第72話 姉の代わりにVTuber 72



「ど、どうでしょうか……?」


穂高(ほだか)は静まり返った状況の中、恐る恐る、周りの人達の表情を伺いながら尋ねた。


「――う~~ん、悪くはない……、悪くはないんだけど、

指摘しようと思えば、気になるところは結構あるよね?」


穂高の問いかけに、櫛田(くしだ)は言葉を濁しながら答え、そんな櫛田の言葉に賛成のなのか、穂高を擁護する声は上がらなかった。


(まさか、こんなにも緊張する事になるとは…………)


穂高は、先程店の外で提案したため、自分が用意した作戦を実行せざるを得ず、チャンスと思い、その作戦を実行したのはいいものの、凄い辱めを受ける事となっていた。


穂高は会話がどんどん盛り上がるようにと、プロの絵師に聞きたい点や、イラストレーター同士で話していても、ついつい熱くなってしまうような、そんな深い議題を次々と話題に出し、素人の穂高が聞いていても、興味深いような話がどんどんと出て来ていた。


翼(つばさ)も勿論、その話題には参加し、彼女自身も大切にしているポリシーだったり、考えがある為、意見をぶつけては、興味深そうにうんうんと深く頷く事が増え、何もかも思い通りに進んでいると、穂高はそう感じていた。


しかし、盛り上がった話題は、穂高の予期せぬ方向へと飛び火し、質問する事ばかりが多かった穂高だったが、その姿は熱心に絵の勉強をする姿にも見え、ならばと、穂高の絵をみんなで評論しようという流れへと変わってしまっていた。


(一応、俺がリム関連で、絵の練習の為にスケッチしてた物があったから、今は凌げてるけど……、これは危ないよな~~…………)


プロが見れば、絵の描き方で、どの人物が書いたか分かるという事を、穂高は聞いた事があるため、リムの身バレも含めて、今の状況は恐ろしくも感じていた。


そんな穂高に対して、同じように穂高の絵を総評している翼は、飄々としており、現状のマズさに気付いていないのか、堂々と他の絵師と同じように、欠点を探していた。


(何であんなに平然としてんだ……? 会話に夢中で気になってないとか??)


穂高一人だけが危機感を感じ、少しの沈黙を経て、穂高の絵に対して感想が投げられ始めた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「はぁ~~~…………、しんどかった……」


長い間、自身の絵に関してのアドバイスを全員から受け、メモしなければ聞き入れない程のアドバイスを受け続けていた。


数分間、ほぼ講義のような時間を過ごし、煮詰まったところで、穂高は一時避難も兼ね、トイレへと向かった。


(俺が一応、そっちの志望って事になってるし、それを知ってるからこそのアドバイスだから、無下に出来ないよなぁ~~……。

リムにも影響が出る事だから、ありがたいっちゃ、ありがたいけど……)


何とも言えない気分のまま、穂高がトイレへと到着すると、丁度使用中だったのか、前に使っていたお客がトイレから出てきた。


穂高はそんな人を、当然気にすることは無く、入れ替わるようにトイレに入ろうとすると、呼び止められるように、不意に声を掛けられた。


「――あれ……? 天ケ瀬…………?」


穂高は声を掛けられた事に驚くと同時に、その耳に届いた声は、穂高にとってとても馴染のある声だった。


まさかとは思いつつ、振り返ると、そこには穂高と同じように驚いた表情を浮かべる、瀬川(せがわ)の姿があった。


「な……、なんで瀬川が…………?」


穂高は今ここではあまり合いたくない人との出会いに、嫌な予感を感じつつ、度重なるストレスから胃に痛みを感じ始めた。


「――いや……、何でって、天ケ瀬が断った遊びの約束今日だろ?」


「それは、知ってるけど……、ズポッチャにまた行くんじゃないのか??

とゆうか、ここ南室(なむろ)だぞ? 地元じゃないだろ?」


「地元じゃなくとも、目的地は南室で間違ってないよ……。

ZCRAP? リアル脱出ゲームやらお化け屋敷やらやるんだと…………」


焦る穂高に対して瀬川は憂鬱そうに、今日の予定に付いて話し、瀬川の話す予定を、穂高はまってく把握していなかった。


(相変わらず、興味なしのテキトーかよ……。

――でも、まいったな……、俺が行かないと決まってから、まるでpain見て無かったからな……。

流し読みでもきちんと目には通すべきだった。)


穂高は誘いを断って以降、今日の事もあり、準備やらなにやらで、瀬川たちの予定に関しては、一切無関心なところがあった。


結果、穂高の思い込みの部分もあり、偶然にも目的地が被ってしまうという、珍現象が起きてしまっていた。


「――――まぁ……、こうして会ってちまったんだからしょうがねぇよな……。

他の奴ら……、特に武志(たけし)とかも来てるんだろ?」


「勿論。

元々、松本(まつもと)が持ってきた話だしな? 今も楽しそうに女子と喋ってるよ」


確認の為穂高が尋ねると、瀬川は自分の仲間たちがいる方へ、視線を向けながら答え、穂高はその視線を追い、武志たちの姿を確認した。


「悪いけど? 黙っててくれないか??

特に武志には……。 分かるだろ?」


「バレたら面倒だろうな?

――とゆうか、天ケ瀬は何でこんなとこいるんだよ……。

急用ができたとか言ったてけど、一人じゃないんだろ??」


瀬川は穂高の事をよく知っていた為、このお店に穂高一人がいるとは考えられず、瀬川もまた気になっていた事を尋ねた。


「まぁ、お前と似たようなもんだよ……。

俺もあれらの付き添いみたいなもん」


穂高は瀬川に対しては特に隠すつもりも無かった為、親指で軽く、翼たちがいる方を指し、自分も呼び出されている立場であることを伝えた。


「――え? あれって…………。

お前、松本にバレでもしたら面倒な事になるぞ~??」


「だから黙ってて欲しいんだって……。

後で……、いや、今度学校で会った時、いくらでも質問に答えてやるから」


「――――分かった……。言わないでおいてやるよ」


瀬川は穂高が女性と食事に来ている事が分かると、焦った様子で穂高に言葉を返し、瀬川の言っている事を穂高も瞬時に理解し、バレた後をの事を想像すると、面倒な事になるという事は容易に想像できた。


「何がどうなって、そんな事になってるのか分からないけど、どうせ今の状況に手を焼いてるんだろ?

――俺は何もしてやれないけど、まぁ、頑張れよ?」


「そっちこそな」


お互いに本意ではない集まりに招集された身である為、お互いに何となく苦労が分かり、穂高と瀬川は深い事情を話し合わなくとも、変に分かり合えていた。


そして、長く席も外すわけにもいかず、トイレから出た瀬川が、その場から離れようとしたその時だった。


「――あれ? 瀬川君?

瀬川君もお手洗い??」


透き通る女性の声が二人に投げかけられ、瀬川も穂高も自然と体に力が入り、身構えた。


「あ、あぁ……、ちょっと飲み物を飲み過ぎたみたいで…………」


瀬川は苦笑いを浮かべながら、声を掛けてきた四条 瑠衣(しじょう るい)の受け答えをし、穂高はバレないよう、視線は一切、瑠衣には向けず、トイレへと駆け込もうとした。


「へぇ~~、そうなんだぁ~~……。

――後ろの人は知り合い??」


 「 「--ッ!!」 」


冷たい様にも感じられる声で、淡々と発せられた瑠衣の言葉に、穂高達はビクリと体を震わせ、自らの耳を疑った。


「――え? えぇ?? な、何のこと??」


瀬川は完全に動揺しており、穂高をかばおうとしてくれはしたが、完全に様子がおかしくなっていた。


「さっき、ちらっと瀬川君の姿が見えたんだけど、後ろのその人と話しているように見えてね?」


「――だッ……、は、話してたかなぁ~~?

出てきた俺とぶつかりそうになって、会釈みたいな感じな事はあったけど……」


「へぇ~~、ふ~~ん……」


瀬川は何とか穂高をかばう為、返答をしていたが、傍から聞いていたらとても怪しく見え、瑠衣の反応から見ても、瀬川を怪しんでいるのは一目瞭然だった。


穂高は、流石にこの状況に耐えることが出来ず、そのまま二人の会話が聞こえていなかったようなフリをし、トイレへと逃げ込んだ。


(――――あ、あぶねぇ~~~。

いや、あぶねぇ~っていうか、確実にアウトだったよな?

約束蹴って、こんなところにいるのが印象悪かったのか??

何はともあれ、瀬川の奴、嘘つくの下手くそすぎるだろッ!!)


瀬川のあまりにも下手な芝居に文句を付けながら、一先ず真正面から穂高だという事を指摘されなかった事については安堵し、帰ってからの翼たちの対応について、改めて考え始めた。


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