第34話 姉の代わりにVTuber 34


「それじゃあ、今度はリムちゃんね?

準備はいいかな? 

――――それでは、どうぞッ!!」


サクラの声に合わせ、今度はリムの絵、穂高(ほだか)の描いた絵が画面上に映し出される。


そして、その配信は一瞬にして静寂に包まれ、少しの間を置き、弾けたようにコメントが流れ出す。


エッッッッッッ!!

エロ過ぎんだろwwwwwwww

これは大丈夫なのか?ww


「ちょっとリムちゃんッ!?!?

この絵はエロ過ぎるよ~~ッ!!」


サクラは出された絵の衝撃に一瞬黙り込んでいたが、吹き出したように大声で笑いだし、リムの絵を指摘した。


「だ、大丈夫、大丈夫これぐらいなら」


サクラに指摘されたリムは少し慌てた様に答える。


コメント欄を見ても、アウトの意見が多く、luckyとはまた違った形で盛り上がりを見せていた。


そんなコメント欄を確認しながら、自分の絵をどうアピールするか考えていると、裏で起動させていたジスコードに着信が入る。


穂高は配信の際にモニターを三台活用し、一台はジスコードの画面をずっと表示してあり、緊急事態に陥った際でもすぐに、マネージャーである佐伯(さえき)と連絡を取れるようにしてあった。


そして、メッセージを確認する為、ジスコードのモニターへと視線を移すと、そこには今、同じように配信しているであろう翼(つばさ)から、メッセージが飛んできていた。


lucky   公開セクハラですか?

      正体をバラさせた後、警察に突き出します。


(辛辣過ぎるだろ…………)


翼は配信で、luckyとしては言えないであろう言葉を、わざわざ文章に起こし、穂高にメッセージを送っていた。


演者、視聴者共に賑わうリムの提出した絵は、先程のluckyの絵とは打って変わって、違う魅力で勝負していた。


夏という事で舞台は、これまた王道の海。


そして、もう一つのお題は美少女という事だったが、リムの絵のそれは少女というには、少し発育が言い様にも思えた。


「リムちゃんッ! これ、もう少女じゃないでしょッ!!

上手いけどもッ」


サクラはまだ笑いが抜けきらない様子で、リムにそう発した。


「いや……、でも、最近、こうゆうちょっと悪ガキっぽいの流行りじゃない?

好きな人多いでしょ?」


「だからガキに見えないってッ!!」


リムの説得ではサクラは納得せず、もちろんリスナーも納得しなかった。


衝撃を与えたリムの絵は、いかにも攻めたポージングをする女性が真ん中に描かれた。


背景を海、そしてそんな海を背に女性は描かれ、正面を向く女性は挑発的な表情を浮かべ、まるで絵を見ている者を、おちょくるような雰囲気を纏っていた。


そして、その自信満々にも思える女性は、一枚だけ羽織っているかのように思える黒い、薄いタンクトップを脱ごうと、服を下からたくし上げ、肌が大きく露出していた。


下はショートパンツを履いており、背景にも力を入れたluckyとは打って変わって、リムは主役である女性を丁寧に描き、そこで一点勝負を狙っていた。


しかし、そんな構図を選び描いた穂高には、明確な理由があり、自身の好みのまま描いたわけでもなかった。


「――え、えぇ~~と、じゃあ、リムちゃんにもアピールポイント聞いていこうかな?」


サクラはリムの絵を笑ってはいたが、絵自体を貶すような発言は一切なく、むしろ構図は彼女の趣味なのか、気に入っているような節も、少し見て取れた。


「この絵のアピールポイントっていうか……、もう見たまんまなんだけど……。

まともにやっても、母さんに勝てないのは目に見えてるから、少しでも票が集まりそうな絵に振ってみました。

何だかんだこうゆうの男の子好きでしょ?」


「リムさん、汚いです……」


「か、母さんだってこうゆう絵描くでしょッ!?!?」


思わぬところから反論が入り、穂高はリムにリンクさせながら、本音を零す。


ただ、穂高の取った策は最良であり、こういった手しか取れないのが現状でもあった。


なぜなら、練習期間といっても二週間程しか取れなかったのが現状であり、その期間も取った練習と言えば、徹底的なアニメ調の絵ばかりだった。


背景など当然かけるわけもなく、配信で上がっているリムの絵も背景は簡単な物だった。


リムの絵アカンやろ…………

下乳見えてんじゃねぇかッ! エロ過ぎ!!

でも、しっかりとツボは抑えてるよなww


翼からはドン引きの絵ではあったが、コメント欄では支持をする声もしっかりとあった。


「いや~~、これ……、サクラのチャンネルで企画しなくて良かったよ~~!

ちょっと際どいもんねッ? ZoutubeからBAN食らうかもしれないしね」


これぐらいなら…………、いや、でもその気持ちも分からんでもない

Zoutube君はピュアだからねww


「そうだよ~~、ピュアピュアだよ~~ッ、ホントに~…………。

それじゃあ、作品も出揃った事だし、リスナーの皆にどっちが好みか選んで貰おうかなッ!

ズイッターで投票を開始するから、みんな私のレスから投票してね?」


Zoutubeを若干弄りつつも、紹介と解説を終え、遂に一つ目のお題に対して、評価が下されることになった。


様々な意見を呼んだ、リムの絵だったが、穂高はその選択を取った事を後悔はしていなかった。


(このお題で勝てなかったら、もう今日は勝てない……。

二つ目のお題は即興……、増々勝てる見込みは無いだろうし…………)


すぐに投票結果が出る事は無いが、サクラがズイッターに投稿してから動悸が激しくなる。


(負けたら引退…………)


引退させるつもりは一切なく、手を緩めることなく準備をしてきた穂高は、ここにきて急に実感が沸き上がる。


負けた時の事、そしてこの配信の結末も想像できないまま、その時は唐突に、無情に訪れた。


投票の時間はlive配信という事もあり、そこまで大きく時間を割けなかった。


その為、投票は15分という時間で区切られた。


「おッ! だべってたらあっという間だねぇ~~ッ!

それじゃあ、15分経ったから結果を見てみよ~~ッ!!」


サクラは投票の間も時間を潰すように話を回し、基本的には、あまり表に出る事が無いluckyに対しての質問が主な時間の割き方だった。


同じ立場でもあるサクラは視聴者の聞きたいポイントを押さえ、穂高はそんなサクラを見て、本当に今日、彼女が立会人としてこの場にいる事をありがたく思った。


(――――もし、ここで負けたとしても、最後までリムらしくッ!)


今日の配信では、エンタメの部分にリムを振り切れていなかった穂高は、サクラに感化され、覚悟を決めると自然と気持ちも落ち着いた。


そして、サクラは運命を決める投票結果を読み上げる。


「えぇ~~~と、あッ……、出てるね!

それでは、発表します応募総数22368! 勝ったのはッ!

lucky先生ですッ!!」


何も知らないサクラは、その事実上、リムの死刑宣告となる発表を、場を盛りやがるように発言し、穂高はその発表を聞くと大きく深呼吸をした。


すぐにリムの成り代わりの公表をする事実を受け止め、先ほど決めた覚悟を守るため、冷静にただ事実を受け止めた。



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