第71話 姉の代わりにVTuber 71

 ◇ ◇ ◇ ◇


「あッ、帰ってきた!

おかえり~~、今ね? 君の先生に付いて色々と聞こうと思ってたんだよねぇ~~ん」


意を決して戻った穂高だったが、予想とは反し、今まで翼を中心として会話が進んでいた構図は無くなり、当初のように様々なグループに別れ、穂高はまだあまり話したことの無い女性イラストレーターに声を掛けられた。


拍子抜けを食らった穂高だったが、まだ自分の先程伝えた作戦を、使う事になるかならないか、判断が付かなかった為、気だけは抜かずに、その集団へと向かって行った。


「えぇ~~と、穂高君、だったよね??

月城さんって美人じゃない? 結構モテたりするの??」


「はぁッ!?」


席に着くなり全く予想もしていない話題を振られ、穂高は思わず声を上げた。


「何当たり前の事言ってるのよ、穂乃華(ほのか)……。

そんな事より~、穂高君と先生ってさぁ、ずばりどんな関係なのッ?」


リムの話題どころが、ガッツリプライベートな話題になっている事に、穂高は困惑しながらも、女性陣に変な誤解が生まれている事を問題視した。


「いや、どんな関係も何も……、先生がさっき申したように、師匠と弟子みたいな関係ですよ……。

遠いですけど親戚ですし……」


「そうだねぇ~、親戚だった……。

――――でも、それはそれで良い…………」


「へ……?」


「あ、いやぁ~ッ、何でもない何でもない!」


穂高の答えに、永井 雪(ながい ゆき)は何故か満足そうに呟き、最後の方が細々とした声で聞こえずらかったが、穂高は不運にも最後の言葉を聞き逃す事は無かった。


冗談だと自分に言い聞かせながら、穂高は永井と谷(たに)の様子を観察した。


「――ちなみにさ? 穂高君……。

先生とは同棲?」


「そ、そんなわけでしょう!?」


続けて飛んできた谷からの質問に、穂高は動揺しながらも、二人の考えてる事を何となく予想し始めた。


(この人たち……、俺と月城さんを何かのネタにしようとしてないか?

嘘か真か分からないけど、姉貴に聞いたことがある……。

こういったクリエイターの中には、シチュエーションに拘る人が多いとかなんとか……。

同じ部類なのかは分からないけど、やれ何受けやら何攻めやら言ってるとか…………)


美絆(みき)からやや間違った知識を教えて貰っていた穂高は、警戒レベルが引き上げられ、疑った目線で2人をますます見つめるようになる。


「同棲してないのかぁ…………。

でも、して無くてもいいか」


「良いアイデア貰っちゃった!

早速、今度書いてみよう」


「あぁ〜〜ッ! 雪(ゆき)ズルい〜〜。

私が先に思い付いたのに」


谷と永井の話を聞き、穂高は完全に固まり、呆然としていた。


(マジか、この人ら…………。

何でも素材? アイデアに変えてしまうんだな……。

貪欲というか、何処までも自分の欲求に従順というかなんと言うか…………)


言い争いながら話す2人を見て、穂高は理解出来ないと感じながらも、楽しそうに見え、羨ましくも少し思えた。


「眩し…………」


穂高は自分でも気付かず、ポロリと言葉を零した。


そして、そんな2人を見ながら、ある事を思い出す。


「あっ! そうだッ!

おふたりに聞きたいことがあったんです!

あ、おふたりだけでなく、出来れば全員に……」


穂高はここぞばかり自信満々に声をあげ、そして、自分の思い通りになりそうな流れにニヤリと笑みを零す。


「ん? なになに??」


穂高の言葉に谷は優しく、興味を持ったように内容に付いて尋ねる。


「プロの皆さんってどういった発想? 思い付きで、あんなシチュエーションで絵を書くんです?

皆さんの絵を見た事は勿論あるんですけど、なんか、自分なんかじゃ思い付かないような、構図が多くって…………」


穂高は絵師の卵らしいような質問を2人にぶつけた。


今日の為に穂高は沢山の絵を見てきていた。


その中でも、気になる事が沢山あり、質問の球なら大量に用意してきていた。


「え? 構図かぁ〜〜……、まぁ、重要だね……」


穂高の質問に谷と永井は、真面目にどう答えるか悩んでくれ、直ぐに上手い答えは出なかったのか、谷は他のイラストレーターにも話を振り始めた。


(しめた…………。これで、どんどんと人は巻き込める……)


穂高の1つの質問を機に、再び話し合いは1つのグループ化し、先程約束したように、絵についての話題を主題に持ってくる事が出来ていた。


しかし、そんな穂高の思惑は思わぬ方向へと転がり出す。


◇ ◇ ◇ ◇


「ど、どう? 聞こえる??」


レストランの一室。


ご飯を食べる目的とは他に、入店した瑠衣(るい)は春奈(はるな)にヒソヒソと尋ねた。


「ちょっと、遠すぎて……、何も聞こえない……」


視線を他の席に座る集団に視線を向けながら、春奈は残念そうに呟いた。


「だよね…………。

にしても、まさか本当に天ケ瀬(あまがせ)君だったとは……。

他人の空似かと思ってたんだけど」


瑠衣と春奈は、穂高の様な男性を偶然見つけ、今日、穂高が何らかの外せない用事がある事を、穂高の友人から聞かされていた為、必然と気になり、丁度お昼時でもあった事から、遊びに行くので集まった人達に、お昼を提案し、半ば強引に、この穂高が入っていったお店を指定していた。


瑠衣はお店に入る事が決まってから、少し不自然だったかもと後悔していたが、特に他の面々に疑われたり、怪しまれたりするという事は無く、すんなりとお店に入ることが出来ていた。


「結構な人が集まってるね……。

男女含めて8人??

――天ケ瀬君もまさか私達の誘いを断って、こんな事をしているとはねぇ~~」


今日の誘いを断られた事に、それほど不満は感じていなかったが、瑠衣は嫌味っぽくそう呟き、その言葉は春奈を焚きつけるような発言にも見て取れた。


「天ケ瀬君だって色々あるでしょ?

変な事してるわけじゃ無いし……」


「まぁねぇ~~…………」


段々と語気が無くなる春奈に、瑠衣は適当に相槌を打ちながら、より穂高の集団に注目する。


「――なんか、大人??

私達より年上だよね? 同世代がいない??」


「た、確かに……、少ないかも…………」


瑠衣の指摘で春奈もようやくその事に気づき、その光景から変な推測が思いついた。


(天ケ瀬君って、大人の知り合いが多いよね……?

それこそ、こないだのストーカーの時だって、佐伯(さえき)さんっていう知り合いがいたし……。

も、もしかして天ケ瀬君って、年上の人が……?)


同年代の自分と比較しても、穂高は大人びた性格や考え方をしており、彼の周りに親以外の大人が多い事で、年上の人の方が、馴染みやすいのではないのかと、春奈はそんな事を考えた。


そのようにいろいろのな以降が、頭の中で巡るが、直接本人に聞いた事も無く、この状況からの考えからでは推測しか出ず、答えが得られることは無かった。


そんな、もどかしい状況の中、春奈達も違う方向から質問が飛び始める。


「春奈? 春奈は何にするの??」


何かと交流が多く、よく話か掛けられる事の多い大貫(おおぬき)が春奈へと声を掛けてきた。


春奈は正直それどころでは無かったが、よく遊んだりと交流もある大貫を邪険には出来ずに、穂高の事は一旦諦め、今日集まった面々の会話へと入っていった。

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