第83話 姉の代わりにVTuber 83
「――まぁ…………、無難だね……」
「結局、行き着く先はそこしかないか……」
五期生、一周年記念を六期生として祝う為、三期生であり、この業界では経験豊富なシノブに、知恵を助力してもらい、そのシノブから提案を聞くと、リムとサクラは、言葉を濁しながらも、納得したような言葉を漏らしていた。
「ちょ、ちょっとぉ~~!?
リムもサクラもその反応は何ッ!?」
リムとサクラの反応に、シノブは納得いっていない様子で、言葉を発した。
「――だってぇ~、その案は、私達の中でも既に出てたし……」
「割と、すぐ思いつく案だしね?
集まって意見を出し合ってた当初に、サクラが割とすぐに提案してたよ」
サクラは少し落胆したように呟き、リムは以前の打合せを思い返しながら答えた。
「ま、まぁまぁ、二人とも……。
案は出てたけど、それに決定するほど自信もなかったわけだし、先輩に後押ししてもらったと思えば……ね??」
「チヨ~~~~ッ!!
そうやって、優しい言葉を投げかけてくれるのは、チヨだけだよ~~ッ!!
サクラとリムは、私の事を先輩だと思ってないからね!? 絶対!!」
せっかくこの打ち合わせに、顔を出してくれているシノブを不憫に思ったチヨは、気を使う様に忍をかばうような言葉を投げかけ、塩対応ばかりが続く状況に、シノブはチヨに泣きつくように答えた。
そして、そんな状況の中、一人冷静なエルフィオは、確認するように話し始めた。
「それで、どうする?
元々出てた案ではあるけど、シノブ先輩に出してもらった、『ピクセルクラフト』で一周年記念アートを作る?
私はあり」
「『ピクセルクラフト』のお祝いアートは、ウチが出した案でもあったし、賛成かな~~。
リムとチヨは~~?
リムは元々このゲームよくやってるよね??」
「そうだね、やってる……。
――まぁ、勝手がわかるゲームだしいいかな……。
チヨもそれでいい?」
「うん! 私は問題無しッ!」
エルフィオの問いかけから、シノブの再度提案した案は、六期生の総意を得られ、今まで行き詰まっていた打合せが嘘のように、すんなりとやる事が決まり、話が進み始めた。
シノブが提案した案は、ゲーム『ピクセルクラフト』内で、一周年記念を祝う、アート作るという物だった。
『ピクセルクラフト』というゲーム自体、何かを作るという面で優れたゲームであり、その高い自由度から、独自性あふれる様々な物が作れるゲームだった。
過去にも、今回リム達が行おうとしている事を、『チューンコネクト』の四期生が行っていた事もあり、前例がある事から、参考できるところもあり、取り組みやすい事でもあった。
「問題は、どんなお祝いアートにするかだね!」
「センスの良いサクラやリム、チヨがいるから問題無し。
材料揃えるのは任せて」
やることが決まり、より一層やる気を見せるサクラに、エルフィオは、アートは完全に他の三人に頼るつもりで、他の作業で役に立つ意思を見せていた。
ワイワイと会話は盛り上がりを見せ、決まった内容から、シノブも交え、具体的な案が次々と飛びなす中で、リムは黙り込み、少し別の事で思考を巡らせていた。
そして、そんなリムに対して、知ってか知らずか、サクラはリムに対しても意見を伺う。
「――――リムは~~??
まぁ、五期生のイメージカラーを上手く取り入れるのは、決まりとして……、何か他に取り入れたい要素みたいなのある~~??」
サクラはリムに話を振るが、リムは黙り込んだまま、返事はすぐには返ってこなかった。
「リム~~~?? どした~??」
反応がないリムに、再度、不思議そうにサクラが尋ねると、リムは長考していた考えが、まとまった様子で、意気揚々と話し始めた。
「――アートの件と並行して、もう一つ。
私達六期生で、このイベントを上手く盛り上げられないかな??」
「――え? どうすんの??」
「今までの打合せでは、先輩達とは違った事をやろうとか、新しい形で祝おうとか、そんな事ばかり考えてたけどさ?
決まったものは『ピクセルクラフト』のお祝いアートだし……、もう、最初みたいに変に気負ったり、遠慮する必要は無いと思うんだよね??」
リムは何か大きな重りから解き放たれたような、明るい声色で、サクラ達に提案し始め、リムの言葉にピンと来ていないサクラ達に対して、リムは続けて言葉を投げかける。
「三期生の先輩達もやってた事だし、それぞれの五期生の一周年記念の配信に、お邪魔させてもらおう!
三期生がやってて、凄い好評でもあったし、多分、もう一回……、何回やろうが面白いと思う!
――幸い、経験者のシノブ先輩もいるしねぇ~~」
音声だけの通話だったが、リムが悪い笑みを浮かべながら、最後の言葉を発しているのを、他のメンバーは容易に想像でき、シノブは嫌な予感を感じていた。
「アリだねッ」
「ウチも賛成~~ッ!!
五期生の一周年記念の配信は、個別のやつと、グループ全員の物とで二つ予定されてるしね!?
個別で配信している配信に呼んでもらおうッ!」
リムの言葉に、エルフィオはすぐに賛同し、サクラも賛同するまでに時間は必要なかった。
チヨも「うんうん」と言葉を発しながら、賛成の意を見せ、六期生が行うものとして、二つの物が今回の打合せでようやく決まった。
「それじゃあ、アートよりも、配信にお邪魔する方をパパっと決めた方がいいね!
五期生の許可も早急に取らないといけないし……」
リムの言葉で、サクラ達は一度、アートの話題を保留させ、後から決まった、五期生の一周年記念の配信に、出演する話を決め始めた。
五期生の今回の一周年記念は、大まかな二つのパターンの配信の枠が予定されていた。
五期生の一周年と銘打ってはいるが、正確なデビューは、それぞれ異なり、五期生のメンバーの中でも、デビュー時期に誤差が生じていた。
そのため、一周年記念は個人の物と、グループ全員でお祝いをするものとで、二つの配信が予定され、個人の一周年記念は、ある程度行う内容が確定していた。
これは『チューンコネクト』の二期生辺りから恒例になり、個人の一周年記念を祝う配信の枠は、二期生以降から、内容が変わっていなかった。
「個人配信での醍醐味は、念願の3Dモデルでの配信だからね!!
二期生が3Dモデルで一周年記念の配信をした時、三期生の先輩方は、勿論、モデルがないから、声だけの出演だったよね?」
「んん~~? 私はでも、ガワだけ運営に作って貰ってたかも……。
完全に、ただのパネルだったけどね」
二期生の3D配信を思い出し、シノブは当時の事を振り返りながら話した。
当時、3Dモデルで一周年記念の配信を行っていた二期生の配信に、まだ2Dでのモデルしか存在しなかったシノブは、シノブの絵が描かれているパネル状の物で、二期生の一周年記念を祝っていた。
「まぁ、体があろうがなかろうが、そこはあんまり問題無いと思う。
問題は、誰が誰の先輩の配信に出演するか……、そこだと思うよ!」
シノブは、先輩や後輩、そして自分たちの一周年記念の配信を含め、何度も経験してきた為、ある程度重要になりうるであろうものを理解しており、そのうちの一つとして、誰が誰とペアになる事が重要だと考えていた。
「誰が誰のとこに行くかか…………」
「関係が深いっていうのは外せない条件だね!
でも、一個上の先輩や後輩って言うのは、やっぱり『チューンコネクト』のメンバーの中でも、最も関係が深まる関係だと思うから、特に誰がどの先輩の配信に行こうが、問題は無いと思うけど……。
それでも、特段に仲が良かったり、交流があるんだったらその人の配信には行った方が良いかも」
感慨深そうに呟くサクラに、シノブが経験で思う事を次々にアドバイスしていった。
「それじゃあ、エルはせな先輩で決まりだね!!
FPS仲間で、コラボもどの六期生より多いし!」
シノブのアドバイスを尊重し、サクラは早速、エルフィオの相手を決め、その流れのまま、五期生のコラボ相手の候補を決めていった。
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