第41話 姉の代わりにVTuber 41


 ◇ ◇ ◇ ◇


天ケ瀬(あまがせ)家。


穂高(ほだか)は、春奈(はるな)と下校し、家に着くなり、すぐに配信の準備を始め、配信を行った。


穂高のルーティンとして、帰宅してから19時頃、遅くても20時には決まって、堕血宮(おちみや)リムの配信を行っていた。


穂高がリムの配信をその時間にしているのは、理由があった。


『チューンコネクト』は、今でこそ配信者の数が多い為、実現できなくなってしまったが、元々視聴者を同じ所属の配信者で食い合わないように、配信時間を分けていた。


その名残か、同期のメンバーの配信時間だけは、出来るだけ食い合わないように、お互いに配慮していた。


『チューンコネクト』で活動していく中で、そういった気遣いは、忙しさの為もあってか、段々薄れていくところもあったが、基本的にはお互いに配信時間をずらし、特にデビューしたての配信者たちは、自分以外の同期を気遣い、時間をずらす傾向が多くみられた。


穂高も例外なく、周りに流されている節もあったが、この事に関しては別に不満や思うところなどは、一切なく、自然と受け入れ、なるべく同期だけでも被らないように配慮していた。


そうして、決まって時間に一時間から二時間の間で配信を行い、穂高の今日のリムの配信は問題無く終わっていた。


(やっぱ、姉貴が入院する前に行ってた配信の続きは楽だな…………。

上手くリムに成りきれるような気もするし、違和感もない)


配信を終えた穂高は、夕食の準備へと取り掛かっていた。


しかし、準備と言っても、姉が入院して以降は、もっぱらコンビニ弁当ばかりが主流になっていた為、電子レンジで温める作業だけだった。


そうして、夕食の準備を終えると穂高は、Zoutubeを開き、動画を見ながら夕食を取り始めた。


(今の時間はサクラか…………。

相変わらず、毎日元気いっぱい……。

この生活を初めて、疲労を感じる度に凄いと思うわ)


穂高は同期のライブ配信を見ながら、から揚げ弁当の主役を口に放り込む。


穂高が同期のライブを見るのは、勉強も兼ねていたが、主な理由としては話題作りがあった。


リムの配信中に、同期の配信で面白かったところや思うところを話すと、リスナーの食いつくも良く、その配信で話していた事も絡めて、同期との裏話をすれば、盛り上がることを知っていた。


その日その時、盛り上がった話題をその配信で終わらせる事はせず、自分の配信でも上手く取り上げ、知らないリスナーにもその話を提供し、循環させていく事が、重要な事を穂高はこの数日で学んでいた。


もちろん、そればかりになってしまっては、面白い配信に成りえないが、少し話す事に間が空いてしまった時等には、とても役立っていたりした。


(次の企画どうすっかなぁ~~。

姉貴のやってたシリーズ物も、もう長くないし…………。

そう考えるとヤバいな……。

――――いや、冷静に考えれば考える程、マジでヤバイ。

また、何か試行錯誤しないと……、うッ……考え出すと、気分が…………)


穂高はまたもや、『サカなる』を配信する前のような状況になっている事に、先が不安に感じていた。


そんな時だった。


穂高の普段使いしているノートパソコンに、ジスコードの通知が入る。


佐伯  穂高君!! 今度打合せに本社に来れるかしら?

    リムにゲームの企業案件が入ったから、

    打合せをしたいの。


「はぁ? 案件!? 俺にかッ!?」


穂高はブームであるVtuberに、ゲーム会社がPRをお願いする事例が、多くある事を知ってはいたが、今、リムは成代わりの最中という事もあり、自分がそれを引き受けると、考えた事すらなかった。


(六期生で初めてか? 

――いや、案件なら他に適任がいるだろ……。

エルフィオはゲームが六期生の中で一番うまいし、知識もある。

サクラも同様にゲームは上手いし、何より六期生の中で二番目に登録者も多い……。

なんで今、中身は姉貴じゃない俺に、その大役が回ってくんだよ……)


何か面白そうな企画を考えれてない穂高には、嬉しくもある企業案件ではあったが、それ以上に責任も重く、まだ何か新しい企画を考え、四苦八苦している方が気が楽だった。


穂高  なんで俺なんですか?

    六期生でもサクラとか、エルフィオとか、

    適任いると思うんですけど……


穂高はせっかく貰えた案件に否定的なのは、少しマズいような気もしていたが、今のリムの状況はそれを受けるには相応しくないと思っていた。


(ゲームは好きだけど、人並みだからなぁ……。

よくみんながやってるFPSとか、あんまりやらないし。

そもそも、得意じゃないからな……)


配信者の中には、ゲームが得意なものが多く、穂高はあまりゲームの腕には自信が無かった。


流行りのFPSも、やった事はあるが一人で没頭してやるタイプでなく、武志(たけし)や彰(あきら)、瀬川(せがわ)など、友達と集まったらやる程度のレベルだった。


佐伯  ウチももちろん、サクラやエルを推したわ。

    でも、先方の強い要望で、

    リムになってしまったの……。

    

穂高  登録者数関連ですか?


穂高は少しモヤついた気持ちを感じながら、佐伯に返信を返す。


佐伯  確かにそれもあるけど……、

    企業の方がリムの最近の配信を、

    見たそうなの。

    『サカなる』の配信よ。

    決め手はその配信が理由みたい。


「え……?」


穂高は思いもよらぬ返信に、思わず声を漏らした。


佐伯  穂高君は興味無いか、

    そこまで気が回らなかったのかもしれないけど、

    あの配信は界隈では結構評判なのよ?

    かなり古いゲームだったでしょ? アレ……。

    でも、リムの配信を見て、

    改めてあのゲームをやろうって人が、

    増えたらしいの。

    ネット通販とかでも、結構売れてるらしくてね?

    そこに惹かれたんだと思う。


「そんな事が…………」


佐伯のメッセージを目で追っていくうちに、そんな言葉が思わず零れる。


穂高は、姉と変わって以降、目立った功績を残せていないと自分で、思っている節があった。


その一番の要因として、チャットのやり取りにもあった登録者数の理由があった。


姉から代わって以降、リムのチャンネル登録者数の伸びは伸び悩んでおり、ハッキリゆうと美絆(みき)のリムの勢いと比べて、穂高のリムの勢いは見劣りする部分もあった。


成り替わって以降の目標が現状維持であったとしても、リムをやっている穂高からすれば、その点は無視できず、どうしたって気になる部分でもあった。


佐伯  その話を企業さんから聞いて、

    私は穂高君にこの案件を任せても良いと思う。

    きっと良い形でPRする事が出来ると、

    そう思ってる。


佐伯の言葉に、穂高はどこか達成感のような感覚と、自信のようなものが湧いてくる感覚を感じていた。


穂高  分かりました、やります。

    

佐伯  OK! それじゃあ、先方に連絡を入れるね?

    ゲームはまだ開発段階の物で、

    発売日もまだだから、

    そこまで長くプレイする事も無いと思う。

    来月ぐらいの話だから、

    じっくり内容を詰めていこう。


佐伯のメッセージに穂高は、簡単に返事を返しジスコードを閉じた。


(俺に案件…………。)


『チューンコネクト』のVTuber配信者であれば、こういった話も珍しい話では無かったが、穂高は自分に来た案件が嬉しく、沸々と情熱のようなものが、自分の中で沸き上がっている感覚を感じていた。


そして、穂高はその日、改めてリムを全うするうえでのやりがいを感じ、春奈(はるな)との約束でもあった、彼女の配信の様子が入ったDVDを確認した。


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