第119話 姉の代わりにVTuber 119


 ◇ ◇ ◇ ◇


時は少し遡り、リムとチヨの配信一日前。


穂高(ほだか)は満足のいく企画の動画を、数日前に撮影し終え、再び外泊届を受理してもらった美絆(みき)と自宅で休日を過ごしていた。


「――――よくもまぁ、何度も外泊届が受理されるもんだな?

病院の医者でも買収してるのか??」


自宅に戻ってくるなり、配信の準備を始める美絆に、穂高は呆れた様子で呟いた。


「そんな事……、出来るわけ無いでしょう??

リムのサインを書いてあげたぐらいだよ……」


「あぁッ!? 買収してるじゃねぇかッ!?

――っていうか、身バレはッ!?!?

そんな事したら危ないだろ??」


予想だにし無い事に、穂高は思わず声を荒げた。


「大丈夫だよ~~。

ってゆうか、入院して間もなくお医者さんには説明してるし……。

守秘義務もしっかりしてる、会社が勧める病院なんだから問題無し!」


「――ホントかよ…………」


穂高は半信半疑で呟き、その会話の流れのまま、美絆に言った身バレの件で、気になる事があり、続けて美絆に話しかけた。


「そういえばさ、『チューンコネクト』の中で身バレしちゃってるタレントって、結構いるんだよな??」


「はぁぁ~~?? 穂高ぁ……、そんな夢の無い事、お姉ちゃんに聞かないのッ!」


「いやッ! そうゆうじゃなくて、真面目な話!!」


穂高は誤魔化そうとした美絆を逃がさず、きちんと答えを貰うために追及した。


「えぇ~~~? あんまりこうゆう話はしたくないけど、バレちゃってる子はいるよね……確かに」


「あ、姉貴の同期で言えば??」


「はいぃぃいい?? 変な事聞くね……、穂高……」


強引な追及の為か、穂高の行動は不審がられ、作業していた美絆は手を止め、穂高へと視線を向けた。


「――こ、今後の事も考えて……、身バレも、どのあたりが安全ラインなのかと……」


「身バレ自体が駄目だからッ!!」


美絆に疑いの眼差しを向けられた事で、穂高はとっさに言い訳を吐いたが、穂高の言い逃れは有効でなく、増々美絆の警戒を強めた。


警戒を強めた事で、穂高はここまでかと諦めかけた時、今度は美絆の方から話し始めた。


「――はぁぁ~~、何を知りたいのかよく分からないけど……、ここまで手伝ってくれてる分、教えてあげるよ…………」


美絆はため息交じりに呟くと、穂高の知りたいことに付いて話し始める。


「巫(かんなぎ) サクラはVtuberになる前、いや、なった後も絵師として活動してるから、顔バレ程度には身バレしてるね?

最近は無いみたいだけど、Vtuberになる前は、イベントなんかも出てたみたいだし……。

――あと、同期で言うなら予知見(よちみ) チヨかな……?

チヨもVtuberになる前は、別の名前でストリーマーとして活動してたし、そっちではマスク有りだけど、顔も出してたみたいだし、身バレはしてるって言えるかもね~~」


「――そっか…………」


穂高は美絆の言葉を聞き、確認したい事が確認でき、ホッとしたようにポツリと呟いた。


「まぁ~~、そう考えると私とエルは、まったくの音沙汰無しだねッ!!

凄くない?? 結構、お姉ちゃんこれからもバレない自信あるよッ!?」


「――買収してる奴が何言ってんだ……。

エルフィオはともかく、姉貴は時間の問題だろ?」


自信満々に、得意げに話す美絆に、穂高は聞きたい事も聞けた為、冷たく言い捨て、その場から離れようとした。


「――穂高ッ」


準備を進める美絆の邪魔をしない為に、その場から離れようとした穂高だったが、美絆によって呼び止められた。


「なに??」


穂高の問いかけに、美絆はゆっくりと息を吐いた後、真剣な表情で、穂高を一点に見つめ話し始める。


「――もうすぐ戻るから…………」


ハッキリとした声で告げられた美絆の言葉に、穂高は美絆が何を言わんとしているか察しが付いた。


「そう……、良かったな……?」


「――――うん、今までありがと……」


穂高は美絆の言葉に、一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに優しく微笑み返事を返し、美絆はそんな穂高の言葉に素直に感謝を述べた。


美絆のお礼を聞き遂げると、穂高は今度こそ、その場から離れていった。


 ◇ ◇ ◇ ◇


チヨ、リムコラボ当日。


今まで準備してきた事の当日という事もあり、美絆は朝から少しだけ慌ただしく過ごしていた。


「――病院から届け出を出してもらってとはいえ、未だ病人なのは変わらないんだから、安静にして欲しいわね~~」


日曜日の朝から動き回っている美絆を見て、母親である静香(しずか)は心配そうに呟いた。


「心配なら注意すれば~~?」


以前の外泊の際も、配信の為に尽力していた美絆を知っていた穂高は、止めても無駄な事を知っていた為、過剰に気にすることは無く、朝食を取っていた。


「私から言ってもお姉ちゃん、聞かないでしょ~~?

穂高から言ってよ~~」


「無理。

とゆうか、俺は姉貴側だから……」


キッパリと拒否する穂高に、静香は「えぇ~~」っと声を上げ、依然として困った様子だったが、そんな静香を見ても、穂高が取る行動は変わらなかった。


穂高は朝食のトーストを食べ終えると、今度は自室で準備を進め始めた美絆の元へと向かった。


「――何か手伝うか?」


「んん~? あ、もう大丈夫……。

ある程度準備はできてるし…………」


「そ……」


美絆の言葉に穂高は軽く返事を返し、普段であればすぐに、その場から離れるであろう穂高だったが、内容が内容の為、穂高も若干ソワソワとしており、落ち着かない様子だった。


「えっとぉ~~、チヨの方は大丈夫なのか?

――こればっかりは、同期である姉貴やサクラ達に、どうにかしてもらった方が良いと思って、俺からは何も出来てないんだけどさ……」


穂高は今日、この日までチヨの一件に関しては、あまり力に成れているとは思えず、チヨが復帰するまでのメンタルケアは、姉である美絆を中心とした六期生で行っていた。


「う~~ん、まだ不安に思うところもあるけど、ある程度までは回復できてるとは思うから、大丈夫だと思う。

――あとは配信してみてって感じだね?

まぁ、何が起こったとしても、全力でフォローして、リハビリに付き合うつもり……。

その為の私とのコラボだしねッ!!」


穂高の問いかけに、ハッキリと断言はしなかったが、美絆はそれでも弱気では無く、むしろ強気答えた。


「頼もしい限りだよ……」


「穂高の先輩リムだからね~~~」


「いや、俺は所属してねぇから」


いつもの調子で、姉弟の軽いやり取りも交わせるほどに、美絆は落ち着いており、穂高もそれ以上不安を感じる事は無くなった。


「――それより、穂高!

動画の方……、期待してるからね??」


「そっちの方は任せとけ!

――きっと度肝抜くぞ?」


穂高はニヤリと笑みを浮かべ、美絆に返事を返し、その言葉を最後に、美絆の部屋から去っていった。


そして、リムとチヨのコラボの準備は整い、遂に運命の配信が始まる。



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