第40話 姉の代わりにVTuber 40


「やっぱり天ケ瀬(あまがせ)君も知ってたかぁ~…………」


穂高(ほだか)の問いかけに、春奈は困り顔で呟き、答えた。


「結構噂になってるけど、大丈夫?

学校内はもちろん、学校外でもちらほらと噂されてるみたいだけど……」


「う~~ん……、ちょっと、私も困ってるんだけどね~~。

噂は否定してるし、これ以上はどうしようも無くって…………」


「和歌月(わかつき) カグヤだっけ?

そんなに似てるかな??」


穂高は今、何度か春奈と会話をした中で、改めて自分の知るカグヤとの声を照らし合わせ、そんな風に呟いた。


曲がりになりにも、モノマネをしている穂高にとっては、カグヤと春奈は似ているとは思えず、確かに声のトーン等は近くはあったが、それでも口調や話し方のリズムなど、相違点の方が多く、大きく感じていた。


「流石に自分じゃ分からないよ。

――でも、似てないと私も思うけど…………。

皆には似てるって言われるし、そうなのかも」


(和歌月 カグヤって二期生だよな……?

二期生って事は、それなりに活動も長いし……、普通に考えれば現役高校生なんて事あり得ないんだけどな。

ましてや、疑われてる本人も否定してるし)


穂高は考えれば考える程、この噂の信憑性が無いところが見え、ただ声が似ているというだけで、ここまで真実のように伝わる噂を恐ろしくも感じた。


「俺も噂の否定に協力はするけど、面倒だったら彰(あきら)とかにも否定するのを手伝ってもらえばいいんじゃない?

桜木(さくらぎ)四天王は言わずもがな、昼休みとかによくつるんでる彰や、大貫(おおぬき)達も人気者だし、率先して否定してって貰えればすぐに噂は無くなるんじゃない?」


かなりごり押しの対策ではあったが、穂高はそれが今考えられる案では有効だと思い、学校では人気者、陽キャラであり、スクールカースト上位の力を使えばあっという間のようにも思えた。


「う~~ん、流石にそれは~…………」


穂高の提案に春奈は微妙そうな表情を浮かべ、唸るように呟いた。


そして、放課後になって数分。


二人が話し込んでいると、唐突に学校のチャイムが校内に鳴り響く。


「あ…………、もうこんな時間……」


話の途中で遮られた春奈は、チャイムに気が付くと、教室に備えられた時計を見て呟いた。


二人の聞いたチャイムは、放課後の部活動が本格的に始まる時間になるチャイムであり、意味合いとしては、どこの部活にも所属していない生徒、あるいは最終のホームルームが長引いている教員に時間を知らせる鐘だった。


このチャイムを聞けば、特に大きな用事の無い教員は、そそくさとホームルームを閉め、部活所属していないく、放課後教室でただ友人と会話をしていた生徒は、帰ろうとしたりしていた。


授業の始まりや終わりを告げるものより重要性は低いが、昔からそのチャイムは桜木高校で鳴っていた。


「――そろそろ帰るか……。

それじゃあ! このディスクは今日見て、明日には返すよ」


穂高は今日もいつも通り、リムの配信が控えているため、帰宅し準備の時間があり、区切りの良いタイミングでそれを切り出した。


「あ……、ちょっと、待ってッ」


穂高がそう言いながら、教室から出ようと歩き出すと、咄嗟にその行動は、春奈に止められた。


帰るのを止められた穂高は、素直に春奈の方へと振り返り、春奈は何故か、再び恥ずかしそうに、そして何かを言いずらそうにしていた。


「あ、あの~~さッ……、きょ、今日なんだけど、もう一つお願いがあってさ……」


不思議そうに春奈を見つめる穂高に対して、春奈は今にも恥ずかしさで爆発しそうになりながら、穂高にソレを伝えた。


「理由は聞かずに今日だけ…………、一緒に下校してくれないかな?」


 ◇ ◇ ◇ ◇


(な、なんでこうなった…………)


桜木高校からの帰り。


穂高は春奈に頼まれるがまま、断る理由も思いつかなかった為、春奈と共に下校していた。


「――――ご、ごめんね……? ほんと…………」


肩身が狭そうに、春奈は申し訳層にしながら小声で穂高に謝った。


「い、いや……、俺は別にいいんだけど……、そっちはいいの??」


穂高と春奈。


学校での立場は、傍から見ればかけ離れており、二人で下校をすれば、変に誤解される可能性も容易に考えられた。


「わ、あたしは全然大丈夫。

それよりも、天ケ瀬君の方に迷惑が掛かったちゃうかも……」


春奈はそう言いながら辺りを見渡し、まだまだ桜木高校から近い場所だった為、同じように下校している生徒の目を二人は引き、ただでさえ四天王とまで呼ばれる春奈は、余計に目立ってしまっていた。


(こりゃ、明日は地獄かもな…………)


目撃者があまりにも多く、春奈がかつてそういった事で噂を流した事も無かった為、明日は四方から質問攻めに会うであろう事を穂高は覚悟し、またその状況を思い浮かべれば思い浮かべる程、気分は憂鬱になった。


「頼まれ通り、理由は聞かないけど、俺で良かったのか?

これこそ、彰とか大貫とかに頼んだ方がいいだろ?」


「――――え、えぇ~~と……。

ちょっと、彰とかだと洒落にならない噂になりそうで……」


穂高の質問に対し、春奈の答え方はいささか抽象的すぎる答えだったが、穂高は春奈の言わんとしている事が、すぐに理解できてしまった。


「あぁ~~、何となく分かった……。

クラスの人気者同士だしな…………、傍から見れば理想そのものだし、こっちの噂の方が否定しても信じてくれ無さそう」


春奈は気を使って、わざわざ遠回しに穂高に伝えたつもりだったが、それはむしろ逆効果となり、客観的に見れば、増々穂高は惨めな様にも思えてしまっていた。


「ご、ごめんッ! ほ、ホント他意は無いんだよ!?

ただ、その頼みやすいというか……、周りの圧力もあるし…………」


春奈が気を使えば気を使う程に、穂高は微かに心にダメージを負ったが、それでも仕方がないと割り切ることは簡単だった。


「大丈夫だよ。

そこら辺は慣れてるし、変に気を使わなくても……。

というか、それよりも部活はいいのか? 確か、バスケ部だったんじゃ……」


「え? あ、あぁ~、いいのいいの!

今日はオフだし、桜木高校のバスケ部は残念ながら強豪じゃないしね……。

皆、それなりに自由にやってるから」


(自由にね…………。

結構、遅くまで練習してるイメージだったけど、大会の優勝目指してるとかってわけじゃないのか……)


「――ふ~~ん、そうゆうもんか」


穂高は少し違和感に感じる事もあったが、変にこれ以上追求することは無く、簡単に返事を返すとこの話題は途切れた。


そうして、お互いに上手く話題が見当たらず、数分間、無言でただ歩いている時間が続いたそんな時だった。


隣を歩く春奈はビクリと、何かに驚いたように体を跳ねらせ、その場に立ちすくみと、自信が歩いてきた道を振り返った。


もちろん、そんな春奈の行動に穂高が気づかないはずも無く、自分も立ち止まり、心配そうに春奈を見つめた後、春奈が振り返った視線の先へと、自分も視線を持っていった。


(――――何もいない……)


春奈が振り返った視線の先には、誰もおらず、特に変わったような様子も見受けられなかった。


「どうした?」


穂高は視線の先を確認すると、ようやく春奈へ声を掛けた。


「え……? あ、あぁ、いや……、何でもないよ!?」


穂高の質問に春奈は一瞬表情を暗くさせたが、すぐに取り繕う様に笑顔で、心配させないように答えた。


「――――そうか」


下校途中。


春奈のそんな行動は、この一度きりだったが、穂高はそんな春奈の行動が妙に気になっていた。

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