第84話 姉の代わりにVTuber 84


 ◇ ◇ ◇ ◇


「――――あ……、始まってるかな?

――こんチヨ~~ッ!!」


可愛い、朗らかな声で定評のある予知見(よちみ) チヨの配信は、いつもの調子で始まり、チヨの配信の枠で、六期生全員が揃った配信が始まった。


配信は緩やかに、それでいて慣れた様にスムーズに行われ、配信の音量調整、六期生全員の簡単な自己紹介を終えると、チヨは配信に訪れたリスナー達に対して、今日の配信の内容を説明していく。


「よし! 今日はね?

まぁ、配信のタイトルに既に書かれてはいるんだけど、五期生の一周年記念を祝って、『ピクセルクラフト』で、記念アートを作りたいと思います!!」


チヨのチャンネルでやるんだな

一周年記念、楽しみ!

どんな規模の物を作るんだろうか……


チヨの発言で、コメント欄は一気に、五期生の一周年記念の話と、これから作るアートについての話題へと移っていく。


「アートはね~……、まぁ、六期生全員が、まだまだこのゲームに慣れてるわけじゃ無いから、そこまで大規模な物を作るってわけでも無いんだけど……。

大体一時間から二時間の間で、配信の枠4回?くらいで作れるような規模のお祝いアートを作ろうと思ってるよ!」


まぁまぁ、大掛かりじゃね?

六期生がみんなで『ピクセルクラフト』やるのって、結構珍しくない??

六期生それぞれ、得意な物が明確に分かれてるしなぁ~~、団結したら面白くなりそうッ!!

頑張れ~~ッ


普段チヨの配信には顔を見せない層も、六期生全員が揃う事で、様々なリスナーが配信に訪れ、同時接続数は、チヨのここ最近の配信の中でも、上位を誇る程の同接数になりつつあった。


「今日のカメラ役は、私だけになるけど、次回からはカメラ役をもう一人増やしたりするから、今日だけはごめんね~~?

それじゃあ、早速始めよっかッ!?」


五期生の一周年記念まで、そこまで悠長にしている時間は無く、企画も先日決まったばかりという事もあり、準備風景の配信方法までは、六期生の中で固まっておらず、今日の内は一先ず、すぐ配信環境を整えられそうだったチヨの枠でのみ、配信をすることになっていた。


「じゃあ、簡単に役割説明! サクラちゃんから!」


「ほ~~いッ!」


チヨの号令で、サクラから事前にみんなで決めていた役割を説明していく。


サクラとエルフィオは、アートを作るために必要な材料を調達、『ピクセルクラフト』のゲーム慣れているリムとチヨは、決めたデザインを設計通りに作成してく役割となっていた。


デザインに関しては、絵が得意なサクラを中心に練っていき、派手なお祝いデザインを、サクラがまずは絵で書き起こすと、センスの良いチヨがそれを起用するかどうか判断、あるいは修正をし、『ピクセルクラフト』を配信外でも長期プレイするリムが、作れるかどうか、またどの材料を使用するか判断し、デザインを決めていっていた。


設計に関しては力に成れないエルフィオは、今回の配信よりも前に、事前に材料調達を少し先行して行っていた。


既に準備期間に入っている状況ではあったが、配信では初めて見せる準備状況だった為、リスナーからしてみれば新鮮に映っていた。


チヨ達は、役割の説明を一通り終えると、早速作業に取り掛かっていった。


「――あっ、リスナーの皆には、まだデザイン見せてなかったね?

一応、こんな感じの物を作ろうとしてるよ」


作業に入っていき、早速、リムは足場を作っていき、チヨは自分の作業の手を、止めないようにしながらも、配信の事を考え、各々同期が作業している風景と、デザインの設計図のようなものを配信に乗せ、リスナーと情報を供給した。


雑談をしながら、時にはアクシデントにも見舞われ、慣れない手つきで、共同制作をしていた六期生は、段々と効率的に動けるようになり、話題は五期生の話題へと移っていく。


「――五期生と言えばさ~~、皆、どんな思いである~~??」


「えぇ~~? いや、色々あるよ~。

パッと思い浮かんだのは、私たちのデビューしたての頃の、久遠(くおん)先輩かな?」


リムの話題に、サクラは少し唸るように、声を上げ考えた後、五期生の先輩である久遠の話題を出し始めた。


「久遠先輩、仲良くなって、今だから言える話だけど、うっとおしいくらいに、デビューしたてのサクラに連絡くれてたからね!

勿論、当時はありがたいって思ったてけど、今、思い返せば、ちょっとしつこ過ぎたかも」


「――あ、それ、私も思ってた……」


サクラは思い返して、笑みを零しながら話していき、そんなサクラに、同じことがあったエルフィオが声を上げた。


「ちょっと、ウザかった」


「アハハハッ! ウザいって」

「エルちゃんッ!? 流石にウザいは……」


配信中では、普段以上に歯に衣着せぬ物言いのエルフィオはハッキリと答え、エルフィオの言葉にサクラは声を出して笑い、チヨも面白いと感じながらも、エルフィオを諫めるように言葉を返した。


久遠、デビュー当初からそんなことしてたんか!

そういやデビュー前に、色々教えてあげるんだって息巻いてたなww

それだけ、嬉しかったんだろうな、後輩が出来たのが。 確かにウザそうだけどw

六期生もデビューから期間が経って、当時の暴露とかも色々出てきたなw


エルフィオの少し過激な発言ではあったが、コメント欄では批判されることも無く、受け入れられ、五期生と六期生の、今まで語られなかった裏の事情に、興味がある様なコメントがちらほらと見受けられ始めた。


「デビュー当初で言えば、リムちゃんもリアちゃん先輩と色々あったよね?」


「あぁ~~、あれはまぁ、私のデビュー前から絡みがある事は確定してたしね?

キャラクターの設定的にも……」


久遠の話題から、他の五期生のメンバーである、モーリアの話題をチヨはリムに振り始め、リムは思い返す様に答えた。


五期生である、モーリアとリムにはキャラクター設定で近いものがあり、モーリアは大天使という設定を持ち、リムは堕天使という設定をキャラクターに持っていた。


その為、リムのデビュー前から、『チューンコネクト』のファンには、交流があるだろうと噂され、リムがデビューした後、同期を除き、一番初めにコラボをしたのがモーリアだった。


当時、モーリアとコラボしたのは、姉である美絆(みき)だったが、リムの配信を一通り見ている穂高に抜かりはなく、当時の出来事を体験していたかのように答え始めた。


「――天使大戦争って銘打ってコラボしたのに、結局、モーリス先輩のほんわかした感じにやられて、てぇてぇみたいになっちゃったからなぁ~~」


「あれ、見てたけど、凄い好きなんだよな~~

ゲームで対戦したけど、モーリア先輩、弱すぎて相手にならない上に、煽りもまるで効かないから、リムがたじたじになってたし……。

ギスギスとした雰囲気を作れず、ゲームには勝ったけど、人の器としては、リムが負けてたよね」


サクラは、モーリアとリムのコラボ配信を見ており、思い返しては、楽しように言葉を発した。


モーリアとリムの初コラボ配信はとても好評で、仲の良い雰囲気を作りたくないリムに対して、全ての煽りを受け流す、聖母のようなモーリアとの対比は、両ファンにとっても人気のコンテンツになりつつあった。


「あのコラボ以降、仲良くしてるファンアートとかも一杯来て……。

正直、困ってるんだよなぁ~~」


穂高は美絆も言っていた言葉を、そのままリムとして答え、想定していた結果とまるで違う形になっていた事に関して、嘆くように呟いた。


そうして、五期生の話題はその後も尽きる事無く、六期生のコラボ配信は、その後も様々な賑わいを見せ、無事に成功を収めた。

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