第48話 姉の代わりにVTuber 48
◇ ◇ ◇ ◇
穂高(ほだか)と春奈(はるな)の二日目の下校から数日。
喫茶店 polaris(ポラリス)での穂高の提案は受け入れられ、その後も継続的に穂高が春奈の護衛も兼ね、一緒に下校する事となっていた。
連日にわたり下校する姿を目撃され、穂高は各方面から質問攻め、一定の層からは恨みや反感も買いつつあった。
春奈も似た様に質問されることが多ったが、上手く質問をかわし、穂高も春奈も恋人だと断言できない、傍から見たらモヤモヤと歯がゆい思いをする、そんな認知の関係性へと変わっていた。
月曜から始まり、木曜日になっても春奈は時折、誰かからの視線を感じており、穂高はこの作戦がハマっていない事を確信しつつあった。
そして二人は、二日目の火曜日に訪れた喫茶店(ポラリス)へ、作戦会議も兼ねていく事が日課になりつつあった。
「――――今日もやっぱり感じたか?」
穂高は頼んだフルーツタルトを頬張りながら、春奈に尋ねた。
「うん。 何度か感じてた……。
一人でいるよりかは全然、恐怖感は無いけど、やっぱり慣れないね」
「慣れる必要ないだろこんな事……。
ホント、迷惑な奴」
以前として進捗は無く、ただ穂高と春奈が下校をするようになっただけで、あまり有効な手段にはなっていなかった。
穂高は悪態を付きながら、今度は違うデザート、ガトーショコラのケーキを食べ始める。
春奈は呆然とその穂高の姿を眺めていたが、ここ数日で穂高に関して、確信したことが一つあり、その事について話し始めた。
「天ケ瀬(あまがせ)君ってさぁ……、スイーツ好きだよね?」
「え…………?」
(なんで、バレてんだ……?)
穂高は別に隠しているつもりは無かったが、連日の喫茶店通いと、スイーツを楽しむ姿を見られ、簡単に穂高の趣味がバレてしまっていた。
「なんか、凄い意外…………。
天ケ瀬君って甘いのとか苦手そうだし。 苦手な男子も少なくないから」
ケーキを食べるのを一度中断し、呆然と固まる穂高に対して、興味深そうに春奈は話し、穂高自身もスイーツ好きを公言する事は苦手であり、『polaris(ポラリス)』に訪れた当初も、コーヒーが目当てだという風に装っていた為、色々な要因を含め、若干恥を描きつつあった。
「――ま、まぁ……、スイーツは嫌いじゃないけど、好きだから食べまくってるってわけでも無いからな……。
甘い物を食べると、苦いコーヒーがより上手かったりするし……」
穂高は羞恥心から、素直に認めればいいものを、変に言い訳をし、その言い訳の苦しさから、傍から見れば、恥の上塗りをしているようにも見えた。
「ぷッ! フフフッ、……そうだね」
穂高の苦し紛れの言い訳に、春奈は思わず吹き出して笑い、目元を拭いながら笑顔で答えた。
(――か、完全に馬鹿にされた…………)
穂高は以前にも、友人である彰(あきら)や武志(たけし)、瀬川(せがわ)にこの件でおちょくられた事があり、トラウマとまではいかないが、少し気にしている事でもあった。
普段の素っ気ない、比較的周りに冷たいような、ドライな雰囲気を持つ穂高が、甘い物好きだというのは奇妙であり、問題はないが、イメージ的にはかなり想像しずらいものでもあった。
「――べ、別に嘘を言ってるわけじゃ無いぞ?
す、スイーツも勿論好きだけどもッ」
「分かってるって。
あくまで、コーヒーを楽しむためのスイーツ……、なんでしょ?」
「そ、そうゆう事……」
小さい子供のいう事に渋々了承する母親の様に、少し馬鹿にさてたようにも穂高は感じたが、ここで更に食いつけば、自分が増々幼稚に見えてしまう為、癪には感じたが、簡単に返事を返し、この部の悪い話題を早々に締めくくった。
春奈は穂高が何故、最初に『polaris(ポラリス)』を選んだのか、理由も何となく察し、穂高が以前から、スイーツの為にこのカップル以外は入店しずらい、この喫茶店に来たいと思っていた事を想像すると、自然と笑みが零れた。
「あッ! そういえば、確か、天ケ瀬君は六期生推しだったよね?? リムちゃんの配信見た?
ついこないだリムちゃんとlucky先生で親子対決してたね!!」
「――み、見たぞ?
最近の配信だしな」
春奈は思い出したかのように、リムの事を話題に出し、穂高は急な話題に少し動揺をしながらも、同じ『チューンコネクト』のファンだという事はバレていた為、変に隠す事は無かった。
「リムちゃん、あそこまで絵が上達するとはねぇ~~。
ちょくちょく、サクラちゃんと練習してる配信を見てたりしたけど、目に見えてあそこまで上手くなるとは……」
「そ、そうだねーー」
穂高は動揺から来る、嫌な汗を描いている事を感じながら、何とか返事を返していた。
「やっぱり、『チューンコネクト』って凄いなぁって、改めて思っちゃった。
多彩な人が多いけど、新人のリムちゃんもあそこまで多彩だとは……。
――私に同じような事が出来るか、増々不安だよ」
夢を見るような、憧れている様子で話していた春奈は、途中で自分との実力、憧れはあるけれども、それに届きそうにも無い自分の実力に気づかされ、現実とのギャップに思わず、弱気に、乾いた笑みを浮かべながら呟いた。
そんな春奈の言葉に、穂高は少し引っ掛かった。
「――――別に同じことが出来る必要はないだろ?
確かに配信者の中にはいろんなことができる、多彩な人はいるけど別にそれだけじゃない。
不器用なリにも、一生懸命何かに打ち込む姿で、視聴者の心を打つ配信者もいる。
多彩な事だけが武器じゃない」
「う~~ん、確かに言ってる事は分かるけど、不器用な人は不器用なりに愛嬌とか、人を引き付ける魅力があったりするじゃん?
私にはそんな事が出来る自信無いし……」
「はぁ~~~……。
仮にも、桜木高校で四天王って、持てはやされてる奴の言葉に思えないな……。
いい加減、少しくらいは自分に自信を持っても良いんじゃないか? 人気者」
穂高は、春奈がVtuberを目指す上で、彼女の自身の無さは少し問題だと考えていた。
謙虚である事は悪い事ではないが、配信者は自分を自らアピールしていく事が多い為、最悪嘘でも良いから、春奈に自信を持って堂々として欲しいと、そう穂高は思っていた。
「――人気者じゃないよ……。
でも……、うん。 少しは心がけてみる!」
自信付けようと発した穂高だったが、春奈にイマイチ届いている実感は無かった。
(何かきっかけがあれば自信も付くんだろうけどな……。
俺はもう、やるしかないってところまで追いつめられてたからそこまで考えてる余裕は無かったし……。
そういや、姉貴や他の同期はどうだったんだろうな??
あんまり意識した事無いけど、他のメンバーだって考えなかったわけ無いだろうし……。
――――聞いてみるか?)
穂高はそんな事を考えていると、やはりどうしても一つ、邪魔な問題が思い浮かんだ。
(ホント、余計な事に気を回してる余裕は無いんだけどなぁ……。
――準備は進めてきてたし、もう今週末にでも解決させるか)
穂高は春奈に渦巻く大きな問題を思い浮かべ、元々短期解決を望んでいた節もあった為、水面下で準備は進めていた。
「――なぁ、杉崎。
今週末、つまりは明日……。
もう、ストーカーの問題を解決させないか?」
穂高は簡単な問題かのように、春奈に提案し、穂高の思わぬ発言に、春奈は驚き、すぐに言葉を返す事が出来なかった。
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