第73話 姉の代わりにVTuber 73
瀬川(せがわ)と思わぬところで出会い、危うく四条 瑠衣(しじょう るい)とも出くわし掛けた穂高(ほだか)は、その危機を何とか無事に乗り越えた。
そして、翼(つばさ)と一緒に訪れた、今回の友好を深めるための食事会も、かれこれ数時間もの時間を弄していた。
(――あいつらは……? 流石にもう居なくなったか…………)
穂高は先程、瀬川と出会った際に、瀬川を含めたグループが、どこで食事を取っているかを確認しており、丁度10分前程に、お店から退席しているのを確認していた。
穂高のグループもお店に居る時間も長時間になってきていた為、そろそろ場所を変えるかどうかという話の流れになり始めていた。
「――う~~ん、流石にお食事だけじゃどうかと思うんだけど……、皆はどうかな??
中々集まれないメンバーだし、せっかくだからもうちょっと友好を深めたいな~~とか思うんだけど……」
「そうだね~~……、まだ時間的にも遅いってわけでも無いし…………。
せっかくならもうちょっと、ボーリングとかカラオケとか行きたいけど」
今回のまとめ役であり、主催の櫛田 遼太郎(くしだ りょうたろう)は名残惜しそうに、そして、翼(つばさ)の様子を伺いながら話し、櫛田の意見に乗るように谷(たに)も答える。
翼は視線とその場の雰囲気で、自分が二次会を肯定すれば、そのまま別の場所へ行く流れになっている事を察した。
そして、翼は答える前に、今日、絵師でもないのに付き合ってくれている穂高へと視線を向ける。
「――俺は問題ないですよ?
この後も予定は無いですし…………」
「そう……、じゃあ、せっかくだから行きますか」
翼の雰囲気から穂高も察し、自分の返答次第では、今後の二次会が無くなるとも考え、気を利かせて翼に今後の予定が無い事を伝えた。
数時間話し込んだ事で、翼は今日初めて出会った、自分と同じ仕事をしている、絵師達と打ち解けてはいたが、それでもこの中で、一番関りが深い、何かと交流がある穂高がいなくなることは、翼にとって不安の一因になっていた。
(まぁ、見た目が真面目そうな分、まともに見えはするけど、この人友達少ない……、というか、姉貴しかまともに友達って言える人いないらしいしな……。
そう考えれば、今日の月城(つきしろ)の交流は、凄い事なんだよなぁ~~……)
まだ出会って数か月の期間しかない穂高だったが、翼の事を何となく理解し始めており、事情を知れば、今日の彼女の行動は、考え深くも思えた。
「よしッ! じゃあ、いきましょッ!!
どこ行きます? お店出る前に決めちゃいましょ!」
「――あっ、じゃあ、皆さんで決めておいてください。
私はちょっとお手洗いに……」
翼からの答えを貰うと、他の人たちは各々動き出し、皆が意気揚々とした様子で、次の予定を決め出し始めた。
それぞれの動きを見つつ、穂高も二次会が決定になったと同時に、やらなくてはならない事が出来たため、周りの雰囲気を見つつ、断りを入れる。
「すいません、ちょっと一本だけ連絡いれてきます。
帰りが遅くなると親が心配するんで……」
親が海外に赴任している穂高は、生まれて初めてそんな言葉を口走り、自分でもその言葉に拭いようのない違和感を感じながら、苦笑いに近い、愛想笑いを浮かべ、若干固い笑顔のまま、その場を抜け出した。
(今日の配信、20時からだからな……。
帰りが遅くなってそこまで食い込むとは思えないけど、二次会が決定になった以上どうなるか分からないし……。
ズイッターで今日の配信が中止になる事を投稿しないと…………)
穂高が所属している『チューンコネクト』では、配信に対して事前に告知を入れる事が多く、まめな人でなくとも、来週一週間の配信のスケジュールを告知したりしていた。
ストリーマー自体、ゲリラで配信する事も多い為、「ここまでスケジュールを管理しなくても」と、穂高も考えた時期はあったが、『チューンコネクト』には熱量が高いファンも多くいる為、告知しているのに配信が始まらないと、余計な大きな心配をかけてしまうなどといった、問題が起きかねなかった。
(とりあえず、店出てから、文字打つとして……。
文言をどうするか……)
穂高は今日に限らず、学生という身分もあった為、配信を中止するという事を何度か行っており、特に何か気負う事も無く、いつものように告知する事だけを考えていた。
そして、お店を出たその時だった。
「――あッ! 天ケ瀬(あまがせ)君じゃん!?」
何も身構える事無く、無防備に考え事をしていた穂高に、聞き覚えの女性の声が掛けられ、店を出たところに立っていた二人の女性を見て、穂高は一気に頭が真っ白になった。
「似てるな~~って思ったけど、やっぱ天ケ瀬君だったね!
何してるの? こんなとこで……」
穂高は続けて掛けられた質問に脳が追い付かず、すぐに返答が出来なかった。
「――――なッ、なんでここに……」
穂高は驚愕の表情を浮かべただ呟く事しか出来ず、質問に対して質問を投げかけた。
穂高の前に立っていたのは、数分程前に退店したはずの四条 瑠衣と杉崎 春奈(すぎさき はるな)だった。
瑠衣とは、先程危険な場面に出くわしており、何とかその場はバレずに乗り切ったと、穂高は考えていたが、今、目の前に立つ瑠衣は、何処かイタズラめいた笑みを浮かべており、その笑顔を見て穂高は、先程の場面で存在がバレていた事を悟った。
そして、そんな瑠衣に対して隣に立つ春奈は、どこか申し訳なさそうにしているようにも見え、穂高の様子を伺っているように見えた。
「ん? 私達、天ケ瀬君が出てきたお店で、さっきまで昼食を取ってたんだよねぇ~~」
瑠衣は穂高が自分と同じお店に居た事に気づいてはいたが、それをまるで感じさせぬ様子で淡々と答え始める。
「それでさ~、実は私がお店に忘れ物しちゃってさぁ~~。
春奈は、それに付き合って貰ってるの」
「――そ、そうなんだ…………」
明るく振舞う瑠衣とは対照的に、穂高は笑顔は引きつり、誘いを断っている手前、この状況を激しく気まずく感じていた。
(――さっき出くわし掛けた時も思ったけど、やっぱり俺が同じタイミングで、このお店に居た事気付いてるよな……?
怒ってる様子には見えないけど、明らかに何かに気付いてるというか……、こっちを試してるような感じが…………)
先程のハプニングもあり、穂高の計画はマックスまで引き上げられ、尋問を受けているようにも感じられた。
(まぁ、気付いてるにせよ気付いてないにせよ、この場からすぐに離れてもらった方がいいな……。
翼(つばさ)先生も、他の先生方もいつ店を出てくるか分からないしな……)
「忘れ物、見つかるといいな!」
穂高は強引と思いながらも、今自分が出来る最低限度の、清々しい笑顔を浮かべ、別れを告げる様に片手をあげ、お店の中へと戻ろうとした。
「――あッ! そういえば、天ケ瀬君の事に気づいた時なんだけど、一緒に居た綺麗な女の人たちは、天ケ瀬君の大人なお友達??」
「は、はぁッ!?!?」
瑠衣達に一度は視線を切った穂高だったが、瑠衣の思わぬ発言を聞き、流石にそのままスルーすることはできず、勢いよく振り返り、聞き返した。
瑠衣の表情はニヤニヤと、穂高の反応を楽しむような表情を浮かべており、春奈は少し申し訳なさそうにしながらも、この話題には興味があるのか、瑠衣の発言を注意するような事はしなかった。
「同じ学校の人には見えなかったし、何より私達よりも年上の方々に見えたから……。
同年代の方達ではないでしょう?」
「はぁ…………、そういうことか……。
もっと言い方、他にあるだろ…………。
まぁ、俺よりも年上の人が多いな……」
「――やっぱり……、どんな繋がりなの??」
ため息交じりに答える穂高に瑠衣は続けて質問をし、穂高は何でそんな事を瑠衣が気にするのか分からなかった。
しかし、このまま質問に答えず、はぐらかしてお店に戻る方が、答えるまで話しかけられそうに感じ、すぐにこの場から離れたい、離れて欲しい穂高は素直に瑠衣の質問に答え始めた。
「ネットの繋がりみたいなもんだよ……。
ゲーム友達……。
今日はオフ会みたいなもん」
穂高はその場で作り上げた嘘を淡々とした様子で答え、穂高の言葉に瑠衣は、「ふ~~ん」と意味深に呟いた。
「――もういいか? 連れも待たせてるだろうし、詳しくは今度学校で聞いてくれれば教えるし」
穂高はこの場でテキトーに答えるより、数日儲けた後、答えた方がより矛盾などの穴なく答えられると思い、急いでいる風を装い、お店へと戻ろうとした。
「――あッ、待ってッ!!」
少し素っ気なくも見える穂高の対応に、春奈は少し寂しそうに穂高を呼び止めた、そして、その声が穂高の耳に届いたその時だった。
「穂高君……、あなたお店の外で何をやってるの?」
お店の扉をガラリと開け、穂高がやり取りをしているその場に、お店から出てきた翼が声が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます