話、プライベートの話を語っていき、本人のいないところで話す裏話は楽しい事もあって、穂高と宗助もどんどんと打ち解けていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


天ケ瀬(あまがせ)家 リビング。


リムとチヨのコラボが始まり、穂高はその配信をスマホで見ていた。


(とりあえず、動画のウケは悪くないな……。

スベるかどうかの一か八かだったし、マジで好評で良かったぁ~~)


コメント欄も賑わい出した事で、ようやく穂高の緊張の荷が降り、ここからは1視聴者として、気楽に配信を見る事が出来た。


「――穂高~~? これ、アナタの企画~~??」


動画を視聴することに耽っていた穂高だったが、急に少し離れた位置から声を掛けられ、もう一人、リビングに居る、母親である静香(しずか)へ視線を向けた。


静香は、家族で食事をするテーブルに、スマホを置き、穂高と同じようにリムの配信を、イヤホンを使用し、視聴していた。


「違う……、姉貴の思い付き」


「――ふ~~ん、相変わらず面白い事思いつくのね~~」


穂高の答えに、静香は言葉とは裏腹に、つまらなそうに返事を返した。


「その反応……、とても面白そうには見えないんだけど?」


「何で疑うのよ~。 面白いって!

今の反応はただ感心してただけ~~」


穂高は静香の反応から、査定されている様な感覚を感じ、疑る様な反応を見せたが、静香はそんな事は無いという様に、返事を返した。


「母さんはあんまり、こうゆうの興味無さそうだけど……?」


「何言ってんのよ~~、お母さんはエンタメ大好物だから!

お姉ちゃんの配信も、よく海外で見てたわよ!?

――勿論、穂高のもね??」


「――――ハイハイ……」


おふざけモードに入った静香の相手を嫌った穂高は、テキトーに返事を返し、再びリムの配信へ視線を向けた。


そして、そんな穂高の様子を見て、静香はポツリと穂高に聞こえない程、小さな声で呟く。


「――この動画……、やっぱり穂高は、主役の魅せ方が上手い……。

難しい企画なのに、視聴者が求めるような話題を瞬時に引っ張り出す。

それでいて、美絆の邪魔にはならないよう、配信のノイズにはならないように、前には出ない」


冷やかな目線で配信を分析し、静香の配信の見方は、リムやチヨの反応では無く、穂高の立ち振る舞いだけに注視していた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


杉崎家 一室。


「嘘…………、この話って……」


春奈(はるな)は休日、いつものように『チューンコネクト』の配信を見ており、偶々リムとチヨのコラボ配信を見て、その内容に驚き、思わず声を漏らしていた。


リムの弟として、顔にはモザイクが掛かっていたが、登場当初から、春奈は何処か既視感を、動画の中の人物に感じており、弟の放ったあるエピソードから、春奈の中の疑惑は確信に変わっていた。


「――この動画の弟さんって…………、天ケ瀬君……?」


春奈は衝撃的な出来事の前に、頭が真っ白になり、配信の内容は頭に入ってはこず、ただひたすらに、動画の中の、リムの弟の事が気になっていた。

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