第45話 姉の代わりにVTuber 45
「やっと、奇異の目から逃れられたね」
桜木高校から離れると、苦笑いを浮かべ、表情は少し疲れを感じさせるような、そんな顔をしながら、春奈(はるな)は穂高(ほだか)に声を掛けた。
「初日に比べて、二日目の方がしんどかったな……。
明日の朝はきっともっと…………」
春奈の言葉に、春奈よりも疲労を感じた様子で、穂高は呟き、明日の事を考えると憂鬱で仕方がなかった。
そんな穂高に、春奈は自分が元凶でもある為、乾いた笑いしか返せず、不穏な空気に、話題を変える事を決意した。
「――あッ、そ、そういえば!
どうだった? 私の……そのぉ……、配信というかなんというか…………」
勢いよく尋ねた春奈だったが、元々、自分の配信を想定した動画を見られたことなどなく、話すうちに、恥ずかしさから、どんどんと声は尻すぼみになっていく。
「あぁ~、見たぞ?
とゆうか、今日はその話をする為に、放課後時間を取ってもらうつもりだったしな」
穂高は別の話題を考え、本来の目的でもあった話題を忘れかけていたが、春奈の言葉でそれに気付かされた。
「――ど、どうだったかな…………?
そ、その……、え、遠慮しなくていいからね??」
春奈は恐る恐るといった様子で穂高に尋ねながらも、きちんとした正当な意見を求め、穂高も遠慮するつもりは最初から無かったが、改めて、春奈に対して正直に意見を伝える事を決めた。
「えぇ~~と、まずどこから話すか……。
じゃあ、良かったところから話すか…………」
穂高は自分の経験や、配信者としての立場も踏まえ、春奈の配信で良かった点を次々と伝えていった。
基本的には、春奈の声の聞き取りやすさや、動画を見ていて春奈の武器になりゆる、魅力になる点を伝えていき、特に何かを躊躇することなく、自分の好みをきちんと「好き」だと言葉にして話した。
一般の視聴者にしては、少し具体的に話し過ぎたかと、穂高は感じつつも、出来るだけ思った事は言葉にして春奈に伝えた。
「よかった所はそんなとこかな……。
――――で、次に、微妙だと思った所が……」
「ちょ、ちょっと待ってッ!!」
穂高は淡々と春奈から貰ったDVDの感想を述べていると、突然、穂高の言葉を春奈が焦り気味に遮った。
話を止められた穂高は当然、視線を春奈に向け、不思議そうに彼女を見つめ、そんな平然とした穂高に対して、春奈は興奮気味に、少し顔を赤く染め、穂高と視線は合わせず俯き、胸に手を当て呼吸を整えていた。
「は、恥ずかしくない? 大丈夫??」
「ん? 別に恥ずかしい事無いだろ……。
ただ単に感想を伝えてるだけだし」
「あ、天ケ瀬君って、ちょっと感覚おかしいよね……」
「失礼だなおい……」
穂高は100%善意で意見を述べていたつもりだったが、春奈からは感覚を非難され、何故だか分からず少しムッとしながらも、話を続けた。
「忘れない内に、今度は悪いところ、微妙に感じたところを言ってくからな?」
「――――うんッ! オッケー! いいよ~!!」
穂高の言葉にここからが本番と言わんばかりに春奈は気合を入れ、そんな春奈に対して、相変わらず歯に衣着せぬ物言いで話し始める。
「まずは話し方だな……。
せっかく、聞き取りやすい声なのに委縮してる感じがしたぞ?
変な事言ってるわけでも無いんだから、もっと堂々とした方がいい」
「そ、そうだね……、所々、話してる時あんまり自信は持ててないとは思う…………。
――で、でもさッ! まだ自分がどういったキャラクターになるとか決まっているわけでも無いし、やっぱり演じるって事を考えると素を出すよりも、器用な面を見せていった方がいいのかな??」
(あぁ~~、オーディションとかの話しか??
俺は、もう既にキャラクターは姉貴のリムに決まってたし、オーディションを受けたわけじゃ無いけど、何となく姉がまだ、オーディションを受ける前に話してたっけか?)
穂高はあまり自分の詳しい方向では無い話題ではあったが、過去に美絆(みき)と話した会話を思い出しながら春奈の話に答えた。
「杉崎(すぎさき)がどういった企業に応募するかは知らないけど、オーディションで最初からキャラクター像が出来ているところと、そうでは無いところがあるだろ?
杉崎がどこまで器用に演じ分けできるかは、あの動画じゃ分からなかったけど、俺は丁寧に話そうとして出す、あの落ち着いた声は、杉崎の武器だと思うぞ?
自分がなりたいキャラクター、自分に合いそうなキャラクターを思い浮かべて、それに合う様に動画を撮って見てもいいと俺は思う」
「なるほど…………」
「それに、今はVtuberに成れたとしての配信の練習だろ??
オーディションの事はまた別に考えればいい。
――――とゆうか、自分はこれだけ上手く配信ができる、配信に慣れているって事が分かる動画を作れれば、それが良いアピールにもなるだろ?」
「――うん、そうだね」
春奈は自分の中で何かの納得がいったかの様に、頷きながらきっぱりと答えた。
「そういえば、聞いた事なかったけど、杉崎はどこか目指してるVtuber企業とかあるのか?」
穂高はこのアドバイスをするうえで、重要な事を聞いていなかった事を思い出し、素直に春奈に質問を投げかけた。
「え、えっとぉ~~……、やっぱり、『チューンコネクト』かな……?」
『LINK(リンク)』か『チューンコネクト』かで迷いもしたけど、やっぱりファンだし……。
憧れを強く感じたグループだから」
穂高は何度も春奈と『チューンコネクト』の話をしていた事もあり、何となく想像も付いていたが、口に出された事でそれが確定され、穂高のアドバイスの仕方も纏まりつつあった。
「まぁ……、そうだろうと思った。
――なら、俺がさっき言ったように、自分で演じたいキャラクターを思い浮かべて配信した方が良い。
あそこは比較的に、中の人を決めてから、その中の人に合ったキャラクターを作っていく方針が主だから」
「そうだね! 心がけてみる!!
それで? 他には!? まだあるんでしょ?」
「急に意欲的だな……」
「そりゃあ、貴重な意見だしね! 改善点も分かるし。
伸びしろだね!」
良い点を述べていた時の春奈とは、様子が打って変わり、そんな春奈に戸惑いつつも、穂高はその後も自分が思う修正点、そして、配信で気を付けている点などを挙げていった。
「――とまぁ、改善点はこれくらい。
あ、前に言ってたと思うけど、素人の意見だからな??
自分ではこう思っていて、正しいと思うのならそっちを優先した方が良い。
あくまで全てを鵜呑みにしないように……」
本当は配信者としての意見も交じっている、穂高の感想だったが、穂高の述べた言葉には嘘偽りは無く、配信をしている穂高自身も、まだ何が本当に正解なのか分からない点もあった為、少し無責任な節もあるが、付け加えて参考程度にすることを伝えた。
そして、意見を述べ終わると二人の間には沈黙が流れ、ペラペラと穂高が話せば話す程に、春奈の反応は何故か鈍くなり、意欲的でやる気のある相槌もどこか、気の抜けたような、心ここに在らずといった相槌へと変わっていた。
「――――うん、そうだね……」
少し元気の無いようにも思える様子に、穂高は当然気が付き、それを迷わず指摘する。
「なんださっきから……、何か思うところでもあるのか??」
協力する事を決めた以上、穂高は春奈に遠慮するつもりは無く、彼女がVtuberを目指す上で、自分の意見に納得がいっていないところがあるのであれば、言葉にして欲しいと思ったいた。
そんな穂高の物言いに、春奈は一瞬、躊躇する素振りを見せながらも、穂高の気持ちに応える様に正直に話し始める。
「――――えっと……、何か、天ケ瀬君妙に詳しいというか、意見が適格だなってさ……。
なんか、ちょっと感心してた……」
「え……?」
春奈の言葉に穂高の緊張は一気に高まり、自分が嫌な汗を描き始めている事に気づいた。
「も、もしかしてだけどさ……、天ケ瀬君も何かやってたりッ…………」
「してないッ」
春奈の言葉を最後まで言わせる事無く、穂高は食い気味に春奈の問いかけを否定した。
「だ、だよね~~。
でも、色々不思議でさ?
まず、天ケ瀬君がVtuberに興味があった事も驚きだし……。
普通の視聴者にしては、やけに意見も説得力があるって言うかさ」
(や、ヤバい……、善意で語り過ぎたか………。
最悪、中学、高校に少しだけストリーマーとして活動してた事はバレても良いとして、リムや『チューンコネクト』関係のボロが出るとまずいな……)
穂高は焦りながらも、情報の重要度を再確認し、今まで以上に言葉に神経を使った。
「し、視聴者でも気を付けて見てれば分かるし、俺のさっきの意見は受け売りな部分も多い。
全部が全部、自分の言葉じゃないよ」
穂高は自分でも苦しいかと思いながら、言い逃れをしたが、穂高のその言葉に春奈は納得し、それ以上追求はしてこなかった。
「なるほど……。
――でも、さっきの天ケ瀬君の意見だけどさ!
随分と細かいところまで指摘してたよね?
――――そ、そのぉ~~……、自分で言うのも恥ずかしいんだけどさッ……。
結構、何回も見た?」
「あ、あぁ~~、そんなに多くは見直してないぞ?
最低限意見をするために必要な程度」
「そ、そっかぁ~~、それならまぁ……。
2、3回くらいだよね?」
「え? 20回くらいは見直したぞ??
思った以上に時間が取れなくて、悪いな……」
「20回も見たのッ!?
み、見返し過ぎじゃない!?」
「はぁ? 普通の事だろ……。
それぐらい見ないと、細かい所まではチェックできないし」
穂高は、リムを引き受けた初期に、他の配信者たちを参考にする為、様々な配信者を見て勉強しており、その際に付いた癖を、思わず春奈に対しても行っていた。
もう勉強というよりは、半分分析に近い行いだったが、穂高にとっては当たり前になり、至極当然のように春奈に応えていた。
「あ、天ケ瀬君……。
やっぱり変だよ…………」
時間にすれば数時間も、春奈の撮った動画が穂高の部屋に流れていた事を考えると、そこまで熱心に引き受けてくれた事を嬉しく感じつつも、春奈は複雑な気持ちにさせられた。
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