第44話 姉の代わりにVTuber 44


「それで?

天ケ瀬は何が知りたいの??」


青木 香也(あおき かや)に連れられるがまま、体育館裏へと訪れた穂高(ほだか)は、開口一番に青木にそう尋ねられた。


「さっきも聞いたけど、杉崎(すぎさき)が最近部活に来ていない理由。

それと、俺が聞かされてない……知らないって何の事だ??

頼まれたとかなんとか言ってたな?」


穂高はここに来るまでに、先程の会話で感じていた違和感を整理し、青木が何を言わんとしているのかを考えていたが、今ある情報では見当もつかず、一先ず、変に感じた箇所を断片的に質問した。


「う~~ん、結構知らないんだな……。

質問させておいてごめん! 天ケ瀬はどこまで逆に知ってるの??」


矢継ぎ早に質問する穂高に対して、青木は少し難しい表情を浮かべ、唸るようにして考え込んだ後。言葉を選びながら、逆に穂高に質問を返す。


「どこまでって……、俺は何も…………。

ただ、ここ二日間、一緒に下校して欲しいとは頼まれてる」


穂高はVtuber関連の話題は避け、協力するといった手前、こんな形で下校する事になってしまったのかと、考えもしたが、あまり強い根拠になりえず、穂高の知りたい事に、結びついているとも思えなかった為、下校をお願いされている事だけを話した。


「それだけ?

天ケ瀬って春奈と交流合ったっけ??」


「――まぁ、あんまりないな……。

一度、一緒に遊びに行ったことはある。

もちろん大勢でな?」


「ふ~~ん…………」


青木も春奈の事情を知ってはいたが、何故それの対策に穂高を指定したか、いまいち分かっておらず、お互いにお互いを探り合うような、そんな妙な雰囲気になりつつあった。


(――――なんか、妙に勘繰られてるな……。

この様子だと、学校に流れてる俺の噂は信じているわけではなさそう。

それに、俺でなくともここ数日で、杉崎が誰かと下校するであろう事を知ってた雰囲気だよな……。

何を隠してんだ??)


青木の様子を伺いながらも、穂高もこのままでは妙な噂が引き続き流れる為、真実を知る為に引く事はしなかった。


「俺に頼んだのは、あんまり厄介な噂になりにくそうだからだとよ……。

彰(あきら)とか大貫(おおぬき)とか、普段交流があって、仲良くしてる男子の方が噂になった時、否定しずらいんだと……。

否定しても、上手く信じて貰えないらしい」


「ぶッ! あはははッ!! なるほどねぇ~~確かにッ!」


昨日に引き続き、二度もこのことで侮辱された事にイラッと感じ、穂高の表情は明らかに不機嫌になった。


「笑うとこじゃねぇだろ……。

――で? なんで杉崎は最近部活出て無いんだ?」


「最近って…………、たったの二日じゃん!?

それに、それを聞く前に……、春奈は天ケ瀬に他に何か言ってなかったの??

それこそ、どうして天ケ瀬と下校しようとしたのかとかさッ?」


「――それは俺が聞いてんだろ…………。

はぁ~~、特に言ってなかったよ!

理由は聞かないで頼まれて欲しいって言われた」


中々に真実を話さない青木に、穂高はこれを言ったら増々教えてくれないとも思ったが、全てを話さない限り、情報を与えてくれそうにも思えず、ため息交じりに、観念したように打ち明けた。


「そッ! なら私も教えられないね!

ざ~~んねんッ!!」


ニヤニヤと笑みを浮かべる青木に、穂高の怒りは爆発寸前だったが、真実を知りたい穂高は、なんとかその怒りを抑え、依然として立場は下な為、へりくだってお願いをし始める。


「そこをなんとか教えてくれよ!

今日も頼まれてんだぞ?? たった一日で、こんなに噂に振り回されてるのに、それが二日って…………。

周りにも説明がつかないだろ??」


「ええぇぇ~~! だって、春奈からそう言われたんでしょ~~?

それに、良いじゃん! あの春奈と噂されるんならさぁ~~」


「茶化すなアホ……。

洒落にならんから聞きに来たんだろ? わざわざ、女子バスケ部にも出向いて」


「えぇ~? 天ケ瀬、まだ女子苦手なの~~??

今どき中学生でもグイグイくる子はいるのに~~」


(う、うぜぇぇええッ)


何とか下手に出て、教えてもらおうとしたが、話せば話す程に、茶化され、弄られ、穂高はもう諦めつつあった。


「――――はぁ~~~、分かったよ……。

そんなに言えないなら諦める。

――――結束固すぎだろ……どうなってんだ…………」


保田は大きなため息と共に、諦めた意を伝え、その場から立ち去ろうとし、最後には聞こえるか、聞こえないか分からない程に小さな声で、愚痴を零した。


そしてそんな風に、愚痴を零しながらその場から離れていく穂高を見て、数歩、穂高が進んだところで、青木は穂高を呼び止めた。


「まって。 理由は言えないけど一言…………」


それほど大きな声では無かったが、穂高に届くには充分な声で、青木のそんな言葉に、穂高は足を止め、再び青木の方へと向き直る。


そして、向き直った穂高に、青木は柔らかな声で続けて言葉を発した。


「守ってあげてね?

選ばれたのは偶々なのかもしれないけど、今の春奈は天ケ瀬を必要としてる」


「――――理由も告げずに卑怯じゃないか?」


穂高はそこまで嫌味な感じでは無かったが、今までのちょっとした仕返しも込めて、そんな言葉を返す。


「これだから思春期中学生は…………。

いい? 女の子には秘密がたくさんあって然るべきなの!

何も言わずに守ってあげてよ。 

他の女子なら天ケ瀬じゃ頼りなく見えるかもだけど、私はちょっぴり期待してるからさッ」


「――期待されても、俺は何も出来ないぞ」


青木の優しく微笑む笑顔とその言葉に、穂高は上手い返しが思い浮かばず、少し素っ気なく答えながら、再び振り返り、その場から離れていった。


「――――はぁ~~、ホント変なとこ幼いというか……なんというか…………。

期待してるぞ、春奈のナイトッ!」


 ◇ ◇ ◇ ◇


(守ってあげて……かぁ…………。

昨日の時折見せた、杉崎の何かに怯えた様子……。

杉崎を取り巻く噂……。

ーー無い話では無いよな……。)


教室に戻った穂高は、春奈の事に関して思考を巡らせていた。


「ご、ごめんねッ!?

私から誘っておいて遅くなって……」


穂高が体育館から教室へと戻って数分、春奈は朝と同じように息を少し切らしながら、穂高にそう伝えた。


教室には、生徒がほとんど残っておらず、部活か下校をしていた。


「別に特に大きな用も無いし、いいよ。

それじゃ、帰るか……」


「そうだね!」


穂高は自分で言っていて違和感を感じまくっていたが、穂高の言葉に春奈は素直に返事を返した。


それから、校舎という事もあり、学校を離れるまでお互いに簡単な会話、学校での話題しか出さず、中身の無い会話ばかりが繰り返された。


そして、ようやく学校を離れ、周りを見ても同じ生徒の姿が見当たらなくなったところで、穂高は今日、春奈と本当に話したかった話題を切り出し始める。



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