第33話 姉の代わりにVTuber 33


「それじゃあ、リスナーと今回の内容について確認していこうかッ!」


サクラがそう言葉を発すると、配信画面は切り替わり、事前に作られていた資料が画面に映し出される。


その映し出された資料は簡潔で、事情も知らずに訪れたリスナーにも分かるように作られていた。


サクラが画面に映し出されている、今回の企画の細かなルール等を読み上げ、その後ろでスライド式の資料をリムが操作し、テンポ良くリスナーに説明していく。


「――――とまぁ、こんな感じかな。

勝ち負けは視聴者さんの投票で決まるから、ぜひとも見ているリスナーさん達はズイッターの投票に参加してねッ!?

そして、もちろんッ! 負けた方は、罰ゲームはありだよ~~~!!」


サクラの言葉にコメント欄は沸き立ち、罰ゲームに興味を示す視聴者が多数だった。


穂高のあまりにも突発的な一言で、企画された今回のコラボ配信だったが、視聴者も巻き込む形で盛り上がることが出来、皮肉にも配信としては成功していた。


「いくら練習したとは言え、リムちゃんは素人だからねぇ~~。

厳しいとは思うけど……、でも、見たい罰ゲームはlucky先生なんだよねぇ~~」


サクラ、悪い笑み出てるぞww

まぁ、確かにlucky先生の罰ゲームは見たい

リムの罰ゲームはこれから先も見る機会はありそうだしなww


(よく言ったッ!! サクラッ!!)


サクラは何気なしに、ただ興味本位で零した言葉だったが、負けられない理由がある穂高は、サクラの言葉に感謝した。


コメント欄でもちらほらと、翼の罰ゲームを求める声が上がり、サクラの言葉に状況が少し変わりつつもあった。


「私の罰ゲームは面白くないですよ。

やっぱり、普段からそういった事に縁の無さそうなリムさんが、受けるべきかと思います。

実は私、今日の配信の為に、皆さんが喜びそうな罰ゲームを考えてきました」


「え…………?」


サクラの言葉に一喜一憂していたリムは、翼の発言を聞き逃し掛けた。


そして遅れてくる思考に、ようやく理解が追い付き、思わず声を零した。


「えぇ~~ッ! 何かな~~? 気になるッ!」


冒頭数十分、打合せ数時間にも及ぶ交流で、サクラは翼に対してもキャラブレしなくなり、配信当初は敬語も少し抜けきれないところもあったが、今は彼女らしい口調に戻っていた。


そして、サクラは親しげに翼に追及するように尋ね、翼の発言にリスナーも興味深々といった状況だった。


「――――まぁ、それはリムさんが負けた時のお楽しみです。

きっと、皆さん後悔しないと思いますよ?」


翼(つばさ)も配信の雰囲気に段々と慣れて来たのか、言葉もすらすらと饒舌になっていた。


翼自体、元々有名人ではあった為、イベント等に出る事もしばしばあり、そして、お嬢様でもある事から、名家の付き合い等でも様々な人と交流もあった為、そもそも人前で話す事に関しては、そこまで抵抗も無かった。


(罰ゲームってあれだよな……?

この配信で負けたら、リスナーの前で公表しないといけない罰ゲームなのに、嬉々として喋るなんて…………。

やっぱり…………このお嬢様、頭がおかしいッ!!)


穂高は翼の神経に恐怖を感じた。


「リムちゃんも罰ゲーム考えて来たんだよね?

楽しみだな~~~!

――――ではッ! 運営さんからも早く本題に行けと指示が飛んできちゃったので、早速、一つ目のお題に参りたいと思いますッ!!」


指示とかバラすんかww

キタキタッ!


サクラの声に合わせる様に、穂高は画面を操作し、お題と内容をリスナーに見える様画面に表示させる。


「一つ目のお題は、夏ッ! 美少女ッ!!

――――――っという事でね! このお題に関しては、前日からお二人に連絡しまして……、昨日ッ!!

お二人にこのお題に沿ったイラストを一枚! 提出していただきました!!

えぇ~~~、お二人には、提出いただいたイラストのアピールポイントなんかを……、是非、言っていただいて。

プレゼンしてもらえればなと思います!!」


楽しそうにサクラは、お題のおさらいをしつつ、場を盛り上げる様に本題へと入り始めた。


「ではッ! まずは、先生から!

早速、一枚目のイラストを見てもらいたいと思います!! どうぞッ!!」


サクラの声に合わせる様に、穂高は画面を操作しながら、翼の一枚目のイラストを画面に表示させる。


(すげぇ…………)


配信の関係から、このコラボ配信が始まる前に、穂高は一足に先に、luckyのイラストを見ており、その絵の破壊力を身をもって既に体験していたが、改めて、画面に表示される彼女の絵を見て、思わず心の声を漏らす。


「――――うおッ! これは…………、ちょっと、lucky先生……。

本気だね!」


同じ絵師であるサクラも、思わず心からの驚きの声を漏らし、打合せではluckyの絵を見ていない為、その衝撃をもろに食らっている様子が、配信でも見て取れた。


やべぇぇぇええッ!!

エッモッッッ!!

可愛すぎるww


翼の絵が画面に表示されると、コメント欄はコメントを拾えない程に、凄まじい勢いでコメントが流れていき、当然と言えば当然だが、彼女の絵を絶賛する声ばかりが、コメント欄に流れた。


翼は、夏祭りに訪れる少女を描いており、お題の通り夏を連想させ、描かれている少女は、お題の通り美しく、年相応の幼さを持った可愛らしい少女が描かれていた。


また少女は、満面の笑みを浮かべ、片手には屋台で売られていたと思わしきりんご飴を持ち、もう一方には巾着袋を下げ、濃い青色を基調とした着物を纏っていた。


そして、底抜けに明るい笑顔は、まるで絵を見ているこちらに向けられているようにも思え、その絵に映る美少女とデートに訪れたような、そんな錯覚すらさせる構図だった。


こんな青春を送りたかった…………。

髪をお団子に纏めてるやんけッ!! 可愛いぞ…………

めちゃめちゃ、lucky先生の絵っぽいわww

髪を束ねる髪飾りまで、こまけぇwwww


早くも翼の絵に心を奪われたリスナーでコメント欄は、埋め尽くされ、そんな空気の中、サクラは進行を進める。


「もう解説はいらないね! 普通にお金払って買う絵だよッ!!

夏祭りの背景まで…………。凄いねッ!!」


サクラの言う通り、写真の様に描かれたその絵は、夏祭りに関するものが沢山描かれ、あくまで主役は真中に描かれた美少女ではあったが、それでも気にせずにはいられない程の細かい書き込みだった。


「lucky先生! では、簡単に絵の解説とアピールポイントをお願いします」


サクラは興奮した勢いそのまま、翼に話を振り出す。


「え、えぇ~~と……、な、なんか自分の絵を解説って……、恥ずかしいですね。

――ま、まずは、サクラさんにも触れていただいた通り、背景にはこだわって書いて。

後、お題は美少女という事で、少女なんですけど、私、着物の首元が好きで、そこはどうしても見せたくて書きました。

――――ちょっと、汗ばんでるのがポイントですかね」


翼は恥ずかしそうにしながらも、四方から褒められているのは、嫌でも伝わり、嬉しそうに答えた。


「――なんか、先生エロいよ」


「えッ!? あ、いやッ! 変な意味では無いですよ?

可愛らしいって意味合いです」


ニヤニヤと悪い笑みを浮かべながら、問い詰めるサクラに翼は珍しく動揺したように、慌てて答える。


lucky先生って、可愛いですね(真顔)

声も可愛いし、絵も可愛い……、きっと……顔も可愛い………………

絵よりも先生に対してのコメント多すぎだろw

汗ばんでるの凄いな! 汗も自然だし、髪が少し肌に付いちゃってるのがいいねッ!!


「いや~~、lucky先生の絵は凄いですねぇ~~。

構図が良いッ!! もうずっと昔からそうだもんね!?

幸せよ…………。

――――じゃあ、ある程度余韻に浸ったところで、今度はリムちゃんッ!!

行ってみようかッ!!」


サクラの声は高らかに、翼の絵で配信の盛り上がりをそのままに、リムの絵へと話題を進める。


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