第四章 カグヤ騒動

第37話 姉の代わりにVTuber 37


 ◇ ◇ ◇ ◇


(遂に……、遂に週末かッ!!)


桜木(さくらぎ)高校に登校する中、穂高は週末の事で頭が一杯だった。


(『サカなる』遂にファイナルシーズンッ!!

6.7回にも渡る配信で、ようやく目的であるWカップ最終予選まで辿り着いた……。

残す所あと一戦……。 それを勝てば、目的がようやく達成される!!)


穂高の企画した、リムの配信は遂に大詰めへと差し掛かり、前回の配信でも盛り上がった為、その盛り上がりを勢いに、ここで穂高は目的を果たすつもりでいた。


好評の企画を終わらすのは惜しい事でもあったが、長々とダラダラ配信する事もしたくは無かった為、ここできっぱりとゲーム内で勝利し、傀儡(かいらい)と共に盛り上がったこのシリーズを終わらせたかった。


(長かった……、一度、クラブが赤字になりかけた時は、どうしようかと思ったけど、何とかここまで来る事ができた。

傀儡に首にしろって言われ続けてきた松井(まつい)も覚醒したし……、今週は気合入れて配信しないとッ)


世間は月曜日であり、面倒そうな表情を浮かべ登校する生徒が多くいる中、穂高は一人活気づき、闘志をメラメラと燃やしていた。


「よっすッ! 穂高ッ!

――――ってなんだ、お前? なんか今日は珍しく活き活きしてるな??」


穂高が登校していると、後ろから声を掛けられ、穂高が振り向くとそこには楠木 彰(くすのき あきら)の姿そこにあった。


「朝から失礼な奴だな……。いつも活き活きしてるだろ」


「いやいや、冗談だろ?

基本死んだ顔してる……、特にここ最近は」


「あぁ~~……最近…………、まぁ確かにな」


穂高は直近での出来事を思い浮かべ、翼(つばさ)との事があり、自分が死んだ顔をしていた理由に、すぐに察しが付いた。


「なんか、穂高忙しそうだったし、最近なんかあったのか??

今日の表情も含めて」


「ん~~、まぁ、大した事じゃない。

話しても面白くないから、この話は今度気が向いたときにな?

それより、お前こそこんな時間に登校か? イケイケグループの朝は忙しいだろ?」


穂高はニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「嫌味か、お前…………。

好きでそんな感じになってるわけじゃねぇよ。

――――でもまぁ、最近はこんな時間だぞ? 朝」


「ふ~~ん、意外……。

あ、てかよぉ~、彰の口から言ってくんね? あの大貫(おおぬき)の馬鹿にさぁ~~。

アイツ何回言っても朝、人の机椅子にしてんだよ」


「自分で言えよ……。

一緒に遊んだ仲だろ? もう友達みたいなもんなんだから」


「言っても、相変わらずのヘラヘラ回避で終わんだよ……。

真面目なお前から言ったら、少しは効くかもだろ?」


穂高と彰は登校しながら、そんな他愛の無い会話を繰り広げ、会話をしている内に、校内へと入っていく。


そして、校舎に入る前、彰はある話題を穂高に投げかける。


「なぁ、穂高……VTuberって知ってるか?」


「ブフッッ!! え? 何??」


急な話題の展開に、思わず穂高は吹き出したように声を上げ、少し慌てた様子で彰に尋ねる。


「VTuberだよ。

ちょっと気になる噂があってさ…………」


彰は少し表情が暗く、穂高は何を話されるかまるで見当が付かなかった。


「ま、まぁ、知ってる事は知ってるけど、なんだよ噂って…………」


直近にも、危ないトラブルがあった穂高は、嫌でも体中に緊張が走る。


「ウチのクラス……、杉崎 春奈(すぎさき はるな)が、実はVTuberなんじゃないかって噂が流れててさ…………」


「はぁ…………、まだその噂流れてんのか……」


穂高は自分の話では無いと分かるとホッとし、それと同時に、武志(たけし)から以前聞かされた噂の事を思い出した。


「え? なんか知ってるのか??」


「ま、まぁ……、遊びに行ったときに似たような話をしてな?

その噂、デマだぞ?」


「だよな…………。

俺もそんな風に思ってたんだよなぁ。 高校生やりながら配信なんて無理だろ? 普通…………。

学業疎かにしてたり、欠席しない限り……」


「ん、あ……、まぁ、そ、そうだな…………」


バレてもいないのにピンポイントを付かれる穂高は、言葉に詰まり、冷や汗を感じた。


「それで、まぁ噂が結構広がってる。

春奈も直接聞かれたりしてるみたい……。

本人も困ってるみたいだし、どうにかしてはやりたいんだけど、中々…………」


「ふ~~ん」


少し深刻そうに話す彰に対して、穂高は他人事のように相槌を打ち、両者に温度差があった。


「ふ~~んって、お前なぁ…………。

春奈とも遊んだ仲だろ?」


「遊んだ仲って……、お前、何か下品だぞ?」


「ふざけてる場合じゃなく、マジな相談なんだって…………」


穂高に相談しても、未だまともに取り合ってもらえない彰は、呆れた様にため息交じりに呟いた。


「相談って言われてもな~~。

俺みたいなパンピーじゃ何にも出来ねぇぞ?

まぁ、とりあえず身近な奴らには言い聞かせてはおくけど…………。

もっと発言力ある奴に頼めよ~~」


穂高は彰の様子を見て、ようやくきちんと受け答えたが、実際問題、穂高が出来る事は限られていた。


「――っていうか、何か実害あんのか?

学校の連中に噂されてるだけなんだろ?? 聞かれるたび、その都度否定して行けば、いずれと噂は無くなるんじゃないのか??」


「う~~ん。 学校の噂はな…………」


穂高の至極当然な質問に、彰は何故か含みある言い方で答える。


「学校の噂は?? 何、学内だけに留まってないの?」


「――――何とも言えない……。

こないだ、俺も調べてみたんだ。

そしたら、若干SNSでも情報が流れてるみたいなんだ…………」


「はぁ?? 大丈夫なのか? それ……」


彰の話しは段々ときな臭くなっていき、立場上穂高も放ってはおけないような雰囲気になりつつあった。


「今のところは大丈夫。

穂高が心配してるような事……、実害はとりあえずないみたい…………。

ただほら、そうゆうSNSの投稿を見付けちゃった以上心配だろ?

俺が見たSNSの情報はそこまで拡散されてないし、多分信じる人もいないだろうけどさ」


「そう…………」


春奈に実害が出ていない事を知り、穂高は一先ず安心はしたが、自分からも少し動く事を視野に入れ、火消しのような事を考えた。


(杉崎の事ももちろん心配ではあるけど、何しろ疑われてたのが、『チューンコネクト』の配信者だからな……。

まだ問題にもなってない事だし、心配し過ぎな事なのかもしれないけど、一応、佐伯(さえき)さんには、話しておくか…………)


穂高は連絡する事を決め、そのために少しでも情報を集めようと思った。


(そういや、最近、あの令嬢のせいで忙しすぎて話して無かったけど、どうなったんだろうな……。

オーディションとか受けてみるとか言ってたけど…………)


穂高はズポッチャ以降、主な交流が彼女たちと無く、立場を考えれば当然とも言えるが、せっかく連絡先を交換したpain(パイン)も、彼女達と交流できるグループチャットは動いていなかった。


(まぁ、これに関しては、俺が何かできるわけでも無いしな…………)


穂高は自分の頭の中で、早々にそう結論付けると、彰に先程の話題を振り始めた。


「彰……、そういえばなんだけどさ、杉崎って誰と勘違いされてんだ?

勘違いされてるっていうのは知ってるけど、VTuberの誰かとかは聞いた事なくて……」


「んん~~、俺も詳しくは分からないんだけど、『チューンコネクト』? なんかそれに所属してる人らしい」


「それは知ってる…………、名前とか分かんねぇの?」


穂高は依然、武志(たけし)からその情報は得ており、穂高の質問に彰は難しい表情を浮かべ考え込んだ後、何か思い出したかの様に話し始めた。


「あッ! そうだ!!

確か、二期生の和歌月(わかつき) カグヤとかって言ってたかな?」


「和歌月 カグヤ…………」


彰の言葉に穂高はすぐにピンときた。


そして、その人物がどういった人であり、二期生という事で、六期生のリムとは、あまり縁も無い立場な方だった。

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