第30話 姉の代わりにVTuber 30
◇ ◇ ◇ ◇
サクラ なるほどぉ~~、lucky先生と絵のコラボ……
穂高(ほだか)は、翼(つばさ)との一件の後、ジスコードを開き同期のサクラへメッセージを送った。
普段であれば、裏でのやり取りはすべて、姉である美絆(みき)が起こなっており、穂高もメッセージを送った事が無いわけではなかったが、それでもやり取りは数える程しかなかった。
サクラ 絵で勝負って、リスナーさんに投票でもしてもらうの?
リム そんな感じ……。
それで、サクラに絵を教えて欲しいんだ。
サクラ 絵を教えるって言ってもなぁ~~。
教えた事ないし、元々は趣味の延長だったし……。
学校で習うような事しか教えられないよ?
リム ごめん、その学校で教わる事だけでもいいから、教えて
サクラ う~~ん、しょうがないなぁ~~。
リムの頼みだしねッ!
穂高は自分も同じ配信者な為、サクラの忙しさは身をもって知っており、断られる可能性も理解していたが、何とか願いを聞き入れてもらい、協力して貰う約束を取り付けた。
(まさか、こんな事で同期と絡んでいく事になるとは…………)
そんな事をふと考えている時だった。
サクラ じゃあさッ! どうせなら配信でやっちゃおうよッ!!
「はぁッ!?」
ジスコードの着信に気づき、画面へ目をやると思わぬメッセージが流れており、穂高は思わず声を上げる。
(いやいや、待て待て! 無理だろ……。
いずれはメンバーとも絡まないといけないとはいえ、しかも、先生とあんな事があってコラボとか印象悪すぎる……)
リム は、配信はどうだろ~~。
ただひたすらに絵を書くだけだし、リスナーもあんまり見ていて面白くないんじゃ……
サクラ 大丈夫だよ~~! 私、絵を書くだけの雑談配信したことあるから~!
おしゃべりしながら楽しいよ~~!!
リム え、えっと……、ほらッ! サクラも配信したい事とか他にあるだろうし!
私が何枚か描いた絵に、指摘書いてくれるだけでもいいからさッ!!
サクラ えぇ~~、何それ~~。
復帰してからコラボ一回も無いし、いいじゃん~~。
――――それとも、サクラとコラボしたくない??
(ま、マズいッ!!)
穂高は角が立たないようにコラボを断ったつもりだったが、少し強引過ぎ、サクラに妙な気を遣わせた。
(これ以上、断わって仲が拗れでもしたら……。
や、やむを得ないか…………)
リム そ、そうだね。
コラボ、久し振りにしようか……
穂高は震える手でキーボードを叩き、コメントを送信した。
サクラ おっけ~~ッ!! それじゃあ、明日からッ!!
よろしくね~~!
「終わった…………、色々と……」
全てがまずい方向へと進んでいく穂高は、生きた心地がしなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「アハハハッ! なるほどねぇ~~、そんな事になったかぁ~~」
穂高は事の経緯を姉に電話で伝え終えると、大きな笑い声と共に一蹴された。
「わ、笑い事じゃねぇだろ!
コラボで同期にバレれば終わり、更には先生との勝負に負ければ、リムの担当降りられちゃうんだぞ?」
他人事のように笑う美絆に、穂高は若干頭にきながら、姉に言い返す。
すると、長い時間笑っていた美絆はようやく落ち着きを取り戻し、ヒィヒィと笑いによって乱れた呼吸を整えようとしながら、話し始めた。
「こりゃぁ、姉弟揃っての謝罪かね~~」
「――また、他人事のように……」
まるで危機感の無い姉に、穂高はため息交じり答える。
「まぁ、実際私にはどうしようも無いしなぁ~~。
――――でもさッ! 前にも言ったとは思うけど、この策を取った時点でいつでも覚悟は決まってるよ?
それは、佐伯(さえき)さん達も同じでしょ?」
「まぁ、俺はバレても覚悟は決まってるけどさぁ……」
穂高は翼に言われた事で、心に引っ掛かる箇所があった。
そんな思うところがあり、自然と声のトーンが暗くなった穂高に、美絆は気づく。
「なんか思うところがあるの?」
美絆の言葉に穂高は一瞬それを言うか躊躇ったが、姉の意見も聞いてみたくもあった為、そのまま素直に言葉にした。
「先生に言われたんだ……。
視聴者を騙してるって…………。
忙しさにかまけてたけど、その実感あんまり無くてさ。
言われ気づかされたというか…………」
「ふ~~ん。 罪悪感?」
「あぁ、まぁ……そんなもん」
穂高は自分がこういったもののファンをやったことが無かった為、あまり考えた事もなかったが、それでも騙された事を知ったファンの心理を、想像することは容易にできた。
「んん~~。アンタさ、何か勘違いしてない?」
「は?」
「リムのファンってさぁ、そりゃあ、『チューンコネクト』の箱推しのファンもいるだろうけど、私のファンなんだよ?
私のファンなんだから、私が決めた事で振り回したって問題ないわけ」
「――――なんだよその暴論」
美絆のどこまでも自分勝手な言葉に、穂高は思わず乾いた笑みが零れた。
「ファンへの不義理なんて、アンタが考えなくてもいいって事!
それに、騙してることが気がかりなら、バレなきゃいいでしょ? 最後まで……。
私とバトンタッチを果たすまで」
「バレなきゃ問題にならない理論か?」
「そッ! 大体、入れ替わりしてもう数週間だよ?
気づかなかった傀儡にも問題あるよね~~。
それくらいのお茶目許してくれなきゃ!」
言っていることはめちゃくちゃな美絆の言葉だったが、何故か穂高は自然と勇気付けられた。
罪悪感は拭えなくとも、少し気持ちは楽になり、姉の言う通りやってしまった以上、最後までバレない事は自分の責任であると、改めて重く実感した。
「それに私はアンタだったら絶対にバレない自身があるから、大切なリムとリスナーを託したの。
今でも、判断は間違ってないと思うし、コラボもアンタなら上手くいくでしょ?」
「まぁ……、自信しかないかな」
穂高は自然と笑みを零しながら、美絆の言葉に答えた。
「言うじゃん。 お手並み拝見だねぇ~~」
「――――お手並みを見せるのは良いけど、姉貴。
姉貴も全力で協力して貰うからな? バレないために」
「げッ……なんか、その含みある言い方、嫌な予感しかしないんだけど……」
穂高は他に伝えていなかった翼の事を話し始める。
「先生って、姉貴の事好きだよな?
――その、likeじゃなくてloveよりに……」
「あ、アンタまさか…………」
穂高のその後に、告げられた言葉に美絆に戦慄が走った。
◇ ◇ ◇ ◇
「そこ違うッ!! 無駄な線書き過ぎッ!!」
サクラとのコラボは、穂高の思っていたものとかけ離れた。
配信が始まる数分、絵の描き始めはサクラと談笑しながら、楽し気に女性配信者がキャッキャッと楽し気に行うものだったが、ものの30分も経たぬ内に、スパルタ教室へと変貌した。
「えッ! あ、ご、ごめん。
下書きだからつい……」
「下書きだからって無駄な線を書き過ぎると、いざペン入れした時にどれが正しい線かわからなくなるでしょうがッ!」
サクラスパルタ過ぎて草
いつもはリムが優位に立つことが多いけど、こんな事になるとは
普通に絵の教室じゃねぇかwww
「リムちゃん、下手だね……。
週二日で絵の配信をするつもりだったけど、週三日に増やそうか?」
「す、すみません」
ストレート過ぎww
再来週にlucky先生とコラボするんだっけか??
リムとluckyのコラボは既に公表され、ファンもその事については知っていた。
「リムちゃん、配信外でもきちんと練習するんだよ?
線画はいいから、ひたすらラフね?
次の配信の時にそのラフを提出する事」
「は、はい……、頑張ります」
普通に宿題出されてるやんwww
リムは何を目指してるんだっけか?ww
俺はリムの絵も普通に上手いとは思うけどな~~
穂高はその日、ボロを出すことはなかったが、サクラのいつもとは違う一面を目撃した。
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