第55話 姉の代わりにVTuber 55


穂高(ほだか)は、美絆(みき)から連絡が来ていたのを知っていた為、そのままZoutubeを開き、検索項目に『和歌月(わかつき) カグヤ』の文字を打ち込み、カグヤのチャンネルへと飛んだ。


そして、カグヤが今現在、配信をしている事を確認すると、穂高は携帯を拘束されている山田(やまだ)へと見せ、それを証拠として、春奈(はるな)がカグヤでは無い事を証明した。


「……うぇ…………? う、嘘だ……、そんなはずが……」


「嘘もヘチマもねぇよ。

これに懲りたら反省して、二度と杉崎(すぎさき)に付きまとうな」


「そ……そんな…………」


山田の表情はどんどんと青ざめていき、恐れを感じているような様子だったが、穂高は一切山田に対して妥協することは無く、然るべき罰を与える為に手を緩めるつもりは無かった。


交番も近かった為か、すぐに警官は駆け付け、一通りの事情聴取を終えると、穂高達はようやく解放された。


「証拠は揃っていたにせよ、再度詳しい事情聴取か……」


今日のところは、日も暮れ始め、春奈と穂高は学生という事もあり、早めに解放されたが、詳しい事情聴取をするために後日、警察署に訪れる事を約束させられ、解放されるや否や、穂高は少し面倒そうに呟いた。


「当たり前でしょ……、今回の件の、一番の当事者と二番目の当事者なんだから……。

変に手出しをせずに、私達に任せておけば、穂高君に関しては後を引かない事件だったのに…………」


穂高と春奈を家まで送り届ける名目で、佐伯(さえき)も解放され、毒づく穂高に、呆れた様子で答える。


「えっと、杉崎 春奈さんでしたよね?

今回はごめんなさい。

ウチのタレントと間違われたばっかりに……」


「え……? あ、いやッ、佐伯さんが謝れることじゃ……」


「いいえ。間接的に迷惑を掛けたのだから、謝るのは当然よ?

今度、何かで改めてきちんとした形で謝罪をさせて……」


「そ、そんなッ! 大丈夫ですッ大丈夫です!」


佐伯の丁寧な謝罪に、春奈は恐れ多いと、そこまでの謝罪はいらないと何度も断ったが、結局は佐伯の勢いに押され、改めて菓子折りを持って春奈に謝罪にいく事が決まっていた。


そんな会話をしながら、警察署の近くの、佐伯が車を停めた駐車場へと到着した。


「赤いラ〇エボ……。

何度か見たことありますけど、女性が乗る車にはやっぱり見えないですよね…………。

ちょっと、ヤンキーっぽくて怖いし……」


「なに~~? 穂高君……。その年でもう女性差別~??

別に、女がスポーツカー乗っててもいいでしょ。

それに、ヤンキーじゃないしどっちかって言うとオタクの方だし……。

2シーターの車でも無いんだから引かないッ!」


赤くイカついスポーツカーを前に、穂高は若干怖気づくような、少し引いた様子で呟き、佐伯と穂高のやり取りと、目の前にある車を見聞きし、春奈は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。


「もっと女性らしい、オシャレなスポーツカーもあるでしょうに……」


「スポーツカーなんだから、これぐらいイカつい顔の方がいいでしょッ

アウ〇ィやロード〇ターみたいなのは、私に似合わないだろうし」


穂高と佐伯は、いつも会話をしている時と同じ雰囲気のまま、車へと乗り込み始め、春奈も二人に続くようにして、佐伯の自慢の愛車へと乗り込んだ。


 ◇ ◇ ◇ ◇


佐伯に送ってもらう為、春奈と穂高は車へと乗り込み、佐伯の運転する車は、まず春奈の自宅へと向かっていた。


「え……、えっと、天ケ瀬(あまがせ)君と佐伯さんって、仲良いんですね……?」


リムであることを隠しているといえ、いつもの雰囲気で会話をし過ぎた佐伯と穂高は、春奈に痛いところを付かれた。


「あ~~、ん、まぁ、佐伯さんと俺の姉貴が友達でもあるからなぁ~~。

姉貴の仕事相手でもあったとはいえ、交流は結構あったかもな」


「そ、そうねぇ~~。

美絆の家に行けば、必然的に穂高君にも合う事になるしね」


後部座席から飛んでくる春奈の不思議そうな視線と、質問に佐伯と穂高は内心少し焦りながらも、何とか誤魔化しながら質問に答えた。


「そ、そうなんですか……」


春奈は少し声のトーンを下げ、元気なさげに呟き、穂高と佐伯は気まずい雰囲気にしてしまったと、瞬時に察し、三人で会話を回す様に心がけ、佐伯は口早に春奈へと話題を振った。


「――あ、あぁ~~ッ! そういえば、穂高君から聞いたけど、杉崎さんはVtuberを目指してるんだっけ??」


「えッ……? あ、えっと……はいッ!!」


佐伯は今の春奈にとって一番重要な話題を振り始め、自分が目指す世界の関係者から話を振られた事で、春奈の緊張は一気にピークまで達した。


「いやいやそんなに構えなくても大丈夫だよ!

どこの企業に入りたいとかあったりするの??」


「え、えっと……、恐れながら『チューンコネクト』に入りたいなと……」


「えぇ~ッ!? ホントにッ!?!?

嬉しいな~~!!」


穂高はそんな会話をする春奈を気遣い、心配に思いながら、佐伯の言葉に少し違和感を感じていた。


(佐伯さんも白々しいよな……。

杉崎の事は、今回の一件もあるからある程度佐伯さんに、俺から情報を流してるし。

杉崎が『チューンコネクト』を目指している事も知ってる癖に…………。

それに、今回はマイナスに作用してたけど、カグヤの声だと言われるほどに、杉崎の声は配信向けなわけだし……、ちょっとでも唾(つば)みたいなのを付けて置きたいんだろうな……)


『チューンコネクトプロダクション』として抜け目ない佐伯に、少し恐ろしさも感じながらも穂高は二人の話に耳を傾けた。


「――あ、そういえば、ウチの新人を発掘するオーディションの話って知ってるかな?」


「見ましたッ! 知ってます!!

――い、一応応募もしてます…………」


「ほんとにッ!? 私は選考担当じゃないから、アドバイスとかはできないけど、頑張ってねッ!

応援してるよ!!」


春奈と佐伯のそんな会話を聞きながら穂高は、呆然と思考を巡らせた。


(――――そういえば、もう新人のオーディションか……。

リムがデビューしてまだ半年も経ってないのに……、そうゆうものなのか??

七期生…………。

まぁ、七期生と銘打ってデビューするかはまだ分からないけど、リムに後輩か……。

あんまし想像付かねぇな。

――――それにデビューするであろう頃には多分俺は…………)


漠然とした未来を考えていた穂高だったが、佐伯から話題を振られ、一瞬にして想像はかき消された。


「穂高君!

穂高君も『チューンコネクト』のファンなんでしょう?

関係者として、一視聴者の意見を聞きたいな~~?」


「――――はぁ……、なんのです?」


考え事に耽っていた為に、穂高は会話を聞き洩らしており、佐伯に話題の内容を尋ね、その後も春奈も交え、『チューンコネクト』の話題が、春奈を送り届けるまで続いた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


天ケ瀬宅 帰り道。


春奈を無事、自宅まで送り届けた佐伯は、穂高をそのまま車に乗せ、今度は天ケ瀬宅へと向かって運転をしていた。


「――それにしてもよく、カグヤに連絡取れたわね?

日中にカグヤに連絡取るのなんて、うちらマネージャーでも難しいのに……」


春奈がいなくなった事で、包み隠さず、『チューンコネクト』内部の話へと、話題がいき、佐伯は感心しながらも、少し困った様子で穂高に話しかけた。


「事前に姉貴に頼んでましたから。

姉貴がどうやってカグヤ先輩に、約束を取り付けてたのかは知らないですけど……」


「――――う~~ん、想像付かないわね。

美絆ならありとあらゆる手段を使ってそうだけど、内容までは分かりそうもないわ。

それに、美絆とカグヤに接点なんてあったかしら……。

コラボもしては無いだろうし……。

まぁ、裏でやり取りはしてたりするんだろうけど」


美絆を良く知る佐伯も、今回の件で美絆が何をしたのか見当が付かず、難しい表情を浮かべていた。


その後、二人で長考するも美絆がどんなやり取りをしたか分かる事無く、佐伯は違う話題へと話を振り始めた。


「一応、今回のストーカーの件、後の事はウチに任せて?

まぁ、警察の話じゃ、本人からのストーカー犯行の自供は取れているみたいだし、そこまでややこしくならないと思う。

証拠もたっぷりあるし、言い訳もできないだろうしね……。

あと一回は、事情聴取を受ける事になるとは思うけど、それっきりで終わるとは思うから」


「――そうですか…………」


穂高は背負ったつもりは無かったが、佐伯の話を聞き、何か肩の荷が下りたような気分がし、自然と安堵の息が零れた。


「色々と言いたい事もあるけど、とりあえずはお疲れ様……」


穂高に小言を言いたかった佐伯は、一先ずこの場は気持ちを抑え、危険はあったものの、問題を解決した穂高に労いの言葉を掛けた。


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