第60話 姉の代わりにVTuber 60


「な、なんでこっちのチームのFWが…………」


守備に徹し、相手に攻撃させることで、体力消耗を狙っていたが、相手の体力だけでなく、自分のチームの体力も削られている事に、リムは理解できずにいた。


「選手の能力の違いかな~?

気付いたら減ってたね」


深刻な様子で思いつめるリムに対して、サクラは軽い様子で返事を返した後、リムの緊張感が伝わってか、ニヤニヤと笑みを零しながら、続けて話した。


そんな他人事なサクラに対して、穂高(ほだか)は心の中で恨み言を呟きながら、原因を探るべくコメント欄へと視線を向ける。


流石にFW二人で、後ろ多めの布陣だから、前でプレッシャーを掛ける選手が少なかったのかもな

体力を削ぐつもりが、削がれてて草

ボールにプレスを掛けるのと、素早いカウンターだろうな、原因は

誰だ~~? こんな作戦思いついたの~~~??

これは、ボコボコの流れかな?ww


コメント欄は、リムのチーム状況を心配する声3割、負けそうな雰囲気が漂ってきた事を、楽しむのが7割といった様子で、勝利して配信を終わらせるといった、流れを取りたいこの配信にとっては、良い流れでは無かったが、実況としては盛り上がってもいた。


そして、その盛り上がりは少しだけ、配信にとって、悪い方向にも働く。


あ~~あ、だから、点取り合戦の方の作戦が良かったのに……

点を取られることが濃厚なら、守備を捨てた方がいっそ、勝機はあったかもな

手の平クルクルやな、おいww


「リムちゃん……、リスナーと決めたであろう作戦が、早くも責任のなすり付けが始まっているよ……」


普段、平和な配信をしているチヨは、盛り上がりの中にも、少し語気が強めた言葉にたじろぎながら、コメント欄の荒れを心配してか、声を上げた。


「あ、あぁ~~、大丈夫、大丈夫!

『サカなる』の配信では、偶にある事だから!

ほらッ! 傀儡達!!

コメ欄でケンカしない! チヨもいるんだから…………。

いつもみたいに変なコメント流すとチヨに名前覚えられるよ?」


「――――え? そ、そんな事無いよぉ……」


「いやいや、チヨほどコメントしたリスナーの事覚えてる六期生いないよ?

配信終わりのスーパーチャット読みも、毎回丁寧だし……。

チヨのリスナー、『星読み』さん達にも覚えがあると思うよ?

またコメントしてくれて、ありがとうって言われた経験……」


「確かに~~! 言われてみれば分かるかもッ

――――ほら、コメントにも分かるって書かれてるよ!」


リムの言葉にサクラも賛同し、配信を見に来てくれているリスナーも、チヨの記憶力の良さを認識していた。


「六期の中では一番、機械音痴でもあるのに、配信画面に流れる速いコメントを捉えるのも一番得意だしね~~?

チヨは不思議だぁ~~……」


あ~~、その話知ってるわww

サクラの初配信の当日、配信準備で忙しいのに、翌日デビューのチヨの家に行ってPC直してたんだっけ?

デビュー配信で、死ぬほど感謝してたなww


サクラの話を皮切りに、六期生デビュー時の話をリスナーは思い出し、懐かしむようにコメントが流れた。


「――そ、その話は、もうやめてよぉ……」


「無理だね! 多分、一生から弄られると思うよ」


弱々しく、恥ずかしそうに呟くチヨに、サクラは笑みを零しながら答え、話が脱線しながらも、コメントの少しの荒れを上手く鎮静化も出来ていた。


リムの配信は、姉である美絆(みき)が配信をしている時からそうだったが、コメント欄が時折ヒートアップしてしまい、見るに堪えない程ではないが、少し荒れてしまう事があった。


これは、聞こえとしては良いとは思えない出来事ではあったが、それだけの熱量を持って、リムの配信を見ている視聴者が多いという見方もでき、美絆が配信がウケている事の証明にもなっていた。


しかし、その盛り上がりは勿論放置することはできず、変な方向に盛り上がりを見せ、それこそコメント欄で大喧嘩をしてしまわないよう、上手くコントロールする必要もあった。


美絆はそのヒートアップしたコメント欄を、上手く鎮静化させる事、あるいはそれを逆手に取り、より盛り上げる事が抜群に上手く、配信の流れを常にコントロールしていた。


穂高は、姉のそんな立ち回りをリムの配信の最大のテーマとし勉強し、完璧とは言えないが、配信に置いて似たような事をした。


ゲームの進行で盛り上がり過ぎてしまい、コントロールできない雰囲気にあれば、自然に話題を逸らし、クールダウンも兼ね、違う話題、リスナーが興味を引きそうな話題を話し、落ち着きを取り戻せばゲームに戻ったりと、やり方は様々だが、美絆に習う様に配信を行っていた。


「――でも、どうするかな~~……、この状況…………」


ゲームの試合は未だに始まっておらず、点を取られた段階で、チームのステータス画面を表示させ、進行を止めており、選手交代などを指示する事も出来る状態にあった。


流石に作戦を変えたら?

目的は達成できなかったわけだし、プランBに移行しよう!

プランAしかないんだよなぁ~~ww

中途半端に慌てて作戦を途中でやめるよりは、もう前半は作戦を変えずに行くべきでは??


チヨの名前を出した事と、話題を少し変えた事で、先程よりも語気の強そうなコメントは少なくなり、様々な意見がコメント欄に流れたが、意見はバラバラであり、まとまってはいなかった。


「う~~~ん……、ちょっとさぁ、今回の大会は私の独断で進めてもいいかな?」


リムは悩むように唸った後、リスナーに提案するように言葉を発した。


「リムちゃん、なんか作戦あるの?」


「――まぁ、作戦って程のことじゃ無いんだけどさぁ……。

実はこんな事もあろうかと、秘密兵器を獲得しておいたんだよね……。

傀儡(かいらい)達だけじゃ、こんな事になるだろうと思ってね」


おい……

また、俺たちだけに責任転嫁しようとしてるぞ

チヨ、どうか覚えていってくれ……これが、堕血宮(おちみや) リムという名の悪魔だ……

秘密兵器ってなんだ?


リムの言葉にざわめくコメント欄を尻目に、リムはまだ自分の考えの全貌は明かす事は無く、独断で中断していたゲームを再開した。


「――選手交代はしないんだね……」


「うん、ここでFW二人は使い潰す」


「こっわッ」

「えぇ……、リムちゃん…………」


『チューンコネクトウォーリアーズ』は選手の墓場です

練習で酷使されてた選手がいたな~~、なお…………

二人とも、今気づいたのか、リムは平気で選手をボロ雑巾の様に使うぞ

げ、げげ、ゲームだから…………(汗

こっからどう巻き返せるか見ものだな!

一先ず、25分は守備がハマってたわけだし、上手くいけば前半は失点1で凌げそう

いったれッ!! ウォーリアーズッ!


体力ゲージが少ない選手二人を変えずに、あろうことか前半で使い潰すつもりのリムの発言に、サクラとチヨは怯え、リムの決断にリスナーは不安を感じながらも、リムの思惑に任せる雰囲気が流れ始め、再びチームを応援する熱が高まっていった。


そうして、残りの前半戦が始まり、リムの率いる『チューンコネクトウォーリアーズ』は、その後も一度だけ失点を許してしまい、2点先行された形で、後半戦へと突入していった。

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