第51話 姉の代わりにVTuber 51


 ◇ ◇ ◇ ◇


坂木原(さかぎばら)駅 ホーム。


穂高(ほだか)は春奈(はるな)と別れた後、改札を抜け、ホームにて電車が来るのを待っていた。


時間も持て余していた為、携帯を弄り、周りに最新の注意を図りながら、リムに送られてきているリスナーからの質問を確認していく。


(相変わらず、すげぇ量…………。

沢山くれるのは嬉しいんだけど、これ読んでいくのに体力使うんだよなぁ~~)


穂高はリムを引き受けてから、一般的にマシュマロと呼ばれるリスナーからの質問を確認してきていた。


真っ当な質問や、時には返答を困る様な深刻で思い相談、そしてクソマロと呼ばれる、心底どうでもいいような質問なども送られ、本当に多種多様な物がリム宛に届いていた。


(今日はちょっとネタじみたのはパスだな……)


ちょっとした空き時間での確認であった為、長文で送られている物や、ネタじみた物は飛ばし、リムの活動について、割と真面目な要望を送っている物にフォーカスしていった。


(Maverick(マーヴェリック)をやって欲しい……か…………)


質問を読み漁っていく中で、一つの要望が穂高の目に留まる。


Maverick(マーヴェリック)。


今、配信者の中でも人気が高いゲームであり、多くのストリーマーがそのゲームを遊んでいた。


Maverick(マーヴェリック)は、流行りのFPSのバトルロワイアルで、競技性の高さが人気であり、国内でのプレイ人口の多さから、配信すれば必ず一定数の視聴者は見込めるであろう、人気のゲームであった。


(Maverick(マーヴェリック)は少し前、彰(あきら)達とやった事はあるけど、今は流行り過ぎてなぁ~~。

気が引けるつぅか、なんつぅか…………。

『チューンコネクト』のメンバーもやってる人は多いから、今から始めても溶け込めはするんだろうけど……)


色々と考えたが、穂高の中で提案されたゲームはあまり乗り気でなく、人気で『チューンコネクト』の他のメンバーがやっているからこそ、自分は違うゲームを配信で使いたいという思いがあった。


(まず、俺がやっても面白く出来る自信がなぁ~~……。

ゲーム自体上手いわけでも無いし、だからと言って、やった事はあるから下手くそでは無いし、どうも、どうやって盛り上げればいいか分からん……)


何か新しいゲームに手を付ける現状ではあったが、容易に人気のゲームに手を付けるのも、穂高の中では微妙な選択だった。


(仮に始めたとして、配信をしていいか許可をお願いしてるゲームが、許可を取れれば間違いなくそっちに手を付けるだろうし、変に中途半端に初めてすぐやめたとかになれば、印象もなぁ~~。

余計な気遣いを生ませたり、リムはMaverick(マーヴェリック)が嫌いなんだと思わせるのも癪だしな……)


穂高はそんな事を考えながら携帯を引き続きも操作していると、ジスコードに着信が入る。


メッセージであるため画面上にポップアップ表示され、流れる様にそれをタップし、メッセージを確認した。


北川   お疲れ様です、穂高君。

     リムの配信で許可申請を出していたゲームの許可を貰いました。

     今、本社に佐伯がいないので私から報告です。


「マジかッ

まさか、許可取れるとは…………」


北川(きたがわ)からのメールを読み取ると、穂高は思わず声を漏らした。


(許可取れると思ってなかったなぁ~~。

他のメンバーが配信してるのは見た事無いし、他の企業Vtuberでも見た事無いからなぁ~

正直、配信向けかどうかって言われたら分からないけど、やってみたかったタイトルだし、どういうスタイルでやるか考えないとな……)


穂高は佐伯に何個か、配信をしたいゲームを要望しており、今回許可が取れたゲームは、配信としては少し異色とも思えるゲームだった。


(『逆転判決』……。

本家シリーズは6まであり、外伝としても何作も発売されている人気コンテンツ……。

1~3はプレイ済みだったからな……、今回は外伝の『超逆転判決』の方を許可を……。

――ただまぁ、推理ゲームだからなぁ……。

配信でネタバレされるのが一番怖いなぁ)


穂高は『サカなる』程に今回のゲームに自信は無く、上手くいけば盛り上がる事間違いなしのゲームであったが、配信するうえでは、難しい問題が付きまとった。


(――でもまぁ、何とかなるか…………。

ゲーム自体が物凄い面白いしな。

特に狙ったり、色々考えたりしてリアクションを取るよりか、自然にプレイしていく中で出たリアクションの方が見てても面白いだろうし……。

ただ、こういうジャンルのゲームをやらない人に向けては、何か少し対策は必要なのか……?)


穂高はしきりに難しい表情を浮かべながら、もう少しで来るであろう電車を待っていると、再びジスコードの着信がなった。


(また、北川さんか?)


色々と悩みこんでいた穂高は、着信の音で思考を中断され、携帯を再び操作した。


ジスコード開くと、穂高の予想とは外れ、メッセージを送ってきたのは自分のマネージャである、佐伯からだった。


北川の連絡から、送れて同じ内容の報告が届いたのかと穂高は思いながら、佐伯のメッセージの内容を確認すると、そこにはまったく予想もしていなかった、別の件でのメッセージが届いていた。


佐伯  穂高君、こないだお話したストーカーの件です。

    ストーカーの詳細が分かったので、メッセージで送ります。

    〇〇県 〇〇市 在住 ~~~~…………。


穂高は佐伯から届いたメッセージの内容を認識すると、少し緊張した様子で、気を張りながら読み進めていった。


佐伯からもたらされた詳細には、ストーカーの住所や名前から始まり、年齢や体系、現在の職業まで、細々とした内容が書き込まれていた。


どんどんと穂高がメッセージを読み進めていると、あるところで一瞬目が留まった。


佐伯  このストーカー、山田(やまだ)という男は過去にも二度、ストーカーで

    警察のお世話になってるわ。

    被害届も出されて、実刑判決を受けた事もある人よ。

    穂高君の要望通り、明日、ストーカーに接触して、

    ストーカー行為を止めてもらうよう

    忠告に行くから、今日、明日は充分注意してね?


穂高は佐伯のメッセージを見て、一気に嫌な予感を感じた。


ストーカーと言えど、今回のストーカーは春奈を目標としたストーカーで無いと高を括っていた部分もあり、穂高は少し油断している、簡単に考えている部分もあった。


しかし、佐伯のメッセージを見て、初めてそれが間違いだったという事に気づき、すぐに駅のホームから駆け出し、来た道を戻り始めた。


(繋がってくれよッ)


穂高は強く念じながら、春奈に電話を掛けたが、その思いも空しく、電話は繋がらなかった。


そこから更にもう二度、同じように春奈に電話を掛けるが、春奈が電話に出る事は無く、穂高は違う手を考え始め、今度は別の人に電話を繋げた。


「……ッ! 佐伯さんッ!? 今、メッセージ見た!

駅までついて、杉崎(すぎさき)と別れちまった!!

電話にも出ない。

探偵を雇って、今日もストーカーの位置を調べてるなら、場所を教えてくれッ!!」


穂高は電話がつながるなり、矢継ぎ早に、事情を佐伯に伝え、ストーカーの情報を掴むために、『チューンコネクトプロダクション』が探偵を雇っている事を知っていた為、ストーカーの現在地を尋ねた。


「えぇッ!?!?

ちょっと、急にそんな事…………。

――――今、すぐ調べるから落ち着いて。

分かり次第、メッセージで送る」


「頼みます!!」


穂高は、非常事態から口調がいつもより砕け、佐伯も様々な要因から、穂高が焦っている事が伝わってきていた。


短い会話の中で、要件を全て話し終えると、穂高は佐伯との通話を切り、今度は別の人へと電話を繋げる。


電話は中々繋がらず、その間にも急いでいた穂高は、駅員に頼み込み、一度抜けた改札を再び通り、5コール目にしてようやく、電話を掛けた相手へとつながった。


そして、穂高は電話が繋がるなり、佐伯の時と同じように急ぎ早に話し始める。


「姉貴かッ!?

急な頼みで悪いんだけど、昨日お願いしてた件。

今すぐに頼めないかッ!?」


穂高は姉である、美絆(みき)に電話を掛け、話しながらも、春奈が別れた後、向かった方向へと駆け出した。

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