第80話 姉の代わりにVTuber 80
桜木(さくらぎ)高校 通学路。
穂高(ほだか)と春奈(はるな)は、通学途中、偶然に出会い、『チューンコネクト』のオーディションに受かった事、二次試験に付いての話をしていたが、その話題も行き詰ったところで、話題は変わり、世間話へと移っていた。
「――それでね? 松本(まつもと)君が負けちゃって~」
「あぁ~~、何となく想像付いた。
武志(たけし)はアホだからな~~」
春奈は、穂高が不在だった、休日の出来事について、思い出し笑いをしながら、楽し気に穂高に伝え、友人である武志の行動が、穂高には簡単に思い浮かんでいた。
「彰が調子良いから、武志もそれが気に入らなくて、良いとこ見せようとしたんだろう、どうせ……。
前回のボーリングでコテンパンにされたのになぁ~」
「そういえば、そうだったね~!
――でも、松本君がいるとその場が明るくなるし、楽しかったよ?」
「その場の女性陣全員に、そう思って貰えれば、アイツも浮かばれるかもな……」
穂高の知らない、穂高が行く予定であった休日の出来事を一通り聞き、楽しい出来事を語っていた春奈は、少し興奮が治まり、一瞬だけ会話は途切れ、二人の間に静寂が訪れた。
そして、この休日の出来事を話している中で、どんどんとある事について聞きたくなっていた春奈は、一瞬の静寂の中で、気持ちを整え、一呼吸置くと、それを穂高に尋ね始めた。
「――――ねぇ、天ケ瀬君……。
気になってた事があるんだけどさ…………。
天ケ瀬君ってか、かかッ、彼女とかっているの……?」
「はぁッ!?!?」
会話が途切れた後の春奈の一言に、穂高は思わず驚き、大きな声を上げてしまう。
「なッ、なんで急にそんなことを??」
「いや、こないだの休日の事を話してたら、やっぱり、あのお昼のお店の前での事を思い出して……」
「――あの時の事か…………」
穂高は思い出しない出来事を思い出し、明らかに具合が悪そうな、ばつの悪い表情を浮かべていた。
「瑠衣(るい)と一緒に、あの時の二人の女性に付いては教えて貰ってたけど…………、なんか、天ケ瀬君がっていうのが意外というか……、なんというか…………。
彰(あきら)から聞いてた印象と違うというか……」
春奈は、以前の休日の出来事を、好奇心満載な瑠衣に付いていくような形で、後日、穂高から説明を受けていたが、穂高をよく知る友人、彰から聞いていた印象と少し違う事に、少し前から疑問を感じていた。
「――まぁ、俺は女子の友達……、とゆうか交流があんま無さそう……、っていうか、実際学校では無いしな……。
ここ最近は、ちょっと異常なだけで……」
穂高はバツの悪い表情のまま、呟くように答え、最後の一言は、誰にも聞こえないくらいの小さな声で、答えた。
そして、オブラートに包むような、ものすごい遠回しで、モテていないという事を暗に伝えられ、穂高は少しだけ、内心傷ついていた。
「――でも、こないだも四条(しじょう)に説明したように、面白い話は一つも無いぞ??
恋バナの足しにもならない。
武志の事も馬鹿にできない程、そういって出来事も無いしなぁ~~」
穂高自身がそういった恋愛に、興味があるわけでは無かったが、モテたいといつも嘆く武志を馬鹿にできる程、モテる事も無く、女子が楽し気に話している、恋バナの話題の種も持ち合わせてはいなかった。
先週の瑠衣に説明した時と同じように、穂高は自分に面白い話題は無いといった姿勢を、春奈に対しても貫いていた。
「そ、そうなんだ……」
まだ疑っているのか、春奈の呟いた言葉は何処か歯切れは悪く、穂高も違和感を感じたが、続けて強く否定する事も、妙に見える為、それ以上、この事に関して、自分から何かをいう事は無かった。
「――でも、俺なんかよりも杉崎さんの方がそういった話には、話題が尽きないじゃないのか?
それこそ、彰と付き合ってるんじゃないか~とか、俺でも聞いた事あるし」
穂高は、ここまで春奈と友好的になる前に、何度か、春奈と彰が付き合っているという噂を聞いた事があった。
何の他意も無く、ただ興味本位で聞いた穂高だったが、何故か穂高の質問に、春奈はみるみると青ざめていった。
「――え……? あ、天ケ瀬君もその噂聞いたことあったの…………?」
「え? な、なんか聞いちゃマズかったか??」
青ざめた表情の春奈に、穂高は聞いてはいけない事を、聞いてしまったのでないかと、穂高まで内心ヒヤヒヤとし始めた。
「い、いや、聞いちゃいけない事は無いけど……。
――ま、まさか……、天ケ瀬君にまで噂が届いてたなんて…………」
理由も分からず落胆する春奈に、穂高は地雷を踏んでしまったと、後悔し、心の中で焦っていたが、そんな穂高の心配はすぐに解消される。
春奈が落胆したのは少しの間だけであり、すぐに平常心を取り戻すと、穂高の質問に付いて答え始めた。
「これ、何度否定しても出てくる噂なんだよね……。
彰とは本当に友達で、何にもないのに…………」
春奈は少し困ったように話しており、穂高は気の毒にも感じたが、春奈には悪いが、やはり、彰と春奈はそうなってもおかしくない程には、周りの目から見て仲良さげであった。
「杉崎と彰には悪いけど、やっぱりよく聞くぞ?
俺も彰に否定されるまではそう思ってたし……」
「そう思ってたんだ…………」
穂高の言葉で、再びどんよりとした空気になっていく春奈を、穂高は災難に感じた。
「ま、まぁ、まず下の名前で呼び合ってるって言うのが珍しいしな?」
「瑠衣も梨沙(りさ)も燿(ひかる)だって呼んでるのにぃ~??」
「俺にそう言われてもな……」
段々と愚痴になりつつあった春奈の言葉に、穂高は困惑しながら、男女同士で気軽に、名前呼びをしている春奈達の世界を、自分の常識が当てはまらない、陽キャラの別の世界だなと感じていた。
「なんで私だけ、こんなにも彰と噂が立っちゃうかなぁ~~。
はぁ~~…………」
「――その~~、い、やっぱり、好きでもない人と噂されるのは嫌なもんなのか?
とゆうか、彰だったら、桜木高校の生徒の殆どが認めるイケメンだと思うけど……」
「う、う~~ん、複雑というか……なんというか…………」
「――明確に嫌なんじゃないなら、そのままでも良いんじゃないか?
否定してもすぐに立つような拭えない噂だし……」
煮え切らない答えの春奈に、穂高は放置するように促すと、少しの間春奈は黙り込み、考え込んだ後、決心したように顔を上げた。
「やっぱり嫌だよッ!
今、確信した」
「な、なんで急に……」
キッパリと嫌だと答えた事で、穂高は内心、少し彰を可哀想に思った。
「彰の事は友達として好きだけど、そういうんじゃないし!
――す、好きな人に勘違いされたままになっちゃうし……」
「え? 杉崎さん好きな人いるの??」
春奈の言葉に、驚きと同時に反射的に穂高は質問が口に出た。
「え? あ、いやッ……、しょ、将来の話ッ!!
いッ、今いるとかじゃなくてッ」
「将来??
そ、そうか……」
春奈の言い分に少しピンと来ていない穂高だったが、何故かこれ以上追求するなという、春奈の強い意志を感じ、それ以上の疑問を飲み込んで、納得したように言葉を呟いた。
しかし、こればっかりは、協力しようにも、何を手助けして良いか、穂高は全く想像付かなかった。
「――ま、まぁ、嫌なら今後も根気よく否定していくしかないんじゃないか?」
穂高は簡単なアドバイスしか出来なかったが、その後も、学校に付くまでこの話題に、春奈に付き合わされる事になった。
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