第58話 姉の代わりにVTuber 58
「じゃあ、まずサウジアラビア戦に行く前に、恒例の作戦会議ねッ!
――まぁ、会議と言えど、やることはほぼほぼ決まってるんだけどね!」
リムは当初から予定していたように、今回の試合における作戦と戦術の確認を始めた。
「まず、作戦としてはサウジアラビアの選手の体力を、前半で減らしに減らす。
フォーメーションは5バック。
前半はもう絶対に点を取られない」
リアルでやったらドン引きされる戦法なw
スポーツマンシップに従い、正々堂々とに見えないんだろう
弱者のサッカーなんて言われてるし
「あぁ~~、それ知ってるよ!
一個前の『サカなる』の配信で、リムがリスナーとそんな事を話してたよね!」
「リムちゃん、こないだのメンバー限定配信でも、リスナーとその話してたでしょ。
メン現でする話じゃないよ~~」
サクラはリムの配信はしっかりと追っている様子で、リムが話した作戦にもピンっと来ている様子があり、チヨはリムの月額料金を払って観覧できる配信を見ており、笑い声を零しながら答えた。
「二人ともそんなに私の配信見てるのッ!?
――っていうか、チヨは私のメンバーシップに入ってるの?」
「入ってるよ~~!
同期のところには一通りね!!」
チヨちゃん同期のメンバーシップに入ってるの草
てぇてぇやんけッ!
チヨはホント、チューンコネクト好きだよね
チヨの返しに、驚くリスナーは多く、チヨの話を聞いて穂高も例外無くそれに驚いた。
(マジかこいつ…………。
490円を四人分……、こんな事言ったらあれだけど、そんなことしなくても裏でいくらでも話せるだろ…………)
穂高はチヨの話を聞き、内心驚愕しており、リムに成り替わってから何日も経ってはいたが、未だにメンバーシップの月額料金とスーパーチャットには慣れてはいなかった。
他人が何に対してお金を使うか、そこに穂高は異論も興味も基本的には無かったが、自分の事となると、気が引ける部分があり、スーパーチャットやメンバーシップなどと言った機能で、リスナーからお金を貰う事が度々発生したが、自分はそれに見合うだけの物を提供できているのか、自分に出せる100%を出し、楽しんで貰うよう努力はしているが、不安に思う事が何度もあった。
「あ、ありがとう……。
――でも、同期にメン限の配信見られてるのは、ちょっと恥ずかしいね……」
言葉に詰まったリムに変わり、サクラはチヨにお礼を述べたが、基本的には何の制限も無い、自由に話せ、配信できる限定の配信を覗かれる事は、サクラにとって恥ずかしい事だった。
「なんでよ~~、サクラちゃんは六期生の中でも特にメン限の配信が多いし、好きなんでしょ?
サクラちゃんのリスナー、親木(おやぎ)の皆も喜んでるんだし、いいじゃん!」
「――――も、もういいってッ!
とにかく同期に見られるのは、恥ずかしいのッ」
サクラは自分の内面を見透かされるように、チヨに言いくるめられ、開き直るようにして、照れ隠しをするように答えた。
「えぇ~~~ッ、私はサクラちゃんと親木の関係は、微笑ましいと思うけどなぁ~~」
「い、いいってッ! もうッ!!
ねぇ~~~、リムちゃ~~ん! チヨがいじめてくるよ~~」
――――サクラ……、かわええやん……?
確かに親木とサクラの関係は、ちょっと独特よな
普段は天真爛漫なサクラが唯一、デレたり、素を見せたりする場だからね
チヨとサクラの会話は、リムの配信を見ているリスナーにも興味深いものであり、チヨに弄られ、照れるサクラを微笑ましく見守っている様子だった。
「まぁ、私もサクラは、ちょっと自分のリスナーに、甘え気味なところがあるとは思ってたよ!」
「リムちゃんまでッ!?
っていうかもういいよッ! その弄りはッ!
ゲームやろッ! ゲームッ!!」
サクラとチヨがゲストで来た事によって、リムは予定していた流れで配信が全然できてはいなかったが、それでも良いと思えるほどに、会話が盛り上げられていた。
「そうだね、話が脱線して進んでないし」
リムは苦笑いを浮かべ、サクラの言葉に同意すると、再び本題へと移った。
「――まぁ、作戦のおさらいをすると、前半45分はとにかく守りに入って、後半からフォーメーションを変えて攻めに転ずる形に持ってく形。
多分ね、前半は見てても面白くないかも」
リムは、傀儡と共に考えた作戦ではあったが、思わず本音が零れ、実際、配信として見せるエンタメ的な試合ができるとは思えなかった。
伝説のヨハン・クライフに逆らっていくスタイルww
醜く勝利しようッ!!ww
オランダサッカーの礎
後半からは攻めるからな! 醜くない醜くない
「リムちゃん……、なんか卑怯とか色々言われてるけど…………」
「――え、えっと……、と、とにかく勝つことが大事だからッ!!
美学は二の次!!」
メンバー限定の配信の際にも、ちらほらと否定的な意見は出ていたが、現実的に考え、リムの作り上げたチームは基礎能力で相手チームに負けており、まともに勝負しても勝てる見込みは無かった。
ま、まぁ、げ、ゲームだからね…………
リアルで考えたとしても、これぐらい貪欲に勝ちに行ってもいいと俺は思うけど……
試合開始から5バックは、サポーターもガッカリなんかね?
リムッ! 誰が何と言おうと応援してるぞ!
多くの人が見ている中で中々一つに考えを纏める事は出来なかったが、前日の配信でも作戦を考える時間を設けていた事もあり、頑なに拒否反応を示すコメントは見られなかった。
そうして、一通りこれまでのいきさつを話すと、リムはゲームの進行を進めた。
日本 (チューンコネクトウォーリアーズ)VSサウジアラビア(アル・ヒラル)
「いよいよだね~~」
「なんか、緊張してくるね」
ワクワクを抑えられないといった様子のサクラに対して、チヨは負けたら終わりという状況も相まって、少し緊張した様子で答えた。
「――よしッ! いくぞウォーリアーズッ!!」
リムの威勢の良い掛け声、そしてリムのコントローラー操作により、遂に戦いの火蓋が切られた。
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