第63話 姉の代わりにVTuber 63
「負けた…………、最終回なのに、負けた……」
衝撃的な配信を終え、穂高はしばらく放心状態のまま、その場で呟いた。
リムの『サカなる』配信は、数分前に無事終了し、配信に来てくれたサクラとチヨとも、配信終わりに軽く談笑をした後、各々、次の予定がある為に解散し、緊張が解けたそんなつかの間だった。
「あんなに攻めて、あそこで負けるかね? 普通…………」
リムの率いるチームは、後半戦の出だし良く、ボールを再び奪い返した後も、追加点を決め、無事に同点に追いついていた。
しかし、三点目が中々決まらず、シュートチャンスも数度あったが、どれもがゴールをとらえきれずに、試合は遂にPK線へともつれ込んでいた。
(ドイツのGKがいるから、PKでも勝てると思ってたのに、キッカーがまるで入らなかったな……)
PK線では珍しく、リムのチームも、サウジアラビアのチームもGKが奮闘し、お互いが二本撃っている状況になってもゴールは決まらず、三本目にしてようやくゴールが決まり出す、試合の流れになっていた。
そして、命運を分ける最後の五本目。
シュート力という能力の数値を見て、エディットで作成したク〇ロナに、五本目のシュートを託したリムだったが、ク〇ロナのシュートはポストに阻まれ、返しに五本目のシュートを相手に決められたことで、リムのチームは敗北した。
(後半戦、シュートチャンスが3回あったのに、その2回はク〇ロナが外してたしな……。
後半戦の内容をもっと信用するべきだった…………)
自ら助っ人として作り出した選手に、まさかの首を絞められるという展開に、配信的には盛り上がりを見せたが、掲げた『サカなる』での目標は達成できなかった。
(まぁ、あの選手のおかげで笑い話になっただけましか……、負けて、尚お通夜みたいな状況にはならなかったしな……)
穂高は配信を一通り振り返り終わると、今まで気づかなかった空腹に意識が向き始める。
「腹減ったなぁ……」
13時ごろから配信を始め、約2時間ほど行った配信により、現時刻は15時を越え、昼食を食べていない穂高にとって、それは当然の出来事だった。
配信疲れの体を起こし、コンビニに向かう支度を整えると、穂高は街中へと向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
四鷹駅。
穂高は駅に着くなり、昼ご飯を買いに直行という事は無く、日用品を買ってから、昼ご飯を買いに行くつもりでいた。
雑貨屋を周りながら、携帯で今日の残りの予定を確認し、姉から時折来る、リムに関しての相談の返事を返した。
姉、美絆(みき)からのメッセージの殆どは、リムのグッズの事に関してや、今後の活動に関してのすり合わせの話が主であり、リムのグッズの相談に関しては、穂高に対して、好みなどを聞いてくる事が多々あった。
美絆 穂高~~ッ、これのリムの衣装どっちがいいかね?
私的には、この紫の衣装の方がありだと思うんだけど……
≪画像付き≫
穂高 俺も紫の方がリムの印象にはあってると思うぞ?
――ってか、そんな事は俺に聞くなよ……。
姉貴の考える事だろ?
美絆 えぇ~~~ッ! 今は二人でリムをやってるわけだし、
別にいいじゃん……。
後、もうすぐリムの一個上の先輩達、5期生の一周年記念があるけど、
何やるか、考えてたりしてるの?
穂高は淡々と、姉のメッセージに返事を返していたが、5期生の一周年記念の話になると、携帯を操作する手が止まった。
(5期生、一周年記念ねぇ~~……)
リムの一個上で、近い先輩という事もあり、6期生のデビュー時にはいろいろと、コラボであったり、配信の事で助けてもらったりしていた間柄ではあったが、穂高にとってはあまり面識も無く、そういったイベントがある事は知っていたが、特に何かを用意したりといった事は無かった。
穂高 特に何も考えて無かった……。
サクラとか、チヨ等はなんかする予定あんの?
美絆 聞いたことは無いから分からないけど、何か感謝の気持ちを、
伝えるだったりはするはず……。
あんたも、何でもいいから先輩に何かしなさい。
(なんかってなんだよ…………)
あまりにもざっくりとした物言いに、思わずため息が出る穂高だったが、美絆の言っている事は正論であり、一番近い後輩であるからこそ、何かしらしないといけないのは事実ではあった。
(まぁ、まだ一周年記念までは時間があるし、色々考えてみるか……)
穂高は姉とのやり取りを、一度中断させ、日用品の買い物を済ませ、コンビニへと向かった。
(えぇ~~と、この後の予定は……、夜、20時から和歌月(わかつき) カグヤとのコラボ配信。
その後、24時からメンバー限定配信か……。
メンバー限定はさておき、カグヤとのコラボが心配だな)
いつもと同じ昼食を選びつつ、今日の予定を再度確認する穂高は、この後に控える配信の心配をしていた。
カグヤとは、春奈(はるな)のストーカー事件の際、美絆が連絡を取っており、美絆から絡んだことで、あれよあれよという間にコラボが決まり、穂高にとっては初めての先輩とのコラボ配信でもあった。
(まぁ、カグヤ先輩は二期生で、何年も配信者とやってる以上、内容に関しては心配はしてないけど、こっちが持つかだよなぁ~~……。
姉貴のリムでノリが合えばいいけど……。
ゲームも得意じゃないFPSだし)
穂高はリムを引き受ける前、趣味で配信していた時は、配信の8割がひとりでの配信だったため、基本的に誰かとコラボしたりといった事が、得意では無かった。
(なんだかんだで、ソロ配信やメンバー限定の配信が一番楽ではあるよな……。
基本的に一人でだべるだけだし…………。
今日のメン現の配信も、『ピクセルクラフト』やりながらゆる~く話すだけのつもりだし、気楽……)
穂高は今後の事を考えながら、コンビニで会計を済ませ、いざ、家へ帰ろうとコンビニを出た時、街中で見覚えのある後ろ姿を見た。
その特徴で、鮮やで深い紫色の長い髪に、穂高は少しだけ懐かしさを感じていると、その髪の持ち主が示し合わせたかのようにゆっくりと、穂高の方へと振り返った。
「――――え……?」
穂高はその特徴のある髪を見て、思い出す人物が一人いたが、その人物がこの場にいるわけがないと、すぐに結論を出していた為、振り勝ったその髪の持ち主の顔を見て、思わず声を漏らした。
目を点にさせ、その場で硬直する穂高に、紫の髪を持つ女性も気付いたのか、一瞬驚きの表情を浮かべ、その後すぐに、満面の笑みを浮かべ、こちらへ向かって手を振った。
紫色の長い髪といった、パンクな見た目に似合わず、顔は少し幼げで可愛らしく、服装もロックな見た目ではあったが、美女というよりは、美少女という形容の方がしっくりくるような、そんな見た目をしていた。
そして、紫髪の美少女は穂高へと近寄ると、昔と変わらぬ気さくな挨拶を穂高に投げかけた。
「――――やっほ~~! 久しぶり! 穂高ッ!!」
穂高の良く知るその女性の声は、昔と変わる事無く、透き通る声をしており、目の前の女性が、思い浮かんだ女性と一致した事を穂高は確信した。
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