第43話 姉の代わりにVTuber 43


◇ ◇ ◇ ◇


「はぁ~~……、今日は疲れたな……」


6時限目が終わり、放課後へと移り変った時間帯。


穂高(ほだか)は、ある疑問を解消する、あるいわ解消できずとも、情報を集める為、放課後になると教室を出て、体育館へと向かっていた。


春奈(はるな)と下校する約束もしていたが、春奈が担任の教員と話す用があるとの事で、丁度良く時間が少し空いていた。


(瀬川(せがわ)はなんとか信じてくれたから良かったにせよ、武志(たけし)のアホウは全くと言っていい程に俺の話を信用しなかったな…………。

結局、依然として俺の事を疑ってやがったしな)


穂高は今日一日中、瀬川や武志、他の男子生徒からも昨日の春奈との一件を聞かれ、その対応で非常に疲れていた。


(にしても、噂の回る速さよ……。

昨日のあの一日でここまで周知の出来事になるかね? 普通……)


穂高は普段、こういった噂が流れても聞く側であり、自分がその渦中になったことが無かった為、すこし恐ろしくも感じていた。


(結局今日の頼みも断れてないしな……。

今日に引き続き、明日もじゃ、最悪だな。

――とうゆうか、杉崎(すぎさき)の方は問題無いのか……?)


穂高はそんな事を考えながら、歩みを進めていくと、あっという間に、体育館へとたどり着いた。


まだ、本格的に部活動が始まっていないのか、あの独特な掛け声のようなものは無く、ワイワイと楽し気に談笑する人の声だけが、穂高に聞こえて来ていた。


締め切った体育館をゴロゴロと音を立て、扉を開けると、それなりの数の生徒が体育館に集まっており、扉が開けられたせいか、少しばかり穂高は視線を集めた。


(結構いるんだな……。

今日はバスケ部が体育館を使えるらしいけど、バスケ部に見えない奴も若干いるし……)


部活に所属していない穂高は、そこら辺の形態について詳しくなく、不思議に思いながらも、目当てのバスケ部へ足を運ぶ。


「ま、まずは……、とゆうか極力男子だよな…………」


桜木高校には男子バスケ部、女子バスケ部が両方あり、穂高の知りたい情報を知っている可能性は、女子バスケ部の方が圧倒的にあったが、自前の苦手意識から、男子でも知りえているのであれば、男子に尋ねて終わりにする算段だった。


「お~い! 高田(たかだ)!」


穂高は男子バスケ部で、更に話した事のある男子生徒を見つけ、すぐに声を掛けた。


「ん? おッ? 天ケ瀬(あまがせ)じゃんッ!!

どうしたん? こんなところに」


気さくな高田は、穂高と二年間同じクラスになったことがあり、その二年間で親しくなった穂高の友人の一人だった。


「あぁ~~、まぁ……、ちょっと聞きたい事があってな?」


「俺に? 珍しいね……」


学年が三年に上がってから、クラスもお互いに変わってしまい、以前よりも交流が減ってしまった事もあり、高田は不思議そうに答えた。


「バスケ部で知ってる奴、他にもいるけど、お前が一番聞きやすいかと思って……。

最近なんだけどさ……、女子バスケ部で杉崎って見かけてるか?」


「え……? 見かけるも何も天ケ瀬があっちこっち連れ回してるんじゃないの??」


穂高の質問に、高田は鳩が豆鉄砲を食らったかのように、呆然と驚きながら、さも常識の事のように聞き返した。


「は、はぁああッ!?!?

な、何言ってんだッ」


穂高は今日一番の大きな尾ひれがついた話に、思わず少し大きな声が出てしまった。


「え? 違うのか??

俺はそう聞いたけど……。

――とうゆうかさぁ、天ケ瀬ぇ~~、あの四天王の一角をどうやって落としたんだよ~~!

しかも、いっっちゃん、ガードが堅いとされる杉崎だし…………。

教えてくれよぉ~~」


「落としてるわけねぇだろ?

一回、一緒に下校しただけだぞ?? どこまで話が飛躍してんだ」


穂高はため息交じりに、呼吸を整え、冷静に再び高田に尋ね出した。


「――――で?

どうなんだよ……、最近…………。

とゆうか、以前はどうだったんだ? 毎日来るほど熱心なタイプだったのか??」


「う~~ん、まぁ、杉崎は真面目だしな~~。

女子バスケ部の練習は、大会優勝とかを目指してるわけじゃ無いけど、杉崎はほぼ毎日練習に出てた」


「なるほどな……。

女子バスケ部って意外と緩いのか? 練習とか……」


「まぁ、緩いかキツイかっていったら緩いかもなぁ~。

でも、練習とかを手を抜いてる感じじゃないぞ?

遅くまで練習してるし……。

女子バスケ部は、大会優勝を目指すっていうよりは、バスケを楽しむって感じかな。

好きだから遅くまでやる……みたいな?」


穂高は、あまり桜木高校の部活の事情を知らなかった為、高田の話は少し意外でもあった。


ただ、高田の話を聞き、穂高の感じていた疑問がさらに深まった。


「真面目に出てたって事は、杉崎も遅くまで練習してたって事だよな? 最近まで……。

――なんかあったのか?」


「――――なんかあったのかって……、俺の方が聞きたいけど。

ってゆうか、連れ回してるのはお前じゃッ……………」


「だからッ、違うってのッ!!」


穂高は素直に感じた疑問を、続けて質問したが、高田は疑問を解消する答えを持ってなく、高田以外の男子バスケ部にも、聞こうかと一瞬考えたが、高田が分からなかった以上、他に聞いても望み薄に思えた。


(聞くしかないのかぁ~~? 女子に…………)


高田との会話の最中ではあったが、穂高はちらりと一瞬女子バスケ部の方へと視線を向けた。


まだ、女子バスケ部も本格的な練習に移っている様子はなく、聞くならば今しかないタイミングにも見えた。


「高田も知らないとなると聞くしかないよな……。

邪魔して悪かったな?」


「おうッ!

――――てか、俺の質問! 杉崎を落としたテクニックはッ!?」


「それはまた今度な?」


その場を去り始めた穂高に、高田は呼びかけたが、穂高はその事に対して真剣に答える事は無く、テキトーにはぐらかせ、時間もあまりないのは理解していた為、すぐに女子バスケ部の集団へと向かって行った。


(こえぇぇええ~~、なんで女子の集団ってこんな威圧感あんだろうな……。

変な噂流れてるし、極力行きたくなかったけど……)


足取りは重く、女子に話しかける事で起こりえそうな事件、ネガティブな事ばかりが頭の中で思い浮かんだ。


(話しかけやすい奴…………。

そもそも、俺みたいなパンピーが、話しかけられる奴なんて限られてるしなぁ~~)


穂高はそんな事を思いつつ、女子バスケ部を見渡し、集団の真ん中にはおらず、穂高の話しかけやすい女子生徒が一人いるのを見かけた。


チャンスと見るや否や、穂高はすぐにその女子に声を掛ける。


「お、お~い、青木(あおき)!

ちょっといいか?」


先程、男子バスケ部に話しかけた威勢は今の穂高には微塵も無く、呼びかけた彼女に届く、ギリギリの音量で女子を呼んだ。


「ん? あッ! 天ケ瀬じゃ~~ん!

帰宅部なのに、こんな所で……どうしたの?

――――まさか……、春奈に続き私もナンパ??」


人懐っこい青木は、穂高に声を掛けられても嫌な表情を浮かべる事無く、明るく答えた後、青木も噂は知っていた様子で、ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら、穂高にそう話した。


「――ふざけんな、そんなわけねぇだろ?

ちょっと、聞きたい事があってさ」


穂高は武志(たけし)たちと話す様に、砕けた話し方で青木にそう答えた。


穂高と青木は、先程の高木と同じで、二年間同じクラスだった。


出席番号が近い事もあり、何度か会話を交わし、穂高も青木に慣れなこともあって、青木は数少ない、穂高と交流がある女子生徒の一人だった。


「聞きたい事? 何??

――ってか、ウチも天ケ瀬に聞きたい事あるんだけど」


「いや待てッ! 時間も無いし俺が先だ」


「えぇぇぇ~~~ッ! ま、いいよ。

で? 何よ??」


青木も穂高とのやり取りは慣れた様子で、少し面倒そうにしながらも、穂高の用事に付き合ってくれた。


「杉崎の事なんだけどだ……」


「――え……? 嘘……、春奈の事?? 天ケ瀬、マジで付き合ってる感じなの?」


「違うし、聞けよッ!!」


青木はからかっている様子は無く、本気で驚いている様子で尋ね、穂高はそれを全力で否定した。


話を遮られ、穂高は若干ムスっとしながらも、気を問い直してもう一度青木に尋ねた。


「最近、なんだけどさ……、杉崎練習出てるか?

放課後……」


「あぁ~~、その話か……。

ん? てゆうか、天ケ瀬は知らないの??」


「は? 何の話だ??

俺が知らない?」


質問した立場であった穂高は急に、話が噛み合わなくなったような感覚を感じた。


「んん?? 頼まれたってわけじゃないのか……」


「一緒に下校してくれとは頼まれたぞ??

――てゆうか、何の話だ?? いまいち意図が…………」


穂高が知らず、青木が知ってるような事、事情がそこにはあり、穂高は違和感を会話から感じていた。


「まって!

あんまり、ここでその話題は話たくないから場所を変えよう」


「――――――わかった……」


以前として?マークだらけの穂高は、青木が何を話そうとしているのか、公で話せない話題が何なのか分からなかったが、今はとにかく情報を得る為に、青木に従った。

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