第32話 姉の代わりにVTuber 32
◇ ◇ ◇ ◇
lucky コラボ当日。
穂高(ほだか)は、コラボが決まって以降も練習を続け、約束の日を迎えていた。
サクラに関して言えば、5回にも渡るコラボで練習に付き合ってもらい、それ以外にもオフの日であっても、穂高の完成された絵を見ては、細かくダメ出しをしていた。
その生活はまるで、リムを引き受ける前に行っていた練習の日々と同じであり、場所を構わず穂高はコラボに向け準備をしていた。
(後、二時間後か…………)
配信の始まるギリギリまで練習を重ねていた穂高は、時計を見て、ふと時間がどんどんと差し迫っている事に気づく。
(お題は、運営から出されるとか言ってたか…………)
穂高は頭の中で今回のコラボの内容について、改めて整理し始めた。
今回の穂高と翼(つばさ)の配信は、絵の勝負とざっくりとした内容で銘打っており、配信に訪れるファンに対しても、そこまで気負ってもらう事なく、配信を楽しんで貰いながらも、どちらが好みの絵柄か意見して貰うといったものだった。
協議を重ねた結果、勝負の内容としては、コラボの三日前に運営からお題を出され、そのお題に沿った絵をコラボの前日に提出し、コラボ当日にリスナーに評価して貰うもの。
そして当日、また違ったお題を運営から出され、ライブ感で絵をお互いに書いていき、またリスナーに評価してもらうといったものだった。
事前提出は既にお互いに終わっており、お互いに絵の手直しは既に出来ない状況にあった。
「お題は夏、美少女…………。
あまりもザックリし過ぎな気もするけど、一応、コラボの配信だしな。
視聴者にも楽しんで貰わないといけないわけだけど……」
穂高はコラボ内容を再度確認するため、一度、絵の練習を止め、携帯を操作し、今日の配信の詳細を見る。
lucky先生とお絵描き勝負! with 巫(かんなぎ) サクラ
堕血宮(おちみや) リムのチャンネルで配信予約がされているタイトルには、そう表記されており、勝負に集中して欲しい運営から、解説、実況、あるいわ進行の立ち位置に、同期のサクラを招く予定になっていた。
今後のリムの運命を決める配信でもあったが、あくまでエンタメとして行わなければならず、本気の二人に対し、場を冷まさない為に、サクラをキャスティングしていた。
翼自体もあまり表立って、公の場に出た事はあまりなく、luckyとしてZoutubeの配信に出るのも初めてだった為、話題性もあり、それなりに視聴数の取れるコラボとして運営も見込んでいた。
(唯一救いなのは、今回の一件で急に関わりが強くなったサクラが、進行を引き受けてくれる事が救いだな……。
余計な事に思考回す必要もなく、サクラとのコラボはもう慣れても来てるし……)
コラボの回数も増えた為に、サクラとのやり取りにも慣れ、美絆(みき)のお墨付きまで頂いている状況だった。
成代わりをして、既に何度か似たような緊張感で、配信を行った事のある穂高は、不思議とそこまで緊張を感じず、今日のコラボに集中することが出来た。
そして、その時はすぐに訪れる。
◇ ◇ ◇ ◇
「ハロハロぉ~~ッ!! みんな、こんばんみッ!
巫 サクラだよぉ~~!
なんか、リムちゃんの配信で私から挨拶するのって、変だねッ!
でもまぁ、今日はサクラが進行役を引き受けちゃったから、仕方無いんだけどねぇ~~。
乗っ取りだぁ~~~ッ!!」
サクラの持ち前の明るさでいよいよ、リムの配信が始まった。
配信の数十分前から、lucky、リム、サクラで配信の流れを確認しており、配信慣れしているリムやサクラに比べ、luckyは少し緊張していた。
視聴者数はコラボという事もあり、かなりの人数が見込め、初Zoutubeお披露目という事で、luckyの事を知る視聴者、あるいは彼女のファンも多く視聴に訪れた。
そして、前置きという形で数分、サクラが場を繋ぐと、すぐに本題へと移る。
「それじゃあ、選手の紹介と行こうかッ!!
あ~~かこぉなぁ~~~、堕血宮~~、リィィイイムゥゥゥゥウウッ!!!」
サクラは少し幼げのある、可愛らしい声で元気よくリムの名前を呼び、サクラの呼びかけを合図に、穂高はマイクを入れる。
「サクラ……、仰々しいよ…………」
ハイテンションなサクラに対して、リムはテンション低く、苦笑いを浮かべながら会話に入った。
「いやいや! リムのママとのコラボだよッ!?
テンション上げないと~~!!」
「ま、まぁね…………。
なんだかんだで、皆の前でお母さんと話すのは初めてだしね」
自らの母に勝負を挑んだリムの公開処刑
死刑執行ッ!死刑執行ッ!
リムのテンションからして、何かしらの罰ゲームはありそうww
「もう、コメント欄が物騒なんだけど…………」
「しょうがないよね~~、動画のサムネイルにも勝負って書いてあるし……。
あのlucky先生に勝負を挑むなんて、命知らずだねッ!? リムッ!」
リムの登場からコメントの流れるスピードが変わったが、どれも流れるコメントは悲惨なものばかりで、穂高も簡単に拾う事が出来ていた。
「じゃあ、リムちゃんッ!!
皆も先生の登場を待ってる事だし、ちゃちゃっと、今日の意気込みを一言ッ!」
「――――これ、あたしのチャンネルだよね……?
え、えぇ~と、お母さんを倒しますッ!!」
反抗期ww
リムの扱いが日に日に雑になってるなサクラww
lucky先生~~ッ!! lucky先生をはよ呼べ~~~ッ!!!
「リムちゃん……、元気でね…………。
――――さぁッ! それでは、本日の主役にご登場いただきましょうッ!!
サクラも、同じ絵を描く者として、尊敬しています……。
lucky先生ですッ!!」
うぉぉおお!! 先生~~~ッ!!
まごう事なき主役ッ!!
青コーナー飽きてて草
サクラの掛け声により、リムが登場した時よりも多くのコメントが流れ、luckyを歓迎する声が多く流れた。
そして、遂に配信に彼女の声が入る。
「皆さん、始めまして、こんばんわ。
絵を描いています、luckyです……」
声は少し震え、緊張しているのが穂高やサクラには伝わったが、それでも彼女の立場のせいか、初めてにしては堂々と、ハッキリと声も聞こえていた。
先生~~~ッ!!!
声可愛い!!
先生の画集買いました! 家宝になりました!
luckyの名前は、堕血宮 リムの母として有名なだけでは無い事が、コメント欄で伝わり、リムと視聴者との繋がりが、コメント欄で深く理解できた。
「lucky先生~~~! 初めまして~! 巫 サクラです!
先生の画集、三冊買いました!」
な、なんか俺らがおるぞ……ww
普通にファンやんけ!ww
「あ、ありがとうございます~。
私もサクラちゃんの、パップル先生の絵、好きで見させていただいてます」
lucky先生もサクラの絵を見てたりするのか……。
パップルって、サクラが絵師をしている時の名前だっけ?
まぁ、両方有名だしな……。
「えぇぇ~~ッ! あ、ありがとうございます!!
ちょ、ちょっと先生……、打合せの時に言ってくださいよ~。
リアルに嬉しくて、気が動転しちゃいます」
「さ、サクラ! 凄い余所行きみたいな声になってるから!!」
サクラとlucky先生、あんまり交流無かったからなぁ~~
リムが置いてきぼりにww
てぇてぇやんけッ!!
「今日はlucky先生の絵。
楽しみにしてます!! 勉強させてください。
そして、世間知らずなリムちゃんに、制裁を…………」
「趣旨が違うでしょッ!!」
早くも二対一の構図ww
もう勝負あったんだがwwww
リムの配信は楽し気な雰囲気を纏ったまま、今回の配信の本題へと移っていく。
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