第35話 姉の代わりにVTuber 35


投票数6710。


総数22368の中、リムの絵には約三割ほどの票入れられていた。


相手がプロだという事を考量すれば、逆に三割も入ることは大健闘にも思えたが、それでも、勝負に負けた穂高にはその事は関係無かった。


その後の配信では、二人だけにお題を発表し、制限時間数秒を設け、短い時間で描いた絵を視聴者に当ててもらうという勝負に変わった。


もちろん、その中には人以外のものは含まれ、圧倒的不利な穂高は、リスナーに正しく答えてもらう事は出来ず、早々にリムの敗北は決まっていた。


「り、リムちゃんッ! その絵はどうゆう事??」


お題に沿って描かれた絵を、リムが発表するとサクラは声を出し笑い、コメントでも草が生やされる始末だった。


最初のお題が、内容はどうであれ、出来が良い絵だった為、人以外のものが壊滅な事が逆に笑いを誘っていた。


「タクシー運転手でしょ? どっからどう見てもッ!」


「いや、分かる! 今回に関しては分かるけども! 

どうして車に乗ってる運転手はきちんと描けてるのに、車はグニャグニャなの!!」


「未来の素材を使ってますね」


必死に説得するリムだったが、サクラとluckyはそれを認めず、絵を笑いながら答えた。


既に何問か出された状況だったが、リムは終始弄られた。


勝負に負けが確定して以降、穂高は妙に肩の力が抜け、純粋に配信を楽しむ余裕も出て来ていた。


そのためか配信の雰囲気も良く、調子が良い事もハッキリと自覚出来た。


しかし、そんな一時も終わりへと近づき、サクラは最終の評論へと入った。


「はぁ~~、ホントリムちゃんの絵はどうなっているのやら……。

私との練習も相まって、変なギャップが生れてしまったねッ!!

――――それじゃあ、時間も終わりに差し掛かってる事だし、最後の判定に移りたいと思いますッ!!

まぁ、結果は分かり切ってるんだけどね?」


サクラはニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら、最後に付け加え、サクラ以外も、この配信の場にいる者すべての人が結果が目に見えていた。


最初のお題のように、サクラはズイッターへ投票を募り、サクラの投稿へ、最初のお題よりも多い人数が駆け付け、そして最初のお題と同じように簡単に結果が出てしまう。


「――――はいッ! それじゃあ、結果が出たみたいなので発表します!!

じゃあ、もうね、簡単にね? 皆分かってるだろうし……」


「ちょっと、雑過ぎない!?」


まぁ、負けたのはリムなんだろうな……

人物だけちゃんとしてるのは、上手い下手の前に気持ち悪いもんなww

まぁ、でもたった数か月でこの成長だぞ? 凄くないか??

漫画家になるのが夢なんですけど、自信付きましたッ!!

このコラボが終わったとしても、絵を描く配信は続けて欲しいな。


配信が終わるにつれ、コメント欄は感想で溢れ、穂高も気付きもしなかったところで、需要が少し出て来ていた。


(こうゆうのを見つけて……、気付かされて……、配信していくのが楽しいんだよな)


穂高は流れるコメント欄を簡単にさらう様に見つめ、入れ替わりの期間で感じ始めたやりがいを、改めて感じ取った。


まだ何を言えばいいのか、どう気持ちを綴ればいいのか、何も思いついてはいなかったが、約束の時間は少しずつ確実に近づいていく。


「――じゃあ、リムちゃんにも悪いしね!

ちゃちゃっと、発表します~~ッ!! 

勝者…………、lucky先生ッ!!! おめでとう~~~ッ!!!」


分かり切っていた事だが、いざ発表されるとなると、自然と場は盛り上がり、それと同時に穂高の敗北が決定した。


「――――ま、まぁ、自分でも分かってたけどね?」


「でも、リムちゃん凄いよ?

お題の二つ目の方が票数多いよ??」


「面白票ですかね?」


苦笑いで話すリムに、luckyは追い打ちをかけるようなコメントを返す。


「あの、母さん?? 酷過ぎやしません?」


「愛故ですよ? 娘よ……」


最初の緊張が嘘のように、翼は悪乗りを出来るようになり、数少ないリムを弄るキャラクターが、簡単に誕生していた。


「リムちゃん…………。

悲しいけど、これで決まりになっちゃったね? 

――それでは、先生! 負けたリムちゃんに罰ゲームの内容を支持してください!!」


(――――来たッ……)


配信時間も決められている為、そろそろかと穂高は考えていると、その想定通りにサクラは話題を進め、話を翼に振り出した。


「なんでもいいですよ~~?

リムの罰ゲームは珍しいからねッ!? 

――――できれば、恥ずかしい系がいいかなッ?」


サクラは楽し気にluckyへと罰ゲームの内容を迫り、穂高は翼の答えを待ちながら、思考を巡らす。


(――まぁ、こうなる事は薄々気付いてたけどな…………。

はぁ~~、おっかねぇ~~、今すぐ逃げ出したい……。

――――それに、最後の挨拶ぐらいは姉貴にさせてやりたかったな)


考え出すと、短い期間だったがその内容はあまりにも濃く、考え出すと色々な事が思い浮かんだ。


(なんだかんだ、姉貴の頼みで始めたこの配信だったけど楽しかったな……。

傀儡(かいらい)も良い奴ばかりだし……、正体が俺だったって事を告げて、悲しませるのは、やっぱり嫌だな……。

きっと、これから先、想像も付かないような大変な事が起こるんだろうけど、傀儡達にだけは最後まで、俺も真摯に向き合っていこう)


穂高は誰に後ろ指を指されようとも、自分が気に入った、そして姉が愛したリムのファンだけには、真実だけを伝え、謝罪していく事を心に誓った。


「リムさんへの罰ゲーム決めました。

リムさんの中で一番秘密を教えてください」


luckyの声は、今日一番に透き通り、その言葉はハッキリと聞き取れた。


「おッ! いいねぇ~~ッ!!

リムちゃん、できるだけ恥ずかしい話ね??」


luckyの提案で、サクラ、リスナーとも盛り上がる中、穂高はゆっきりと深呼吸をした。


そして、ゆっくりと話し始める。


「――私……、堕血宮 リムは、実は…………」


覚悟の決まっている穂高は、言葉に詰まることも無く、リムらしい口調のまま話し始めた、そんな時だった。


「まってッ!!」


リムの声は罰ゲームを提案したはずのluckyの声に遮られる。


全てを打ち明けるつもりだった穂高は、その突然の出来事に驚き、話し始めた自分の話を一度止めた。


「――やっぱり、罰ゲームを変えましょう!

実は、リムさんに昔からやってほしい事があったんです」


「えッ……?」


luckyの急な提案に穂高は思考が付いていけるはずもなく、思わず声を漏らし、luckyは口調は明るく、軽い形でそれを提案した。


そんな状況の中だった。


ジスコードに着信が入る。


lucky  もういいです。


頭が回っていない穂高は着信に気づき、それに導かれるように、翼のメッセージを見た。


「リムさんって、シチュエーションボイスってまだとった事なかったですよね?

それを取ってほしいんです。

私好みのシチュエーションで…………」


おぉッ! いいねぇ~~

確かに、そっちの方がいいな!

リム、恥ずかしがって、やりたがらなかったからなぁ~~


luckyの提案は最初のものより好意的であり、リスナーもそれを望んだ。


次々といろんな事が決まる中、穂高は最低限の反応しか返すことが出来ず、遂にはそのコラボはそれで終了した。

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