第82話 姉の代わりにVTuber 82
◇ ◇ ◇ ◇
「――え、えぇ~~と……、大貫(おおぬき)君と若月(わかつき)君が、俺に聞きたい事って何かな?」
穂高(ほだか)は大貫等に連れられ、人通りの少ない、技術棟へと足を運んでいた。
朝のHRも差し迫るため、穂高はなるべく手短に要件を済ませる事だけを、念頭に置いていた。
「え、えぇ~~と、天ケ瀬(あまがせ)ってさ……?
春奈(はるな)……、杉崎(すぎさき)さんと付き合ってたりすんの??」
「――は…………??」
穂高は面倒事だとは感じていたが、思わぬ大貫の言葉に、思わず声を漏らし、少し間抜けな表情を浮かべた。
大貫の一見、突拍子の無い発言に思えた言葉だったが、穂高は大貫のその言葉で、昔、彰(あきら)が話していた言葉を思い出した。
(あ……、そういや、彰の奴が何か言ってたな?
始めて、杉崎たちと遊びに行く事になった時、大貫と若月が杉崎と誰かを好きだとか……、狙ってるだとか…………。
どっちがどっちを想ってるのか知らないけど、この感じだと大貫か??)
穂高は、今の今まで忘れていた事を思い出し、自分の想像以上の面倒事に、巻き込まれる予感を密かに感じた。
「――え、えっとぉ~~……、冗談だよね??」
穂高はあり得もしない事だと言わんばかりに、苦笑しながら大貫に聞き返す。
「ち、違うのか?
噂とかされたりしてるぞ!?」
穂高は、前回のカグヤ騒動しかり、春奈と一緒に居る事が多々あった為、それなりに二人の関係を噂されていたが、カグヤの一件も解決し、事件時よりも一緒に居る事が少なくなってきた為、噂はかなり沈静化され始めてはいた。
そもそも、傍から見れば、クラス、学園の人気者と、クラスの地味な穂高とでは、つりあっている様には見えず、穂高の交流の多さは一時的なもので、相対的に見れば、いつも仲良くグループを組んでいる彰や、大貫達の方が、春奈との交流は、よっぽど多いはずだった。
「付き合ってないし、俺とじゃ不釣り合いだと思うよ?
確かに噂されたりしてたのは知ってるけど、流石にないよ~」
穂高は自分で言っていて、学校での自分の地位の低さに、悲しく思ったが、当たり前でもある事なので、言葉にする事に、特に抵抗は無かった。
「だ、だよなぁ~~??
春奈もそんな素振りは見せてなかったし、付き合ったら普通、もっと一緒にいるしなぁ~~」
穂高の言葉に大貫は安心したように答え、ホッと胸をなでおろしていた。
(めんどくせぇ~~。
――っていうか、名前で呼び合う程、仲良いんだから、俺じゃなく、本人に聞けよ……)
安心する大貫を微笑みながら見つめる穂高は、口にできない悪態をとことん、心の中で呟いた。
「聞きたいのはそれだけ?
――用が済んだのなら、そろそろ戻らないとッ…………」
穂高は精神的苦痛を感じる事にはなったが、当初の目的である、手短に問題事を解決する事は出来、足早に教室へ戻ろう落とした。
「待てよッ……」
穂高は言葉を発しながら、二人から背を向けようとした時、穂高の言葉に少し被るようにして、今度は若月が穂高を呼び止めた。
穂高は若月に呼び止められた途端、今日一番な、嫌な予感を感じた。
「――な、何かな?」
嫌な予感を感じつつも、呼び止められた以上、そのままスルーするわけにもいかず、平穏な学園生活を送るためにも、若月の呼び止めに応じた。
「――なんで、今日一緒に春奈と登校してきたんだ?
それに、数週間前……。
なんで、仲良くも無いお前と一緒に、春奈が帰ってたんだよ。
それも何日も……」
(うわッ……、ゲロめんどくせぇ…………)
ここに連れてこられて以降、ずっと穂高を怪訝そうに見つめていた若月は、大貫よりも具体的な事を尋ねてきた。
若月の質問に、穂高はあまりの面倒臭さに、顔が引きつりかけたが、グッとそれを堪え、平常心を意識したまま、質問に答え始めた。
「えっとぉ……、杉崎さんから聞いてない??
ズポッチャに遊びにいった時、偶々、趣味が同じだって事に、お互い気付いてさ。
それ以降、お互い趣味友達として、話が合うから、前よりは交流が増えたんだよね……。
でも、基本的に下校と登校で一緒になってたのは、偶然だよ??
――そんな、若月君と大貫君が気にしてるような事、起こりうるわけないでしょ~~」
穂高は内心やり過ぎかとも思ったが、冗談っぽく笑い飛ばす様に、少しだけヘラヘラとした様子で、若月の質問に答えた。
若月は穂高の言葉を真剣な表情で聞き、穂高の答えを聞き終えると、少しだけ考え込み、間を置いた後、話し始めた。
「――――天ケ瀬の言い分は分かった。
だけど、これからは注意してくれないか??」
「注意……?」
まだ嫌悪感を漂わせて話している若月に、穂高は臆することなく、言葉の意味を聞き返す。
「あんまり、春奈に近づき過ぎないでくれって事……。
ここだけの話、コイツは春奈の事、好きなんだよ」
「え?」
「あッ! お前ッ!?」
若月の話した内容を穂高は知っていたが、まさかカミングアウトするとは思ってもおらず、思わず驚き声を零し、暴露されると思っていなかった大貫も、焦った様子で声を上げる。
「趣味友達で仲良くしてるだけの天ケ瀬には悪いけど、気を使ってくれ」
「――わ、わかった…………」
穂高は今すぐ「面倒臭い」と、叫び出したい程の強い衝動に駆られたが、そんな想いもグッと堪え、若月の願いを尊重した。
穂高が承諾したのを確認すると、若月は一言、別れの言葉を告げると、その場から離れていき、大貫はそんな若月の後を追いながら、暴露された事に付いて、文句を言い続けていた。
(やべぇな……。とんでもなく面倒な事になってきた…………。
もっと、素直にズポッチャでの彰の忠告を尊重しておくべきだったなぁ~~。
目立つ行動を取り過ぎた。)
穂高は自分で招いた窮地でもある為、過去の行動を悔い、反省をした。
(――でも、ここで杉崎と距離を置くわけにもいかないしな……。
アイツが合格して、『チューンコネクト』のメンバーになるまで、協力するって約束しちまったし……。
それに…………)
「――アイツ等には、してやれない事だしな…………」
穂高の頭の中には、若月達にいくら忠告されようが、春奈と関わることを止めるという選択肢はなく、去り行く若月達の後姿を見ながら、一度固めた決意を再確認するように呟いた。
◇ ◇ ◇ ◇
「――で? アンタらはまだ悩んでるの??」
夜、21:30。
今日も配信では無く、五期生一周年記念の企画を考える為、裏で通話を繋げている六期生のジスコードに、三期生の大先輩、シノブが加わっていた。
シノブは通話に入るなり、連日、企画を考えて煮詰まっている六期生に、心無い一言を投げかける。
「助けてくださいよ~~、先輩~~!」
「すいません、結局どれもピンと来なくて……」
六期生のサクラは、嘆くように答え、真面目なチヨは、不甲斐なさそうに呟いた。
「先輩は何した?」
誰もが焦っている様子の中、エルフィオだけはブレる事無く、淡々とシノブに尋ねた。
「えぇ~~? あたし等??
――――実は、二期生の先輩に泣きついた。
一周年記念の配信にお邪魔して、コラボしてお礼を言ったり、なるべく配信を盛り上げる様に頑張った」
「二期生の深い懐にあやかったわけね……」
「おいッ! リムッ!!
ちょっと言い方に棘あるよッ!?」
少しでも知恵を貸してもらう為に、穂高がお願いして、この通話の場に呼んでいたが、早速頼りになりようも無い一言を聞き、思わず配信でもなかったが、棘のある言い方で、シノブを小突いた。
「はぁ~~、リムは助けてもらう為に呼んだのに、なんてことを言うんだ……」
「じゃあ、何か良い案出してくださいよ~~」
リムは、先輩に対してだったが、軽い態度を改めるつもりはなく、そんなリムにシノブは、再度ため息を吐くと、今度は自信ありげに話し始めた。
「――私が、後輩にお願いされて、何も考えずにここに来るわけ無いでしょうが……。
良い案……。教えて進ぜようッ!」
自信満々に話し始めたシノブに、リム以外の六期生は、「おぉ~~ッ」と、期待膨らむ声を上げたが、呼んだ張本人であるリムは、少し懐疑的であり、しかし、自分では、これ以上良い案も出ない為、シノブの言葉を素直に聞く事にしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます