第61話 姉の代わりにVTuber 61
「結局2-0のまま、後半戦に入っちゃったね」
チヨは応援していた分、少し悲しそうに呟いた。
「――リム……、これ負けたらどうする?」
心配をしているチヨに対して、今日で最終回と決めていたリムに、サクラはわざと不安を煽る様な言葉を投げかけた。
「いや、ま、負けないから……。
ウチのチームは後半から本領発揮だから……」
ウォーリアーズって、後半爆発するチームだっけか?
いつも僅差でジリ貧ww
FW二人も後半使えないけど、どう点を取るんだ??
リムの苦し紛れな発言は、今まで配信を追ってきたリスナーには通用せず、すぐに見破られ、コメント欄を返してチヨとサクラは、現状がかなりヤバい局面であることを認識させられた。
「――――そういえば、リム……。
さっき、秘密兵器があるとか言ってたけど、なんだったの??」
「あ、あぁ……、あれね……。
ちゃんと用意してあるよ」
サクラは思い出したようにリムに、秘密兵器の事を尋ねると、リムはゲーム画面を操作し、控えの選手とスタメンの入れ替えを始めた。
「2002年と言えば……、いるんですよね~~、海外に……。
丁度デビューを果たした、怪物(フェノーメノ)と同じ名前を持つ、有名な選手が!」
リムはもったいぶるように話しながら、控えの選手を一人一人、リスナーとサクラ達に見せていき、その存在が確認される前に、リムの言葉である程度、推測のついているリスナーはざわめき始める。
ま、ま、まさかッ!?
いや、いんのッ!? 2002年のゲームに出てくんの??
マンUに入る前って事??
ん? なんだ……??
ざわ……ざわざわ…………
コメントの流れるスピードが速くなる中で、リムの秘密兵器がようやく姿を現し、配信画面にその姿が映った。
ク〇ロナやんけぇぇぇぇええええッ!?!?
こんな、弱小チームに草
リムッ!! こんな、サッカークラブにサッカー界の至宝を入れたら、全サッカーファンから命を狙われるぞッ!!
この試合…………、勝ったッ!wwww
「――――まぁ、エディットなんだけどね……」
盛り上がり、未だかつてない程のスピードで流れるコメントに、リムは少し申し訳なさそうに呟いた。
作ったんかいッ!!www
だろうなww
流石に、『サカなる』もデビュー当時のク〇ロナは参戦させれなかったか…………
パチモンのロ〇ウドか……
このパチロナ強いんか??
というか、この『サカなる』はエディット無しでやるって言ってたような……?
ルールを自ら破っていくスタイル
「パチロナやめ~~や。
まぁ、ク〇ロナが来てくれたウチのチームに負けは無いねッ!
――後、ルールは破ってないからね! 私がルールだからッ!!」
「リムちゃんセコいよ……」
最終回になってこれまで封印してきたエディット機能をふんだんに使ってきたリムに、チヨを含めリスナーも卑怯だという声が上がっていた。
しかし、そんな意見を気に留める様子はリムには一切なく、躊躇なく、ク〇ロナをフィールドに投入した。
「――まぁ、みんなセコイ、セコイって言ってるけど、エディットは別にチートってわけでは無いんだからね?
選手の能力も並だし、育成もそこまでできては無いから、ハッキリ言って人数合わせのようなものだから」
ク〇ロナを人数合わせで投入だとッ…………
げ、げげ、ゲームだから……(汗
サッカーファンに殺されたな
まぁ、モノホンじゃ無いし、パチロナだから……
というか、FWという大事なポジションを人数合わせ要因で埋めなければならない程、人材不足なのか?
ドイツの契約金、馬鹿高けぇGK選手雇ったからなww 財政難は当然
先行き不安な現状に、コメント欄も配信を見守るゲスト、チヨ達も不安を隠せない状況にあったが、何とか作戦はまとまり、当初の作戦通りに、後半から全力で攻める形にシフトチェンジした。
フォーメーション4-3-3。
前半と違って、攻撃的なフォーメーションを組み、直線一点突破というよりは、サイドも使った厚い攻撃を狙い、パスを回しながら、相手に攻撃を仕掛けていくシフトだった。
ポゼッション型やね
カッコいい、リバプールやんけ
恰好だけなww
前半よりも守備が手薄な分、サイドを抜けられやすいし、簡単に失点するな
相手CPUも流石に、選手を変えて来てるなw 一先ずは前半の作戦は成功してる?……のか??
リムが設定し終えると、試合が再び始まり、今度はリムのチームのボールで試合が再開された。
「リムちゃん、これはどう変えたの?」
真剣に勝ちに行っている分、ゲストへの解説が疎かになってしまっており、チヨはリムにこの選手交代の意図を尋ねた。
「ん? え~と、DF1人と、FW2人をベンチに下げて、FW2人と、MFを1人投入したんだよ。
それで、前半MFをやってた1人をFWに上げて、4-3-3って感じ。
このフォーメーションは、三角形のパスワークで敵陣に切り込んでいくイメージかな……」
「――――そ、そうなんだ……」
リムがフォーメーションの説明しとるww
サッカー無知だった人がこれだけ饒舌になれれば、そりゃ困惑するわな
リムの簡単で分かりやすい説明に、チヨは驚きを隠せない様子で呟き、そんな二人のやり取りを、リスナーも興味深そうに楽しんでいた。
そして、リムのチームの攻撃は、リスナーやサクラ達の不安に反して、ハマり始め、綺麗にパスを回しながら、時には後ろにボールを戻し、丁寧な攻撃で、敵の隙をついていった。
「守備が前半よりも薄い分、絶対にボールを取られたらヤバいからね!
取られた瞬間、簡単に抜かれる」
上手い上手いッ!
松井(まつい)も成長したなッ!! 契約当初は給料泥棒だったのに!
落ち着いて……、落ち着いて……、丁寧にッ…………
プレスをかけて来る敵チームをパスで上手くいなしながら、プレスをかけてきたことによって生まれる守備の穴を、ひたすらにねらった。
リムの取った攻撃の形は、もろ刃の剣の部分もある為、見ている方はヒヤヒヤであり、手に汗握る、熱い展開が後半始まって以降、ずっと続いていた。
「き、緊張するね……」
「あッ! 危ないッ!!
――――ふぅ~~、危なかった…………。
本物サッカー観戦みたいに、ヒヤヒヤするねッ」
負けている状況でも、果敢に攻めの姿勢を見せ続けるウォーリアーズは、見ている人を熱くさせ、何度か見せる危ない場面、チャンスの場面に、サクラとチヨは思わず、声を漏らしていた。
そして、そんな手に汗握る展開の中、試合は唐突に動いた。
パスワークで相手チームのフォーメーションは崩れ、ボールを持った選手に二人でプレスをかけてきた事により、右サイドに大きな守備の穴が出来た。
「――――あッ……、いけるッ!!
抜けッ!!」
右のスペースに付け入るように、ショートパスで素早く繋ぎ、右サイドのFwが抜け出そうとし、絶好のチャンスに思わずリムは声を漏らした。
そんなリムの声に答える様に、右ウィングが空いてDFを交わし抜け出し、相手ゴールに向かって斜めに切り込む。
「いけッーーーーッ!!」
「いけるいけるッ!!」
「チャンスッ!!」
FWが抜け出した事で、リムたちは三者三様に声を上げ、リム達の声援を乗せ、ストライカーは相手ゴールに向かいシュートを放つ。
そして、その放たれたシュートは選手の撃った場所とは対照的な位置、ゴールの左ポストを目掛け飛んでいき、見事、GKを交わし、ゴール左隅へとシュートを決めた。
「初ゴールッッ!?」
「やったぁぁああああああ」
「よしッ!! よくやったポールッ!!!!」
サクラとチヨは歓喜のあまり叫び、リムは力強く喜びを表し、決めた選手に賛辞を贈った。
不安の大きかった後半戦は、開始10分でリムのチームが点を決め、幸先の良い出だしを切った。
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