第81話 姉の代わりにVTuber 81
「じゃあ、また後で!」
談笑しながら、目的の学校に到着し、穂高(ほだか)と春奈(はるな)は教室の前まで辿り着くと、春奈は穂高に笑顔で別れを告げ、一足先に教室へと入っていった。
憂鬱だった月曜日の朝は、春奈と朝から会話した事で、まだまだ睡眠中気味だった脳が活性化し、いつしか意識がはっきりとしていた。
穂高も春奈に続くように教室に入ると、すぐさま穂高の良く知る人物に声が掛けられる。
「穂高~~~ッ? どうゆう事だぁ~~~??」
意識がはっきりとし、気持ちのいい朝を迎えれそうにあった穂高だったが、聞き慣れた声と、その声から発せられる、面倒事が巻き起こりそうな言葉に、再び気分が重くなった。
「なんだ? 武志(たけし)……、朝から…………」
聞き覚えのある声の主は武志であり、武志の様子から、今日の朝、穂高が春奈と一緒に登校してきた事を知っている様子だった。
そして、武志の口調からその事を言及される事は、考えるまでも無く分かっていた。
「おいおぃ~~、何しらばっくれてんだぁ~~? 穂高君~~~??
見ちゃったよ……、朝から見たくないものを~~。
分かるよね? しらばっくれても無駄だよ~~??」
「――めんどくさッ」
穂高の予想通り、武志は穂高と春奈が今朝、一緒に登校してきたことが不満な様子であり、面倒な事になる事が確定した瞬間に、穂高は隠す素振りも無く、本心を口に出した。
「いやいや……、いやいやいやッ!
面倒なのはこっちだよ……。
朝からこんな気分にさせられてるんだからさ~~??」
「はぁ~~~……、瀬川(せがわ)~、助けてくれ~~」
完全に嫉妬で狂ってしまった友人を前に、穂高は大きなため息を付き、まともな方の友人である瀬川に助けを求めた。
少し離れた位置で、自分の席で何かしらの本を読んでいた瀬川は、穂高の声に反応し、一瞬視線を向けるも、助ける気はまるでなく、すぐに視線を切り、あっちに行けと言わんばかりに、手首を振った。
「なぁ~~に、助けを求めてるんだ??
とゆうか、朝のあれは何なんだ~~??」
「うっぜぇ~~よッ! 偶々登校してる時にあって、話しながら登校しただけだよ」
「偶々~~~??
偶々会っても、一緒に登校することになりますかねぇ~~~??
こないだ四条(しじょう)さんと、偶々通学路で会いましたけど、僕にはそんな偶々起きませんでしたけどねぇ~~~??」
「嫌われてんだろ」
「――はいッ! こいつ、今一番言っちゃいけない事言いました~~!!
殺します!」
あまりの面倒さに、穂高は率直な感想を述べると、武志は穂高の首を絞めにかかった。
「――――だぁぁああッ! うっとおしいわッ! ボケッ!!
説明してやるから来い!」
首を絞めに来た武志を、穂高は振り払い、まだ教室に入って自分の席にも付けていなかった為、武志を呼びながら自分の席へと向かった。
穂高が自分の席に着くと、武志は当然ながら、近くの男子生徒の席を借りて座り、そして、穂高と武志の会話を聞いていたのか、本を読んでいたはずの瀬川も、穂高の近くの席へと移動していた。
「助けに来なかったのに、こういう話はちゃんと聞きに来るんだな、瀬川……」
「まぁ、天ケ瀬の言う通り、本当に何にもなかったんだろうけど、面白そうだからな」
瀬川の言葉に穂高は、今まで以上に大きなため息を付き、登校してからの自分の荷物を纏めながら、朝、何があったのかを淡々と話していった。
「――――以上! 説明終わり!!」
本当に大した事は、穂高と春奈には起きてはいなく、あった事実を簡単に、手短に穂高は説明し、説明が終わると同時に、まだ終わってはいない、授業の準備を始める。
「本当にそれだけか~~??
もっと何かあったんじゃないか??」
「いつになくしつこいなお前……。
逆に何かあって欲しいのか??」
「ぐっ……!! な、なんだお前ッ!!
朝、一緒に四天王と登校で来た者の余裕か??」
穂高の言葉は何故か、武志にとってのクリティカルヒットに繋がり、冗談のような反応だったが、武志はいたって真面目に、真剣に答えていた。
「おい……、本当にどうにかしてくれ、瀬川……。
――てゆうか、武志。
一限目の英語の小テスト、対策しなくていいのかよ?
点数低いと補修だぞ??」
「そんな事どうでもいい!
どうせ、今更あがいても無駄だしな!」
「あっそ……」
穂高は武志に呆れ、武志とは違い、小テストに向け、一応、勉強をし始めた。
「天ケ瀬が小テスト対策を朝やるなんて、珍しいな?」
「んん~? あぁ~、まぁ、最近忙してな?
あんまり、勉強できて無かったから……」
穂高の行動を瀬川は珍しそうに見ながら話すと、穂高は器用に問題をこなしながら、瀬川の質問に答えた。
「女とのメールだろ」
「しつこいな……。
何もないっての……。 自分で言ってて悲しいけど、お前と同じ!」
「俺と同じなのは、悲しい事じゃねぇよッ!?」
穂高は面倒くさがりながらも、武志を垂れた様に相手にし、会話を続けた。
「大体な? 先週のお前の方が可能性あったんだぞ??
一緒に遊んだんだろ? 杉崎(すぎさき)達とかと……。
行けなかった俺に自慢してきたじゃねえか」
穂高は、武志の面倒くささから、先週の出来事も思い出し、武志にそれを告げた。
「先週の事はいいんだよ!!
――とゆうか、先週も休日一緒に遊んでた俺よりも、お前の方が、何か関係が進展してそうなの、おかしくな~~い??
おかしくないですかね~~??」
「はぁぁぁ~~~。
彰(あきら)に頼んで、もう一回セッティングしてもらえよ……。
今日登校してきた時も言ってたけど、杉崎さんはお前いると面白いって言ってたぞ??
良かったな、お前みたいな変わり者を面白がってくれて……」
「マジッ!?!?」
皮肉めいた様子で発した穂高の言葉だったが、武志にその皮肉は通じず、純粋に穂高の言葉に喜び、明らかに表情が明るくなった。
武志が少し勘違いしているような、ポジティブに受け入れすぎているような感覚を、穂高は感じたが、嘘を付いているわけでも無かった為、武志の捉えたいように、春奈の言葉を捉えさせた。
そうして穂高は、朝の時間を三人で過ごし、会話は途切れることなく、様々な話題へと変わっていき、朝のHRまで後、数十分までに差し掛かった。
穂高は一通り、テストの対策を終え、教材を閉じ始めたその時だった。
「おい……、天ケ瀬……」
武志や瀬川と談笑している穂高に、二人の男子生徒が訪れ、その内の一人が穂高へと声を掛けてきた。
穂高が声の方へと視線を向けると、そこには珍しい人物、あまり会話をした事の無い、大貫(おおぬき)と若月(わかつき)が立っていた。
穂高はこの二人を知っており、このタイミングで声を掛けられた事で、既に嫌な予感を感じていた。
「ちょっと、話があるんだけど」
穂高と視線が合うと、大貫はそう伝え、穂高は嫌な予感をビンビンに感じながらも、断る理由も無く、素直に大貫の要望に答え、席を立った。
「いいよ? 大貫君と若月君が聞きたい事が、俺にあるとは思えないけど」
穂高は武志たちと話す砕けた口調から、丁寧な口調へと変わり、穂高が自分が思う、クラスでのスクールカーストを配慮した、分相応な立ち振る舞いへと態度を変えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます