第62話 姉の代わりにVTuber 62
後半が始まり、10分が経過し、リムは後半戦の先制点を決め、点差は1点まで詰まった。
「2-1だ!
良い感じじゃない? 前半戦、相手がゴールを決めた時間よりも、時間掛かってないよ!!」
守備重視から一転し、攻撃に作戦を切り替え、リムのチーム『チューンコネクトウォーリアーズ』は、流れを掴みつつあった。
サクラは、まだこの試合で初めて取ったウォーリアーズの点に、興奮が収まりきっていない様子で話した。
「やれば出来る子達だから!
体力のギリギリを攻めた練習が功をなしたね!!」
あぁ~~、あの地獄の特訓ねww
あのサッカー以外の自由を奪われた、管理された環境…………
刑務所とか言われてたなwwww
リムの言葉を皮切りに、リムが作り上げたクラブチームの施設の話へ、コメント欄は話題を移し、サクラやチヨはそのコメントを見逃さなかった。
「け、刑務所…………」
「リム……、これは、ゲームではあるけど、程々にね……?」
チヨもサクラもドン引きの様子で、リムに話しかけ、そんな二人にリムは必死に弁明をする。
「刑務所じゃないよッ!! クラブ施設に娯楽を置けるほどの金銭余裕がなかっただけ……。
それに、この試合を勝てれば、賞金が貰えて、クラブ予算も増える……。
そうしたら、今度はもうちょっと娯楽にもお金を回すよ」
嘘つけッ!ww サウジアラビア戦に勝ったらグラウンド増やすって言ってたやろッ!ww
今ある、既存のクレイコートを人工芝にするとも言ってたな
強い海外選手を契約するとも言ってた
リムの弁明は苦しく、過去の配信での発言をリスナーへと取り上げられ、すぐに嘘がバレる。
「り、リムちゃん…………」
「見事に傀儡(かいらい)にバラされてるね」
リスナーのコメントにチヨは悲しそうな声を上げ、次々とリスナーからボロを出されるリムに、サクラはニヤニヤと笑みを零していた。
「――――い、いや! じょ、冗談だから!!
それに、ほら! 結局、私の導きでクラブチームはここまで成長してるんだよ!?
難しいと言われる、ポゼッションサッカーだってここまで出来るんだから」
リム……、選手のパスワークがここまで良くなってしまったのは、君の操作ミスからだよ……
丁寧に練習メニューを決めてたのに、確定を押さなかったせいで、約半年、パス練習しかしてなかったなww
――――ちなみに、このパスの練習はGKも一緒になってやっていました……≪lucky(ラッキー)≫
ほれッ、君のお母さんも見とったぞwwww
「お母さんッ!?!?」
Zoutubeの特定の人物のコメントは、見やすくなっている仕様に、リムの生みの親であるluckyのコメントが流れ、リムは驚きの声を上げ、激しく動揺した。
「暴露が止まらないねぇ~~~」
「可哀想な、選手の皆さん…………。
――ん? GKの人が、ドイツ人の助っ人の方の理由ってもしや……」
あ…………
ついに、ウォーリアーズの最大の闇に触れてしまったかチヨ……
リムの指示通り、練習をこなしてきたのにスタメン入りしていないGK……
「ちょ、ちょっと待ってッ!!
み、皆の意見だから……、傀儡の総意で生まれたチームだから!
その意味では、時折配信を見てくれて、コメントをしてくれた、お母さんの意も含まれてるからッ!」
全方位から責め立てられるリムは、大いに焦りながら、何とか強引に責任を分散させようと頑張った。
り、リムッ! お母さんに向かってなんて事をッ!!
チームの練習に関しては、俺らの意見では無くただのミスなんだよなぁ~~
お母さん……、悲しいです≪lucky≫
リムの攻められている流れに、luckyはそのノリに乗っており、コメントのだけの為、表情は見受けられなかったが、明らかにこの状況を楽しんでいるように思えた。
(や、ヤバい……、この人を陥れようとする悪意……。
流れを変えなくては……)
配信的には盛り上がってはいたが、このままだと暴露大会から、無い事までも書き込まれる恐れを感じ、配信時間も考慮して、流れを断ち切る方法に穂高は考えた。
「も、もう勘弁して……。
ほら、ゲームも止まってるから再開するよ……?」
逃げた……
俺らには容赦なく罪をなすりつけるのに
まぁ、いいだろう、日頃の意趣返しも十分できた
充分リムを弄れたのか、リスナーには満足するようなコメントがちらほら見受けられ、リムはそんなコメントを尻目に、ゲームを再開させた。
「相手ボールだね! 凄い怖い」
チャンスから一転して、難しい局面になったリムは、思わず苦笑いをしながら、戦況を冷静に判断した。
今のこのチームは守るチームじゃないしな
まずは、ボールを奪うとこからだな
リムが現在戦っている相手チームは幸いにも、スタメンで起用されていたFWがベンチに下がっており、MFもそこそこに体力が削られている為、ボールは前半より、奪いやすい状況にはあった。
そして、現状で何よりもありがたかった事が、相手のポストプレイヤーの不在だった。
前半戦は、優秀なポストプレイヤーがいた事により、自分のゴールから近い位置でボールを保持され、簡単にサイドから抜けられる場面が多かった。
しかし、その選手が後退になった今、前半のような攻め方は決まりずらくなっていた。
「落ち着いてぇ……落ち着いてぇ……。
スペースを潰しながら、相手にプレスをかけて」
操作は出来ないが、穂高はグッとコントローラーを握りしめ、声にも緊張感が漂った。
「点を取った事でより緊迫してるね」
「――――これ、ゲームだよね?
なんか、選手から緊張感すら感じれるんだけど……」
嵐の前の静けさといった形の現状に、チヨもサクラも自然と体に力が入り、ふとした瞬間に我に返ったのか、サクラは苦笑しながら話した。
サクラも気付いたか……、このゲームの選手は生きているという事に……
無機質なのに、なんか漂ってくるんだよなぁww
リアルと混同してきてる奴、多くて草
サクラやチヨが感じている緊張は、勘違いといったわけでなく、配信を見ているリスナーにも伝わっており、たかがゲームではあったが、各々が変な熱を感じられていた。
リムチームは、上手く圧力を掛けながらも、陣形だけは崩さず、無理にボールを取りに行くことはしなかった。
硬直している状況ではあったが、見ごたえが無いわけでは無く、応援の勢いも、点を決めている事もあり、熱が籠る。
そして、試合の硬直は思ったよりも早くに終わりを告げた。
「取ったッ!! よし、繋げッ!繋げッ!! 繋いでけぇぇええッ!!」
サウジアラビアの選手の足元は上手くなく、パスミスから、零れたボールがリムのチームに渡り、点を決めた攻めの形を、急いで整わせていく。
取られた直後は、バタつきがある為か、危うい場面が続いたが、段々とパス回しに余裕が生れ、形に入れば再び、三角形でパスを繋ぎ始める。
「よし! 落ち着いた!
このまま、ゆっくり冷静に!!
まだまだ時間はあるから!」
攻めさせる守りを行っていた前半とは打って変わり、後半のボールの支配率は凄まじく、相手にボールを取られない、上手い攻め方をしていた。
攻撃も決まってるし、イケるな!!
二点取られた前半もなんだかんだで、上手く方向に作用してる!
急に希望が見えてきた! 頑張れッ! ウォーリアーズッ!!
再び攻撃のリズムを整わせ始めるリムのチームに、リスナー、リム達はどんどん白熱していく。
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