第38話 姉の代わりにVTuber 38


 ◇ ◇ ◇ ◇


 松木(まつぎ)市 和歌月(わかつき) カグヤ


穂高(ほだか)は、一番様々な情報が流れているであろう、ズイッターにて、ワード検索を掛けていた。


(んん~~、ちらほら引っ掛かってはいるな…………。

そこまで大きな騒ぎにはなってないけど、数人、そういった話を投稿してる)


携帯を操作しながら、引っ掛かった投稿を流し読みしていく。


(まぁ……、噂はされてるけどなぁ~~。

正直、これぐらいの規模なら問題無いようにも思える。

他のメンバーの中には、もっと大人数でやられてるのとかあるし…………)


特定。


VTuberに限らず、配信者はいつもそのリスクに晒されていた。


特に顔を出していない配信者に関しては、まず容姿から、そして段々と詳細が特定され、明らかにされていくのが通例だった。


(自分の憧れや好きな人だもんなぁ~、知りたくもなる……。

俺は実際に会うと幻滅するタイプだから、気持ちは分からんけど……)


様々なコメントを見ていく中で、中には熱狂的にコメントをする者をおり、そのコメントを見るたびに、違和感を感じていた。


「声が似てるねぇ~~」


穂高は携帯に映し出されたコメントを、思わず口に出す。


教室にいた穂高だったが、幸いにも周りに自分の声は届いておらず、穂高の独り言は誰にも聞かれなかった。


そうして、穂高はもう少し、カグヤについて調べていると、そんな穂高に声が掛かる。


「おいぃ~~、穂高~~。

目当てのパン無かったぞ??」


少し気落ちした様子の声の主は、武志(たけし)であり、両腕にパンや飲み物を抱え、穂高に話しかけていた。


そして、そんな武志の後ろには、同じく購買帰りな瀬川(せがわ)の姿もそこにあった。


「はぁ~~? なんであらびきウィンナーパンが無いんだよ。

いつもあるだろ??」


「仕方ないだろ……、今日の四時限目終わるの遅かったんだから…………。

完全にスタートダッシュ失敗だよ……。

――――つうことで、豆パンやるよ」


「またかよッ!!」


穂高と武志は、お互いにその日の昼食をパシらせる事をしており、午前中の授業の、間休みのどこかのタイミングで勝負し、負けた方がその日、パシらされ、購買へと昼飯を買いに行くシステムだった。


武志が豆パンと鮭おにぎりを穂高へと渡すと、穂高はそれを受け取り、その商品に見合ったお金を武志に渡す。


「そういやさ、武志……。

こないだお前が噂してた話あったろ? 

あの~~、杉崎(すぎさき)さんが有名人の中身なんじゃないのかって話…………」


穂高は一度食べた事のある豆パンの袋を開けながら、初めて豆パンを食したその日に、話した話題を武志に投げかけた。


「あぁ~~、覚えてるよ?

でも、あれ違うんだろ?? 本人にお前が聞いたって……」


穂高の話にすぐに武志は察しが付き、近場の椅子と机を借りながら、穂高の質問に答える。


穂高は、春奈(はるな)本人とこの話題を話した事は無かったが、春奈が例のVTuberの中身では無い事を知っていた為、その噂の否定を以前、武志に行っていた。


「そう、あの噂は違ったわけなんだけどさ……。

その噂ってまだ結構広まってたりするのか? 今日、彰(あきら)にその事を聞かれてさ」


「あぁ~~、まだ話してる奴はいるなぁ~。

俺が聞いた奴には一応否定しておいたけど、噂自体は未だに結構流れてるらしい」


武志は噂の真意を知っている為か、初めて話した時ほどの熱量はもうなく、少し興味の無さそうに淡々と、穂高の質問に答えた。


「あ、その話なら俺も知ってるぞ?

この間、杉崎さん本人が直接聞かれてるところを見たぞ??

結構、困ってる様子だったけど…………」


穂高と武志の話題に、瀬川も入り、当時の事を思い返しながら、穂高達へ話した。


「なるほどなぁ~~……」


(こりゃ、結構根深そうだな…………)


穂高は意味深に呟くと、問題の深刻さに少しずつ気付き始めていた。


(杉崎本人が、否定してもなお噂は広まりり続けるって、結構面倒だよな……。

それだけ、杉崎とカグヤが似てるって事なんだろうけど…………。

それにカグヤは………………)


『チューンコネクト』の関係者でもある為、この問題を放置する事はあまりしたくなく、変な問題が起きる前に、手を打っておきたい事でもあった。


穂高がカグヤと春奈の事を考えていると、再び穂高は声を掛けられる。


「――――ね、ねぇ、天ケ瀬(あまがせ)君ッ」


穂高を呼びかけた声は女性のものであり、近くにいた武志や瀬川にも、もちろんその声は聞こえており、声のする方へと振り返ると、穂高を含め全員がその存在に驚いた。


「――杉崎さん…………」


丁度、杉崎とカグヤの事を考えていた穂高は、思わず小さく声を漏らし驚き、瀬川も穂高と似た様に、目を点にさせ黙りこくっていた。


そして、何より一番武志がその存在に驚いていた。


「ど、どうしたの? 杉崎さん……」


穂高は動揺しながらも、春奈に言葉を返し、横目で心配するように武志を確認した。


武志は、顎を震わせ、口をパクパクと開け閉めしながら、驚きの表情を浮かべており、その表情は、まるで実在しない、ファンタジー上の生物でも目撃したかのような、そんな表情だった。


緊急事態でもあった穂高は、そんな武志の表情を観察したくもあったが、意識は春奈の方へ集中させる。


「あ、あのね? 今日さッ……、放課後予定とかある……かな?」


恥ずかし気に、話しずらそうに話す春奈だったが、伝えたいことを穂高にしっかりと伝え、穂高はその突然な話題に動揺した。


変な下心のようなものはわかずとも、得体のしれない状況に、穂高は妙な緊張感を持ち始める。


「え、えぇ~~と……、予定とかは無いけど…………。

何かあるの?」


春奈の言葉に、凍ったように硬直する武志を尻目に、穂高は恐る恐る春奈に尋ねる。


「――――こ、こないだの事を含めてさッ? ちょ、ちょっと、天ケ瀬君に手伝ってほしい事があって……。

そ、そんなに時間も取らないからさッ! ちょっと話するだけでも、いいかな……?」


そこまで、穂高は春奈の事を深く知っているわけでは無かったが、彼女が異性に対して、恥ずかしそうに話すタイプでは無い事を穂高は知っており、穂高から見て、春奈の様子を少し違和感に感じていた。


「別に問題はないけど……」


「そっかッ! 良かったぁ~! それじゃあ、今日の放課後ね?? 

あんまり人に聞かれたら恥ずかしい話でもあるから、準備できたら声掛けるね?

またねッ!」


穂高の返答を聞き、春奈はいつもの明るさを取り戻し、元気よくそう穂高へ伝えると、その場から離れていった。


突然の来訪から、穂高は緊張をようやく解き、ホッと息を付いた。


しかし、穂高は別の者達の追及に会う。


「おいッ! 穂高ッ!!

どうゆう事だッ!?」


「はぁ~~……、武志……。

お前の思っているような事は何一つとしてないぞ?

多分、何かしらの手伝いとかだろ」


穂高は武志の問いかけを面倒に感じ、あからさまに嫌そうな表情を浮かべながら答えた。


「天ケ瀬……。

お前は俺と同じだと思ってたのに…………。

いつの間に、パーリィーピーポーを目指す様になったんだ?」


「瀬川まで…………」


穂高はその後も、武志からは追及、瀬川からは若干弄られ、その昼休みは弁明をひたすらする事で消化してしまった。

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