第50話 姉の代わりにVTuber 50


 ◆ ◆ ◆ ◆


「穂高君のクラスメートに、カグヤのストーカー…………」


穂高の一連の話を聞くと、佐伯はぼそりと呟く。


午後22時。


夕方のリムとしての配信を終え、穂高と佐伯は打合せの為、ジスコードを繋いでおり、それはほぼほぼ日課となっていた。


佐伯の都合に合わせ、時間が変更になったり、日にちが変更になったりとしていたが、基本的にはほぼ毎日、案件が決まって以降は細かい打合せが増え、穂高も初めていうことがあり、話し合わなければならない事が多々あった。


そして、リムの打合せが終わると、穂高は佐伯に春奈の話を打ちあけ、佐伯の意見を聞こうとしていた。


「結構厄介な相手で、俺が雲隠れとして、彼氏を装う様に一緒に下校とかもしてるんですけど、中々諦めてくれなくて……」


穂高は話しながら、リムのアカウントで、あるゲームにログインをしており、配信とは別にゲームを進行させ、配信の準備を行っていた。


「なるほどね……。

――でも、カグヤが絡んでいるならウチも見逃せないわね。

穂高君は『チューンコネクトプロダクション』がこういったトラブルに強いのって知ってる??」


「あぁ~~、まぁ、知りはしなかったですけど、強いといいなってぐらいの、希望的観測でお話ししました」


「それ正解!

ウチに任せて? すぐにそのストーカーは特定できると思う。

ただ、デリケートな問題でもあるから、解決できるっていう確証が持てるまでは行動し無い事!

いいね?」


「分かってます。 週末まで待ちます」


「週末ッ!?!? 間に合うかなぁ~~。

――いや、間に合わせる! 同じ女の敵だしねッ!!」


少し頼る程度に相談したつもりだった穂高だったが、思った以上に頼りになる佐伯に、この件に課しては少し安心できた。


「――――っていうか、穂高君ッ!

またずっと『ピクセルクラフト』を配信外でやってるでしょッ!?

配信の為の準備なんだから、配信でやりなさいよ!」


「いや、やってますよ? 一応……。

でも、このゲームは基本的にのんびりとしてるし、動きもそこまであるゲームじゃないから、何度も何度も枠とって配信するのに気が引けるっていうか……。

リスナーに楽しんで貰えてるのか、不安になるんですよね」


穂高は今、おそらく一番配信者の中で配信として使われている大人気ゲーム『ピクセルクラフト』に少し疑問を持っていた。


ゲームとしてはもちろん、世界的にも大ヒットを飛ばしたゲームの為、面白い事は面白いが、何か、視聴者に楽しませるような配信をするためには、準備が必要なのも事実だった。


大きな例として、『ピクセルクラフト』には自分の思い描く建造物を、作ることが可能であったが、建造物が複雑でデカい物であるほど、ゲームで使用する素材が必要であり、それを集める風景はいかにも地味な絵ではあった。


その地味な作業で、どこまでしゃべりで視聴者を楽しませるのかが、配信者としての腕の見せ所でもあったが、どれだけトークで盛り上げようとも、ゲームの進行は地味なため、配信をしていて穂高は不安に感じる事が多々あった。


「雑談でも人が集まるゲームでもあるんだからやりなさい!!

楽しんで貰おうと常に考える事は悪い事じゃないけれど、穂高君は少しプレッシャーを掛け過ぎる。

全ての配信を盛り上げて、バズらせようみたいな心意気は大切だとは思うけど、少し気の抜けたような配信にだって、それはそれで魅力があるんだからね?」


「りょ……、了解です…………」


佐伯の言葉に穂高は反論することも出来ず、彼女の言っている事も良く分かる為、渋々と言った様子で、返事を返した。


「後、コラボがなかなかできない、後ろめたさからなのかは分からないけれど、そうやって裏で色々動いて、同期や他のメンバーの配信に取れ高を出そうとするのは止めなさい。

貴方のおかげで、他のメンバーは予期せぬところで配信が盛り上がって、結果的にその場面が切り抜かれたりもしてるんだろうけれど、周りに気を使いすぎよ」


佐伯は淡々と、そして冷ややかに少し怒っている口調で、鋭く指摘するように穂高に話し、穂高はそんな佐伯の指摘に驚いた。


「――や、やっぱりバレますか?」


穂高は狙いはバレても、始めた動機までは見透かされないと思っていたが、見事に佐伯に言い当てられ少し動揺をしていた。


中々コラボに応じられていない同期や他のメンバーに対して、この『ピクセルクラフト』という共通のサーバーを用いて遊ぶゲームの中で、サプライズのような事や、配信で使うであろう素材を、代わりに準備していたりと、穂高は裏で色々動いていた。


勿論、配信外での行動であるためリムとしては旨味があまりなく、他メンバーが得をするような仕組みでひっそりと行動にしていたが、成り替わってからずっと世話になっている佐伯には全てお見通しだった


「バレバレよまったく…………」


「あ、でも、申し訳なくてやってるって節は無いですよ?

まぁ、最初はそんな事も考えて、裏でこそこそ作業してましたけど、今は、楽しんでやれてるんで大丈夫です。

どんなリアクションを取られているのか、見るのも面白いですし、上手く視聴者も巻き込めて、切り抜きもされますし……」


「そう……、穂高君が良いならこれ以上は言わないわ。

でも、程々に……。

あと、流石に巨大建造物を建てるときは配信して…………。

ド深夜にこっそりとやらないで……」


穂高はリアクションをされる喜びから、裏工作の勢いを見誤り、誰もインしていないサーバーにこっそりと参加すると、一夜にして巨大な建造物を作成していた。


次の日それを他のメンバーが発見し、誰もそれを作った形跡や心当たりが無く、もちろん配信をしていなかった為、視聴者にも分かる人はおらず、ちょっとしたミステリー扱いされていた事が一度だけあった。


「き、気負付けます……」


『チューンコネクト』の共通サーバーに侵入されたのではないかと、問題になりかけた話題でもあった為、穂高はそれを思い出し、本当に申し訳なさそうにポツリと謝罪した。


 ◇ ◇ ◇ ◇


佐伯との会話の中で、穂高は他にも余計な事を思い出したが、改めて、『チューンコネクトプロダクション』がデカい組織だという事を再認識した。


そうして、昨日の事を思い返しながら、春奈(はるな)の話題に受け答えをしていると、気付けば桜木高校の最寄り駅へと到着していた。


穂高は、春奈と路線も同じであることを知っていた為、何気なしに改札の方へと足を向けたが、春奈はそこへ向かう事は無く足を止めた。


「どうした?」


気付かないはずの無い穂高はすぐに春奈へと声を掛けると、春奈は少し申し訳なさそうに、苦笑いを浮かべながら話し始めた。


「ご、ごめんね? 天ケ瀬君……。

今日、ちょっと坂木原(さかぎばら)駅に用事があって…………」


「ん? そうか……。

――そんなに時間かからないようなら付き合うけど?

一人で大丈夫か??」


穂高は携帯を取り出し、時間を確認しながら、ストーカーの件もあった為、春奈の身を心配した。


「うん……、大丈夫。

ここまでは今まで付けられた事は多分ないし……。

喫茶店を出てから気配も感じないから」


「――――そうか……」


春奈の言葉を聞いても、穂高には勿論不安はまだあったが、春奈の様子から大丈夫なようにも思えていた。


そして、穂高は少しの間、悩んだが、最終的には春奈の言葉を信用する事に決める。


「気を付けろよ? まぁ、駅だから人も多いし、安全だとは思うけど……」


「うん、気を付ける。

ありがとね?」


春奈の言葉に返事をし、穂高は軽く別れを告げ、再び歩みだそうとしたところで、何故か再び春奈に声を掛けられた。


「あ、待って! 天ケ瀬君!!

私、申し込んだよ! 『チューンコネクト』のオーディション!」


「報告今かよ。

――そうか、頑張れよ! 応援してる」


「うん! ありがとッ」


長い間会話してきたが、今になって報告された事で、穂高は思わず苦笑いを浮かべたが、春奈のオーディションに関しては素直に応援できた。


そうして、その会話を最後に、穂高達は坂木原駅で別れた。

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