第49話 姉の代わりにVTuber 49


「解決しないか?って、そんな簡単に……」


穂高(ほだか)の提案に、春奈(はるな)は不安げに呟いた。


春奈の不安は当然であり、常識的に考えれば、一高校生に過ぎない穂高が、大きな問題としてニュースにも取り上げられることの多い、ストーカー問題を容易に解決できるとは思えなかった。


しかし、穂高自身には考えがあり、何よりもストーカーの問題は穂高にとってそこまで縁遠い物では無かった。


「実際被害にあってるのは、杉崎(すぎさき)だから不安だとは思うけど、任せてくれないか?

少しだけ、協力してもらう事にはなるかもしれないけれど、絶対に上手く治めるから」


穂高は春奈の不安を和らげる様に、真っ直ぐに彼女を見つめ、真剣な面持ちで春奈を説得した。


「――――はぁぁ……、と、とりあえず、分かったから……。

でも、どうやって解決するつもりなのか、それだけは教えてくれない?

それを聞いてから、改めて答えを出すから……」


穂高の熱意に押され、話だけでも聞くつもりになった春奈は、穂高にその旨を伝え、春奈の願いを聞き届けると、穂高はここまで準備してきたことや、これから実行しようと考えていた作戦を、春奈に説明し始めた。


「――――なるほど……、天ケ瀬(あまがせ)君の考えてる事は、大体わかった……。

でも、そんなに上手く成功するのかな……?

逆上されたり、相手により刺激与える事になりかねないんじゃ……」


「それは、大丈夫。

万が一にも逆上されて襲われそうになったとしても、杉崎には一切、危害を加えさせないから」


一通り、春奈に考えを説明し終えた穂高だったが、春奈の不安は未だ拭えず、成功する可能性も感じ取れてはいたが、危ない匂いがしないわけでは無かった。


しかし、穂高は上手くいかせる自信と根拠があった。


(――――確かに、まだ不安は拭えないよな……。

でも、俺がこのことで相談した相手は、佐伯(さえき)さんだし、何より『チューンコネクトプロダクション』自体だ。

Vtuberと言えど、身バレや特定なんかの危険は常に付きまとうし、ストーカーに似た被害も過去に無かったわけじゃない……。

昨日、今日とで既に準備は済ませてるし、明日にでも実行には移せる)


穂高は忙しい佐伯にこの話を持ち掛けるのは、春奈に対して、少し申し訳なく感じもしたが、火曜日に打ち明けられた後、すぐに行動に移し、佐伯に相談をしていた。


今や多くの視聴者を獲得する『チューンコネクト』が、似たような被害に晒されていないはずも無く、佐伯はそれを聞くと快く協力を約束し、春奈の問題自体『チューンコネクト』に関係ない問題では無かった為、『チューンコネクトプロダクション』も会社として、協力を申し出てくれていた。


会社と付き合いのある探偵を手配してもらい、ストーカー相手の個人情報、ストーカーを行っていた記録や証拠もすでに二日の間に揃っていた。


「――――分かった…………、天ケ瀬君を信じるよ……。

でも、危ない事は無しね? それだけは約束して」


「分かってる。

俺もまだまだやらなきゃいけない事があるしな。

――とゆうか、俺よりも杉崎の方が危険はあるんだからな??

一瞬でも、ストーカーを引き付ける為に一人になって貰うわけだし……」


「そ、そうだね……」


穂高の言葉に、作戦を聞き、自分の役割を改めて認識させられた春奈は、不安の色を隠せず、自分の二の腕を掴むその手は、少し震えているようにも見えた。


「怖いならやめてもいいぞ?

――――強制はしないし、多分、もう少しだけ期間が掛かってしまうかもしれないけど、解決する問題でもあるんだと思う」


『チューンコネクトプロダクション』は春奈のストーカーを徹底的に調べ上げ、ストーカー行為が治まらないようでは実力行使に出るつもりであった為、ここで穂高達が動かずとも、解決する問題でもあった。


しかし、それにはもう少しだけ時間がかかってしまい、短期にはならなかった。


「――大丈夫…………、天ケ瀬君の意見に乗るよ。

私も早く解決させたいし……」


穂高の問いかけに、春奈は少し間を置いた後、意を決したように淡々と答えた。


「よしッ、それじゃあ、早速だけど、明日。

すぐに決行しよう!」


「うん、よろしくね」


自信がある穂高に対して、決意は固めたが、春奈はやはり少しだけ不安を感じており、穂高にもそれは感じ取れた。


 ◇ ◇ ◇ ◇


「ねぇ、そういえばさ?

天ケ瀬君ってどうしてそこまで、ストーカー撃退について詳しいの?

――とゆうか、どうしてここまで準備が……?」


「え゛……?」


喫茶店を後にし、帰る方角と路線が同じだった春奈と穂高は、喫茶店で話した話題の続きを、話しながら下校し、春奈は喫茶店での話で、疑問に思っていた事を一斉に穂高に投げかけた。


「な、なんか、あまりに用意周到と言うか……。

さっきの作戦を聞く限りじゃ、普通の高校生には準備出来なさそうな事が沢山あったし……」


「――――ま、まぁ……、そうかもなぁ~~……」


春奈の質問に、穂高は当然答えを用意していないわけも無く、少し考えをまとめた後、春奈の質問に答え始めた。


「え、えっと……、実は、俺の姉貴がそういった探偵事務所に就職してたりするんだよ。

不倫とか浮気調査?みたいなの……。

『チューンコネクト』とも関りがあったらしいから、杉崎の話も重なってだな…………、まぁ、色々協力してもらった感じだな……」


穂高は相変わらず、自分の言い訳を苦しく感じながらも、何とか誤魔化す事だけを考え、集中した。


「えッ!? お姉さん探偵なのッ!?!? 探偵って職業なの??

――っというか、『チューンコネクト』とも関りがあるのッ!?!?」


「た……、偶々だぞ? 偶々…………。

それで急遽動いて貰ったから、色々準備が整ってたってだけで……。

後、探偵業は普通にあるよ……」


「さっきの話を聞くて、それが分かると、天ケ瀬君のお姉さんって、凄いねッ!! 

ものほんの探偵だねッ!!」


(どんな感想だよ…………

――でも、信じて貰えた…………? わかんね)


穂高は自分では苦しいと思っていた言い訳だったが、自分が思う以上に春奈を騙せ、信用させることが出来た。


「さっき、天ケ瀬君の話聞いててビックリしちゃったよ。

ストーカーをしてる証拠が揃ってるだとか、ストーカーの身元が分かってるとかさ!

なんか、サスペンスドラマにありそうな話をしだすから……」


「――――ま、まぁ……、そうだろうな」


春奈の話を聞き、穂高は佐伯に相談した時の事を不意に思い出した。

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