第39話 姉の代わりにVTuber 39


 ◇ ◇ ◇ ◇


「――ごめんね? 急に呼び出しみたいな……。

何となく、何を話すか分かってるんだろうけど、やっぱりあんまり聞かれたい内容じゃないからさッ!」


穂高(ほだか)は、放課後になると春奈(はるな)に連れられ、校内のあまり使われていない空き教室へと訪れていた。


空き教室へ入るなり、春奈は恥ずかしそうにしながら、少し申し訳なさそうに、穂高へそう告げた。


「あぁ~~、まぁ、確かにあんまり人前で話したい話題じゃないよね……」


穂高は頭に、和歌月(わかつき) カグヤとの一件を思い浮かべ、春奈の言葉に答えた。


「は、恥ずかしいしね……やっぱり…………。

あッ、でも、恥ずかしいは失礼かッ!?」


穂高の答えに対しての春奈の反応に、穂高は少し違和感を感じたが、特にその違和感に対して追及することなく、ここに来るまでに、絶対に伝えなければならないと思っていた言葉を、春奈にぶつけた。


「――えぇ~~とさ、頼って貰うのは全然問題無いんだけど……、

この件に関して、俺にできる事ってあるのかな?」


穂高は脳内に常に、カグヤの事を考え、春奈が穂高の正体を知らない以上、直接、表立って手伝えることは少ないと、そう思っていた。


今も、出来る限り、自分の動ける範囲で噂の解消を試みてはいるが、やはり間接的な行動しか起こせず、こうして春奈と何かを相談しながら、トラブルを解決するような事は出来ないと考えていた。


「そんな事ないよッ! 天ケ瀬君にしか頼めないし……。

――――とうゆうか、私の事情を知ってて頼りになりそうなのは、天ケ瀬君くらいしか思いつかないし…………」


「――買い被り過ぎだと思うけど…………」


春奈の期待に応えられないと思っていた穂高は、苦笑いを浮かべながら答える。


「と、とにかくッ! まずは、ちょ……、ちょっと、コレッ!!

――――聞いてみて欲しい………………」


自信が無さげな穂高に対して、春奈は少し言い淀みながら、穂高にある物を付きだし、言葉の最後は尻すぼみに段々と力が無くなっていった。


穂高はそんな春奈から突き出された物へと視線を向ける。


「DVD?」


突き出された春奈の手にはDVDがあり、不安なのか、彼女の手は少し震えていた。


「――そ、そうッ! あ、あれからさ!

天ケ瀬君に言われた通り、ちょっとずつ配信の真似事みたいなのを初めてさ……。

前からやってはいたんだけど、本格的に……というか、今はオーディションに向けて練習してて……。

それで、今まで人に自分の配信とかを見て貰った事ないから、詳しい天ケ瀬君に見てもらいたくて…………」


(あぁ~~、なるほど、そっちか…………)


春奈は恥ずかしい為か、穂高と目線があまり合わせられておらず、時折、穂高の表情を伺う様にチラチラと見ながら、穂高に頼み事を伝えた。


そして穂高は、春奈のその言葉で、初めから感じて違和感の正体が分かり、これまでの事が腑に落ちた。


「――これに、取った動画が入ってるの?」


穂高は一先ず、差し出されたディスクを受け取ると、春奈にそう問いかけた。


「そうッ!

天ケ瀬君、詳しそうだったからさ~~。

遠慮なしの素直な意見が聞きたいんだ」


「なるほどね…………」


穂高が受け取った事で、春奈は一先ず安心したのか、笑顔を浮かべながら答え、穂高は呆然とそのディスクを見つめ呟き、少し考えこんだ。


(まぁ、カグヤの一件よりは、協力できそうな案件ではあるか……)


断る理由も、手間もそこまで掛からない為、穂高は引き受けるつもりではあったが、正直有益なアドバイスが出来るとは、あまり思えなかった。


「感想ぐらいしか言えないけど、それでも大丈夫?

ここが面白かった~とか、ここがイマイチだった~~みたいな事しか言えないだろうけど……」


「う、うん! 大丈夫ッ大丈夫ッ!!

それだけでも充分だよ!」


自身の無さそうな穂高の答えだったが、それでも春奈は全力で喜び、春奈を焚きつけるような事を言った手前、穂高は出来る限りのアドバイスはしようと誓った。


「――――分かった、杉崎(すぎさき)さんがそれでいいなら引き受けるよ。

大切なVTuberリスナーだしね……」


「良かったぁ~~~……、ありがと!

――って言うか大切なVTuberリスナーって…………、天ケ瀬君もでしょ?」


「――そ、そうだね………………」


春奈は全身の力が抜けたかのように、息を大きく吐くようにして安心し、思い出したように穂高の言葉を笑いながら指摘した。


穂高は春奈の指摘に苦笑いしか浮かべることが出来ず、言葉もどこか棒読み気味だった。


(そういや、そうだった……。

全く俺のせいじゃないけど、あのアホ武志(たけし)のせいで、ヘビィリスナーだと思われてんだ、俺…………)


穂高は心の中で、再度あの時の武志を恨みながら、自分の置かれている立場を再認識した。


「いやぁ~~、ホントはもっと早く、先週とか先々週にお願いしたかったんだけど、中々タイミングが合わなくて結構困ってたんだよねぇ~~。

天ケ瀬君は同じ趣味で、私の夢も知ってる相手なんだけど、それでもやっぱり、いざこうゆう事を頼むとなると恥ずかしくって…………」


(恥ずかしいか…………。

俺は状況のせいもあったんだろうけど、あんまり恥ずかしいとか思った事は無かったなぁ~~。

佐伯(さえき)さんにバンバン、動画送ってたし……。

恥ずかしいと感じたのはそれより前か……、一人でやってた頃…………。

んん~~、それでもあんまりか……、楽しいって気持ちの方が大きかったな)


春奈の話を聞きながら、穂高はこれまでの事を思い返し、春奈の気持ちは少し、穂高にとっては新鮮なものに聞こえた。


そして、漠然とそんな事を考えている穂高に、春奈は話を続けた。


「――――そういえばさ!

先週とかも何度か頼もうって思ってたんだけど、最近の天ケ瀬君、なんか忙しそうだったよね?

何をしてるかまでは分からなかったけど、しきりにノートに何か書き込んでて……」


「――――え?」


春奈の話はもちろん聞いていた穂高だったが、意識を全て彼女の話に集中させていたわけでは無く、急な危ない話題に、一気に穂高は現実へと引き戻され、過去の事を思い返す隙は無くなった。


「テストにしては、まだ時期が早すぎるし……、あの時って天ケ瀬君何してたの?」


(やッ、ヤバいッ!!)


全く返答も用意していない話題を急に春奈に振られた事で、穂高は焦りに焦っていた。


(時間も余裕も無かったとはいえ、学校でまで絵の練習は流石にやり過ぎだったかッ!?

――いやいや、でも、あの時にはあれしかない程に追い詰められていたし…………)


「べ、べべ、勉強だよ~!

高校三年生だから、受験もあるしね!!」


穂高はそこまで競争率の高い学校も狙っておらず、成績も悪くはない為、そこそこに勉強し、そこそこのところへ行くつもりではあったが、言い逃れる為には嘘を付く他無く、咄嗟にその言葉を返した。


「もう始めてるのッ!? いや、でも当然か~~。

私はそんなにレベル高いところ狙ってないし、やっぱり一流のとこ狙ってる人は始めてて当然だよね。

二年生で始めてたって遅くないくらいなのに…………」


咄嗟に付いた穂高の嘘だったが、なんとか誤魔化す事には成功し、穂高は事なきを得た。


春奈と穂高はその後も、何気ない会話を交わし、そろそろ解散しようとしたそんな時だった。


穂高はこの機会に、春奈にどうしても聞いておきたかった事を尋ねた。


「――――そういえばなんだけどさ、杉崎さんに一つ聞きたい事があってさ……。

俺は杉崎さんの趣味も、夢も知ってるから間違った事だっていうのは分かってるんだけど、

何か最近、変な噂が流れてるよね?」


穂高は春奈に少し悪いとも思いつつも、情報を少しでも多く集めたかった為、直接本人にカグヤの件に付いて尋ね始めた。


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