第74話 姉の代わりにVTuber 74
店から出てきた翼(つばさ)の言葉により、その場一気に静まり返り、事態は穂高一番危惧していた状況へと変わりつつあった。
「――あ、あぁ~~、えっと~~月城(つきしろ)さん? どうかしました??」
穂高は今までよりもより一層、顔が引きつり、同受け答えして良いか分からず、一先ず外へ出た理由を尋ねた。
「どうしたもこうしたも無いでしょう?
私一人を残して、外に出て……、穂高さんこそ外で何してたんですか?」
しどろもどろで、明らかに様子のおかしい穂高に、翼は少し怪訝そうな表情を浮かべ答えた。
「ほ、穂高さん……」
春奈(はるな)は始めてみる女性が、穂高の名前を下の名前で呼んでいる事に驚き、思わず言葉を零し、近くにいた瑠衣は春奈のその言葉に気が付いた。
「ま、まぁ、俺は今日は帰りが遅くなるからちょっと連絡を……」
穂高はリムに関連付く事がバレるのだけは避ける為、言葉を最大限に濁し、この説明だけで伝われと、言わんばかりに翼に念を送った。
「なるほどね……。
――それで? そちらの女性方々は?」
穂高の思いは通じ、穂高の言葉から翼はリム関連で席を外していた事に気づき、それ以上追求することは無く、もう一つ、この場で気になっていた事を尋ねた。
「あ……、私たちは天ケ瀬君のクラスメートで……」
「仲の良い友人ですよッ?」
穂高から春奈達へと視線を逸らし尋ねた翼に対して、春奈は素直に答えたが、何故か春奈の受け答えに、付け加える様にして、満面の笑みを浮かべながら瑠衣(るい)も答えた。
「ちょ、ちょっと瑠衣ッ……」
「え? 何か間違ってる??
何度か遊びに出かけているし、今日だってホントは…………」
春奈は瑠衣を諫める様に、声を掛けたが瑠衣は止まる事無く、翼と穂高の関係を知るためにも、余計な言葉を付け加え、天然を装う様に言葉を零した。
(四条(しじょう)の奴……、面倒な事言いかけるなよ…………)
穂高は瑠衣が天然で、そういった事を言うタイプには思えず、何か意図があって、最後に言いかける様に呟いたのに気づいてはいたが、その意図までは読み取れず、そんな事よりも今は一秒でも早く、この場を収める事を考えていた。
「なるほど……。穂高さんは断りを入れたわけね。
まぁ、私からのお願いを断れるわけも無いか」
「ゔッ……」
瑠衣の言いかけた言葉で、翼はこの日を迎えるまでの、穂高のいきさつを大方把握し、瑠衣とは違いこちらは至極素直に、何の他意も無く、天然的に呟いた。
穏便に何事も無く、変に誤解される事も無くこの場を切り抜けたかった穂高は、鈍いうめき声にも似た事を呟き、翼の言葉に、春奈と瑠衣は当然反応する。
「――――え……?」
「天ケ瀬君? そちらの月城さんとはどういう関係なの?」
興味があるのにグイグイと質問できない春奈に代わり、瑠衣はズバズバと、まるで尋問でもするように質問を繰り返した。
「――え? あ、あぁ、親戚だよ。
遠いけどね~……」
穂高は乾いた笑みを浮かべながら、濁す様に瑠衣の質問に答える。
(なんか、リムを引き受けてから、最近、俺って嘘しか付いてないような気がする……。
まぁ、大前提として、入れ替わるなんて、大きなハッタリを成立させる為には、小さな嘘を積み上げて、辻褄だけは、狂わないようにするしかないんだけどな……)
余計な事を考えながら、瑠衣の質問に答える穂高に、瑠衣は納得のいっていない様子で目を細める。
「ふ~~ん、そうなんですか……。
ゲーム友達で……、オフ会で……、親戚…………」
(勘ぐってる…………。
俺の言った言葉を並べて、様子を伺う様に……。
怖い……、怖すぎる…………。
――ってゆうか、俺が何か悪い事したかッ!?
遊びの約束を断って、ってのはアレかもしれないけど、別によくある話だろ……。
別の友達と約束が被って片っ方の方を断るなんて)
瑠衣の追及は緩むことなく、穂高はまるで蛇に睨まれたカエルの様に、その場に立ちつくしか無く、作り笑いを崩す事の無いように必死に努めた。
何故か追い詰められている状況に、穂高は理不尽も感じつつも、変なところからリムに関連する何かが、バレる事だけは避けたかった。
(時間的にも、ここで四条の質問をずっと受け答えしてたら、他のオフ会のメンバーも店から出てきちゃうしな……。
――ここは強引に行くしか無いか……?)
受け答えをする中で、穂高は考え、瑠衣から話を切り上げて貰う事が不可能だと分かり、強引にでも話を切り上げようとしたその時だった。
「――天ケ瀬君! ごめんね? こんなとこで長く引き留めちゃって……。
ほら、瑠衣ッ! 忘れ物取りに来たんでしょ? 早くお店の中に行こうよ!」
穂高の心を読み取ったかのように、春奈は声を上げ、穂高に助け舟を出した。
「えッ!? ちょ、ハルッ!?」
瑠衣はまだまだ穂高と翼に、質問を続けるつもりだったのか、春奈の言葉に動揺し、また、自分と同じ、あるいは自分以上に、穂高と翼に関して気になってたであろう春奈が、この場での会話を切り上げようとした事に驚いた。
(ナイス! 杉崎(すぎさき)ッ!!
流石、一緒にストーカーを撃退しただけはあるな! 罰の悪いこの状況救ってくれた!)
現状をどうすることも出来なかった穂高は、自分の意図を組んでくれたように行動した春奈に感謝し、春奈が救いの神にすら見えていた。
「わ、忘れ物あるといいなぁ~~」
穂高はホッとした様子で、調子の良い事を口走りながら店に向かう春奈と瑠衣にそう声を掛けた。
「ちょッ、ちょっと! ハルッ!? 良いの? このままスルーして!」
瑠衣は自分の手を引っ張る春奈に、春奈以外には聞こえない程の小さな声で尋ねた。
「良いの……。 天ケ瀬君だって困ってるし……、あんまり聞かれたく無い事だって、誰にでもあるでしょ?」
「――でもッ、あんな……、明らかな嘘。
気になるでしょう!?」
瑠衣は穂高の言葉が嘘であると見抜いており、春奈も何となく穂高に嘘でなくとも、的を得ていない返答をされ、のらりくらりと交わされている雰囲気を感じていた。
「――確かに気になるけど……、しつこく聞いて嫌われたくない」
「ハル…………」
春奈の言葉を最後に、瑠衣はそれ以上何も言葉を返す事は出来ず、春奈の言う通り、素直に忘れ物を取りに行くふりをしようとした。
そんな時だった。
「あれ~~? 穂高じゃんッ!? 何してんの? こんなとこで……」
見送る穂高に春奈が視線を切ったその時、自分たちの後ろにいる穂高が、違う女性に声を掛けられたのを感じた。
「げッ!? ハチッ!?!?」
珍しい艶やかな紫色の髪をした女性に、穂高は声を掛けられると、苦虫を噛みつぶしたような表情を浮かべ、声を上げた。
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